第2話 能ある虎は夢を見る
私はある日ある時人だった。
そしてある日ある時生まれ変わって虎になった。
ここまではよくある話。
いや!ないないないない!!!
なんてツッコミは受けない。
そして私にも婚期が訪れ、求婚者をちぎっては投げ、ちぎっては投げをくりかえしてたら婚約者ができた。
そこ!おかしいとか突っ込まない。
前世なら間違いなく後ろ指を差されていた事だろう今世の私。
何故なら……。
「ミャ〜ン」
猫……猫?のように甘えた声で擦り寄る我が婚約者殿。
「ミャウーン!」
私の足下に野鼠を置いて、『褒めて褒めて!』と尻尾をパタパタする婚約者殿。
ゴロゴロゴロ……。
『早く早く!』と頭を私の前脚に擦りつける婚約者殿。
私の何回りか小さい白虎がこちらを薄青いキラキラした目で見上げてくる。
私は仕方なしにべろり、とその顔をひと舐めする。
私の舌はこの小さな白虎の頭と面積はそう変わらない。
寧ろ、私の舌の方が大きい。
そう、私と婚約者殿とは年の差婚というモノを将来的に見据えた関係である。
そしてこのご機嫌な婚約者殿の行動は、保護者に狩りの成果を見せる自立前の子供、ではなく、幼いながらも夫の甲斐性を私にアピールしているようである。
最初に私なりに偉いねー、もう狩りができるんだねーって褒めたらショックを受けたらしく、婚約者殿のお母さんに教えて貰うまでずっと恨みがましい目で見つめられ続けた。
彼はどうやら新婚さんの積りであるらしい。
お陰で普通にすれ違う
誰彼構わず威嚇するのはやめてほしい。
最近族長のこちらを見る目が痛いのだ。
生ぬるいような、悲哀を込めたような、どこか諦めたような。
そりゃあ、可愛い我が子が年増の嫁(予定)を貰った挙句、態度が悪化したら何事かと思うだろう。私だって思う。
今後の育児方針について、今度族長にお話を伺いに行こうと思う。
とりあえずは、と木の根元にごろりと横になれば、野鼠を加えた婚約者殿がトテトテと付いてくる。野鼠を私の前に置き、身繕いしたあと、私の身繕いに入る。
と言っても、所詮は仔虎である。
察して欲しい。
ちなみにこれは普通は
仔虎の将来がちょっぴり不安になった瞬間である。
そして気が済んだのか、今度は私の喉元を甘噛みする。時々食らいついたまま離さず、歩く私のストラップよろしくぶら下がる。
間違ってもペンダントトップではない。
携◯やスマ◯にやたら存在感を主張しているアレである。
婚活の一件以来、相手の喉に噛み付く事が愛情表現か何かと勘違いしている節があるようで、変な噛みグセが付いてしまった。
いずれ矯正せねばならない。
そして、色々満足したらしい婚約者殿は
因みにこれも
一度、何処まで「待て」ができるのか、試してみた事がある。
日が傾いたところで私が根負けした。
スリ……
私の顎に婚約者殿の小さな頭が擦りつけられる。
「…………」
(最近、婚約者殿のあざとさが増した気がするのは気のせいだろうか……)
私の中の
可愛いければ、それでいいじゃない!!
「それもそうだ」
「ミャウ?」
思わずの即答に可愛い婚約者殿が首を傾げる。
「何でもない」
べろり、と小さな頭を舐めると小さな婚約者殿は満足したのか、前脚の内側に頭を突っ込む。
最近見つけた彼なりのベストポジションらしい。
もそもそと態勢を整え、小さな欠伸を一つする。
そして私達は夢の中へと旅立つのだ。
いずれ、婚約者殿も婚期が訪れれば本当に好きな相手ができるだろう。
それを思うと少し寂しい。
(できれば、この子とお似合いの可愛い子がいい……)
そうすれば、私の萌えは2倍になる。
もし婚約者殿が結婚したら、私も相手を捜すとしよう。
何せ、私は逞しい父と美しい母の子だ。母は未だに美しい。時折他のムラの
そう思えば希望も持てる。
かぷり
うっすら目を開けると何かにうなされているらしい婚約者殿が難しい顔のまま私の喉に噛みつきながらうなされている。
ちょっぴり痛い。
最近顎の力も強くなってきたなとしみじみと我が婚約者殿の成長を実感しながら眠りについた。
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