第28章 ジンとアーク

(ジンとアーク)


アークの部分「・・・やはりお前だけで来たか・・・」

ジン「ああ、テメーだけは、この俺が直々に相手をしたかったんでな」

アークの部分「それは実に光栄だ。私も同じ事を考えていたんでな」

ジン「初めて意見があったようだな」

アークの部分「そうだな」

ジン「・・テメーを片づける前に、どうしても一つ訊きたかったことがある」

アークの部分「冥土のみやげだ、なんでも訊くがよい」


ジン「ノヴァって奴から俺が作られたとか言っていたが、俺ら人間の感覚だとエネルギーから直接人間を作るってのはピンとこねー。なんか“母体”みたいのがあるんだろ。あの“ザルティメンデ”だって“ギルド管理者”の体を母体としたみたいだしな」

アークの部分「・・母体は確かに必要だ。誰かのDNAが元となるからな。だがそんなモノ、管理者を含めたメビウスの関係者らの精子を使えばよいことだ。基本的なDNA情報を持っていればどんなモノでも良い。ジン、貴様の母体がなんだったか知りたいか?」


ジン「そうだな、土産話に聞いておくか」


アークの部分「・・・お前のDNA情報の母胎、それは私の精子だ。そして私自らがノヴァを使ってお前を作り出した。いわばお前の父であり、母でもある」

ジン「き、貴様が・・俺の・・本当の親父で・・お袋・・・・」


アークの部分「さて、つまらん話は終わりだ。さっさと片を付けよう」

ジン「・・・そうだな。そのためにお前とのサシの勝負を選んだんだからな」


 ジンは剣を構えた。アークもメビウスの心臓部の至る所から口を開けて、攻撃態勢に入った。一触即発状態であった。が・・・


クレス「ジン! あなた、本当にそれでもいいの!?」


 いつの間にかジンの助太刀に来た仲間達が近くにいたのである。彼らは先ほどのジンとアークの会話を聞いていたのだ。


ジン「お前ら邪魔だ、これはタイマン勝負だ! 親だろうがなんだろうが関係ねー!」

クレス「そういう訳にはいかないわ! さっきのアスポルトは問答無用だったけど、こっちのアークは話が出来るわ!」

アイル「少なくともノヴァの野郎程、外道ではないようだ。それにこっちを説得しないとアスポルトが倒せねーんだよ!」

ジン「おめーら、揃いも揃って、あの恐竜野郎1つも倒せねーのかよ!」


ガルダ「ジン様、攻撃が当たらないのであれば、どうにもなりません」

ドクター「とにかくウィルが動きを封じてくれている。後・・・残り約10分の間に、彼奴の謎を解明しないと、俺らだけでなく、お前も終わりだ!」


ジン「・・・しょーがねーなぁ、おい、アーク! てめーを片づける前に、また1つきかねーといけねー事が増えちまった! ま、素直に答えが返って来るとは思ってねーがな」

アークの部分「・・私が融合しているこの制御部分を破壊しなければ、アスポルトにはいっさい攻撃を与えられない」


ジン「お、お前、意外とあっさりしてるな?」

アークの部分「どうせ出来もしないことだ。こちらからのちょっとしたサービスだ。それに制御部分が破壊されても、私は分離可能だ! アスポルトのバリアーは無くなるが、私とアスポルトでも十分お前らを片づけられるわ!」


アイル「つーことは、とにかく、てめーがへばりついている部分を壊せば、彼奴はなんとかなるって事か! だったらこちらから行かせてもらうぞ!」


ジン「まて! こいつだけは・・・こいつだけは俺だけで決着をつけてーんだ!」

クレス「でも! アスポルトをなんとかできるのはここだけなのよ!」

ドクター「片意地張っている場合か!」

ガルダ「ジン様、ここは我らの意見を加味して下さい」


ジン「・・・・まぁ、みてろ。別にそっちの問題を考えてねーわけじゃねーんだよ」


 そう言ってジンはアークの方を振り向いて、拳に気を集中し始めた。


ジン「てめぇは・・・剣じゃ・・なくて・・俺の・・拳で・・決着をつけてやる!」

アークの部分「拳で? なめられたモノだな。それが命取りだということをこれから証明してくれるわ!」


 アークも力を溜め始めた。どうやら双方とも「一撃」で決着をつけようとしているようであった。アークも攻撃用の発射口を全て開いた。ジンも、その場の気を集め始めた。互いににらみ合って光り出す。


 ・・・そして一分後・・・時は動き始めた。ジンはアークに向かって突撃していった。アークも全ての発射口よりレーザーを発射した。全てのレーザーはジンに直撃寸前まで近づいていた。しかし全弾全てが何故か湾曲して逸れてしまった。


アークの部分「な、何故だ! 貴様いったいなにを!」

ジン「・・・・イイカゲンニ・・・・・」

アークの部分「・・・・・・!?」

ジン「・・・・メヲサマシヤガレ!!!!!!」


 ジンは全ての力を拳に集中させて、アークの右頬に拳をたたき込んだ! 「メリッ」と言う音と共に、拳はめり込んでいった。


アークの部分「お・・おま・・え・・何故・・殺傷できる力で・・当て・・・なかった?」

ジン「いいからよく見ていろ!」


アーク心臓部「補助プログラムのサブルーチン部分に異常有り。これより排除行程に移る。サブルーチン経由のプログラムは、即座にメインルーチンのみの構成とせよ。これよりメビウスは、アスポルトと心臓部での構成とする」


 元々のアークの部分はあっさりと心臓部から切り離されてしまった。


アークの部分「・・そんな・・ばかな・・私は・・必要では・・無かったのか?」


ジン「こいつの基本構成は『完璧なモノ』なんだろ? だったら利用できない程に“不完全”な装置になっちまったら無慈悲に切り捨てられちまうわけだよ。それとおめーには、これからやってもらうことが山積みなんだよ」


アーク「おまえ・・私は・・お前らの敵で・・しかもお前の両親の敵だぞ」


ジン「・・お前、さっきこう言ったよな? “自分の精子から作った”、と。って事はこれまでの経緯はどうであれ、あんたは俺の親なんだよ。“孝行したいときに親は無し”ってコトワザもあるんでね」

アーク「・・お前は最初から、私を心臓部から切り離すことが目的だったと言う訳か。敵に情けをかけたのか・・・」


ジン「3つ理由がある。1つ目はそれだ。2つ目はアスポルト攻略のため。最後の3つ目が重要なんだよ。おめーはこれから一仕事してもらう」


アーク「一仕事!? まさか!」

ジン「ご名答、これから俺達の仲間になって、このメビウスのくそ野郎を破壊する!」


アーク「わ、私はこれでも神族で管理者だ! 冗談も程々にしろ!」

ジン「まだ気づいてなかったのか? おめーも俺達と同じ“欠陥品”だったし、“イレギュラー”だったんだよ。おめーを作ったお偉方は、おまえの存在なんて、ゴミとも思ってねーんだよ。だから一方通行の依頼を押しつけたんだ。・・・俺も昔のしがらみを捨てたんだ。おめーも今の現実を悟ったらどうだ! おめーはメビウスにも捨てられたんだよ」


アーク「・・・・・・・お前の拳、なかなか良かったぞ。いいだろう、とりあえず、暴走してしまったシステムは、どのみち破壊しなければならん。しかし、その結果、どういう事になっても、私は責任を負わないからな」

ジン「それで十分だ!・・・・どうやら奴さん、システムの再構築が終了したようだな。完全に攻撃型に変化したようだ。これでもう、躊躇する事が無くなった。おぅ! みんな聞いての通りだ! 全開フルスロットルで、心臓部を破壊するぞ! アークと共にな!」


クレス「は、はい!」

アイル「まあ、そういう経緯じゃ仕方ねーか。おぅ! やったるぜ!!」

ドクター「アーク! とりあえず停戦だ。力を貸せよ!」


 その時、ちょうどアスポルトと自分の停止状態から解除されたウィルが戻ってきた。


ウィル「遅れました!・・・アーク!!!」


 とっさに杖を構えたが、アイルが素早く近づき簡単に事情を説明した。


ウィル「・・・・仕方ありません。裏切った場合、即刻、攻撃対象とします」


ガルダ(・・・アークも・・私も・・・イレギュラー・・・。リュクス様・・どういう事なのでしょうか?)

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