挿絵担当

「ねえ、お兄ちゃん」

 傾いた陽射しがぼくの部屋の壁を照らす。

「どうした、イズミ」

 イズミは部屋に散らばった本や収納棚、数シーズン前の洋服や役目を終えたガラクタの電化製品つくられた丘の上に座っている。

「ひどくひま」

 お掃除中の部屋にやってきたのが悪い。

「手伝うかね。正直、猫の手でも借りないと夕飯が遅くなってしまいそうだ」

「にゃー」鳴いた。

「どうした」

「猫の手がご所望ときいたので」

 胸の前で腕を寄せたような猫っぽい構え。

「ぼくとしては、猫より妹の手の方を所望したいところなのだけど」

「妹ハンドならそれなりに自信がある……」

「重畳です」

 イズミをだまくらかし、労働力が倍になったところで作業再開。

「部屋、なんで散らかってるの」

「棚の中もきちんと整理し直そうと思って、ひととおり物を出したからね」

「ふーん」

 そういうと、イズミはベッドの下に棚の裏、とかく陰になるところへ潜っていく。

「おい、イズミさんなにしてるよ」

「エルロイ本をさがしている」

「残念ながら、お兄ちゃんは犯罪小説に縁がなくてね」

「そうですか」

 さして残念でもなさそうに。

「お兄ちゃんの部屋、女っ気ないね」

 すこしうれしそうな声色で言うと、また潜っていった。

「あ、その箱にあるのイズミのだと思うから持っていって」

「んー」

 ルーズな返答。了承したとのことらしい。

「ねえ、お兄ちゃん。夏休み課題見つけた」

 イズミから受け取る。

『四ねん二くみ はめつイズミ なつやすみ お兄ちゃんかんさつ日記』

 ぶん投げた。

「ひどい……」

「さて、お掃除の続きだ」

「まだ小学一年から中学二年の年までいっぱいある……」

 毎年恒例なのか。担任の教師は怒ろうよ。

「この小説いっしょに読んだ記憶がある」

「恋愛もののライトノベルだな。なんでこれ買ったのかわからないや」

「わたしがえらんだと思う」

 ああ、感想文書かなきゃいけない課題のときか。いま考えるとかなり恥ずかしいぞ。

「せっかくだから、またいっしょに読む……」

「ひとつの本をふたりでか、難しくないか」

「顔を寄せたら大丈夫」

 そう応えるとイズミはぼくの左手側に移動してきた。右ページをぼく、左ページをイズミが担当にでもするのだろうか。

「お兄ちゃんが文章担当」

「イズミは?」「さしえ担当」

 分担の労力比率が天文学的レベルで変だ。

「まあ、別にいいけどな」

 台詞を読む気恥ずかしささえ我慢できればなんとかなるものだ。

「そういや、この小説ってキスシーンにさし絵あったよな」

「ふつつかものですが……」

「さしえ担当ってそういう事だったのね!」

 数時間後、散らかったままの部屋を見てぼくは猫の手の方が良かったなと思った。

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