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「ねえ、お兄ちゃん」

 レンタルした自転車を返却したぼくらは、夕食の買い出しへ向かうことにした。

「お手を拝借してもよろしいでしょうか」

「おことわりします」

「殺生なー」

 涙目になったイズミをあしらい日の傾いたアーケードを歩く。

「お兄ちゃん度ポイントが二十パーセントに減少しました」

「ずいぶんと減少めされましたな」

「殺生八分の損、といいます」

 それは使い方を間違っています。

「そのポイントを取り返すにはどうしたらいいかな」

「夕食をパンケーキとするのであれば」

 イズミの好物。

「そのこころは」

「米がなければ、パンケーキを食べればいいじゃない」

 ロココ調のフランス王室を思わせる返答。確かに、現在我が家のキッチンは局地的な米不足を迎えているけれども。

「それはちょっと正しいかも知れないな」

 ふたりで会話を続けながら、夕方のセールタイムによって人出の多くなってきたスーパーへと足を踏みいれた。

「そういえば、メイプルシロップ切れてた」

「お前が何にでもシロップかけるせいだと、ぼくは思う」

 メイプルシロップなんて普通の家では期限切れになるまで持て余すものだ。

「シロップでぜんぶが甘い恋の味にかわる」

「恋なんてしたことないだろう」

 ぼくも人のことは言えないけれど。

「さてはてお兄ちゃん、恋の妹なぞはご所望ではございませんか」

「はいはい。他に何か買ってこようか?」

「つれない……」

 しょんぼり顔を演じるイズミを連れ、同じ質問をもう一度。

「甘いおかし」

 あんたも好きね。

「他は?」

「いとおかし」

「それは自分の目で見つけような。他は?」

「……新しいお兄ちゃん」

 イタズラな瞳で転生を依頼されるけれど、意に介さずレジで会計を終える。

「優しいのにする?」

「ん……やっぱいつものでいい」

 今回は譲歩するまでが速かったかな。

「毎度」

「どうせなら、ぜんぶはんぶんこがいい」

 そういって、イズミはレジ袋の取っ手を片側だけつかんだ。

「ひとりだけでは重いものも、ふたりならば軽いのかも知れないな」

「よくわかんないよ」

 そう、よく分からない。焦げたパンケーキを分け合うのはきっと辛い。ぼんやり点きはじめた街灯の光にふたりの行方を重ねた。

「けっこう長い一日だったね」

 イズミは呟く。

「まあ、いつでも来れるような場所だけど」

「ん。大切なのはどこに行ったとかじゃない」

「誰と過ごしたか?」

「自分がなにを感じて過ごしたか、かな」

 ぼくが家の門を開けると、イズミははんぶんこのレジ袋を任せ、小走りにぼくを追い越して家の中に入っていった。

 扉を開く。

「はい、お兄ちゃん。おかえり」

 うん。ただいま。

「おかえり。楽しかったな」 

 ぼくはイズミの手をとりそうつぶやいた。

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