第26章 アーク
先ほどの球体の軌道が作った黒色の空間から、アークの声を発したと思われる物体の一部がぬっと現れた。そして、まるで巻物が開くように、姿が徐々にはっきりしてきて、最終的に全体が現れた。
ザルティメンデよりはずっと小さかった。そして姿も比較的例えられるモノだった。向かって左(本体の右)が恐竜の頭部を持った部分、向かって右(本体の左)が人間の頭部をかたどった部分。そして中央は人間の心臓の形のモノ。そしてさらにその中央部に、あのアークが埋め込まれていた。
ガルダ「メビ・・・いや、あれは違う! あんな生物的な姿ではないはず! この時代の表現だったら・・、そう、いくつかの箱で構成されたブロックの様な姿のはず!!」
アークの部分「ガルダ・・・まだ存在していたか・・・。これだけのバグ、いや、イレギュラーがメビウスリングの永久機関を少しずつ破壊しているのに、何故お前が存在できる!? お前が存在できる未来など、もう無いはずなのだが・・・」
ガルダ「黙れ! 私の質問に答えろ! 何故メビウスの形状が違う!」
アークの部分「・・・メビウスシステム、そして、このメビウスは、お前のデータにあるものと違って、“不完全”だったのだよ。私はおまえらのデバッグの任務以外にもう1つ、システムを“完成”状態に近づける任務があった。そのためにはお前らのデバッグも必要不可欠だったが、私は、自分のこの体にメモリーされている“システム補完用のサブルーチン”を、この時代の“不完全な”システムに組み込む事を最優先することにした。その後にこの“完成に近づいた”メビウスシステムを“強行モード”に変更し、貴様らイレギュラーをまとめてデバッグすれば、任務は同じ所に帰着すると思っていた。例えザルティメンデが消滅しようが、結果が同じであれば良い、そう、そのはずだった・・・」
ガルダ「だが、そう巧くはいかなかった・・・・か?」
アークの部分「そうだ!!!! 貴様らイレギュラー、いや、これからはもっとふさわしい名前で呼ぶとしよう、『ウィルス』ども! 貴様らの感染能力は我々の予想を遙かに上回っていたのだ! 私のミスで作ってしまった、ノヴァの“最悪の欠陥品”の1つ、ジン! 貴様の誕生と成長が発端になって、ノヴァは“欠陥品”を生み出す確率が高くなってしまった。考えてみれば、お前の育成を秘密裏に行っていた、私の直属の部下だったお前の育ての父“アストラル”、そして母“龍神 麻衣”! 彼奴らも“ウィルス”の“亜種”だったのかもしれん!」
ジン「・・・・・・」
アークの部分「とにかく、補正措置のために、この周期の創世年に行き、ギルドプログラムを修正し、職業バッジ制度を組み込んだのだ。民衆に広く根付くためには時間が必要だからな。強力な能力を継承するバッジをウィルスの兆候のあるモノに与え、強くさせるだけさせて、バッジに能力を吸い取らせ、最強になったバッジを名誉と飾りだけで全く能力がない“マスターバッジ”と交換させて、ウィルスの能力を0にしてしまうこと、そしてグレード10のバッジはザルティメンデのエネルギー源としてしまうことで、ウィルスの感染力は見る間に落ちていった・・・少なくともお前らが生を受けていなかった時代まではな!」
クレス「酷いシステムだったわね・・・・・・」
アークの部分「せっかく“人間の高度すぎる文明の発達”を抑制し、破壊と再生を円滑に行える合理的、かつ、理想的なシステムである“メビウスシステム”を、安定運用できるようになりつつあった。このままこのメビウスリングでの周期は終焉の年を迎え、なんとか無事乗り切れるはずだった!」
アイル「そう、何でも自分の思惑で進む、そんな都合がいい事、滅多に起こらねーよ」
アークの部分「忌々しい! 貴様らの様な、悪性かつ強力なウィルスがよりにもよって同時期に発生し、あげくにジンという最悪の増幅媒体に集まり、我々の予定を反転させてしまったのだ!」
ドクター「余計なお世話じゃ・・・」
アークの部分「その責をとわれ、結果的に私は体にプログラムを埋め込まれて、この時代に派遣されてしまった。一方通行で後戻りの出来ない命を受けてな。まず最初はジンを違法に成長させていたアストラルと麻衣の始末だった。これは難なく終わった。だが、その後が問題だった。外郭団体である我々が、直接的な手段で貴様らを葬ることは基本的に禁止されている。だから、グラン等やその部下などの“ワクチン”を作って、間接的に貴様らを消去するしかなかった」
ウィル「あの連中、本当に弱かったんだけど・・・」
アークの部分「・・・全て失敗に終わった。さらに私が補助的に与えた魔剣グングニルが原因で、さらに最悪のウィルス“魔人剣士”が生まれ、“天体士”と組んで、最後のワクチンの『ザルティメンデ』すら破壊してしまった!」
ガルダ「・・・・・」
アークの部分「ウィル! お前は関係者として、どの道生き残り、次の周期の天体士“メテオ=クルセイダー”となるはずだったのだよ。ジンどもと会わなければな。しかし、よりにもよって“魔人剣士アイル”を作った、直接の原因にすらなってしまったではないか! お前が介入しなければ、邪魔なアイルはお前らを葬っていたか、葬られていただろう」
アイル「勝手に決めるなよ・・・・」
アークの部分「それにガルダ! お前は製作者のリュクスの命令が律に反する事だった事は、理解できていたはず! にもかかわらず、こいつらに助力したのは何故だ?」
ガルダ「それが正しい道だと、思ったからだ」
アークの部分「黙れ! そして、おまえより更に罪深いのは、最後のジン! 貴様だ! おまえさえ・・・貴様さえ余計なことをしなければ、こんな最悪の事態は避けられたのだ! 何故、お前らはこのメビウスに逆らう! お前らは単なるコマでいればいいのだ!!!」
ジン「べらべらべらべら・・・よく喋る化け物だな。アーク。ま、おかげで事情は8割理解できた。だが一番許せねえのは・・・・俺の両親を殺したことだ!」
クレス「私は真剣に職の最高位を目指していたのに・・・それをそんな目的のために利用していたなんて・・・」
アイル「俺がどういう経緯でこうなったのか、何となくわかったが、俺は単純に“よけいなお世話だ!俺はウィルを守る!”って感情しか浮かばねぇ」
ウィル「人の愛情をなんだと思っているの!」
ドクター「貴様! 人の命を、欠陥品や屑やコマだと! ふざけるな!!!」
ガルダ「生ある物達が歩む道は、プログラムなどで制御出来るモノではない!」
ジン「ああ、どうやら、全員一緒の結論に達したようだ。消去されるのは・・・貴様の方だ!!!」
アークの部分「・・・・宜しい。最後の手向けだ。修正する前に、私のメビウスを紹介しておこう。その話を聞いても、まだ汚染するのなら、かかってくるがよい。私の右手は攻撃用の補助装置“アスポルト”、左手はエネルギー回復用の補助装置“ノヴァ”、中心部の心臓の部分が私と言う修正用サブルーチンを組み込んだメインシステム“アーク”。攻撃能力も有している。それら3つを統合して、『MEBIOUS』と言う名が冠されている。ザルティメンデと違うのは、被害は最小で、ピンポイントでウィルスを削除出来るようになっている事だ」
全員、聞く耳を持っていなかった。それぞれの武器をメビウス正面に向けていた。
アークの部分「どうやら今がデバッグの時期らしいな・・・・・・来い!!!!!!」
ラストバトルの幕が切って下ろされた。
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