第21章 ウィルとアイル

(ウィル達)


 彼らが止めに入る少し前、ウィルが下着姿になってしまった頃....。


ウィル「・・・下着・・・に・・・なっちゃった・・ね・・・おにい・・さま・・・」

アイル「その方がずっと綺麗で、かわいいよ」

ウィル「あ、有り難う・・・・」

アイル「おれは・・きみの・・・おにいさん・・・じゃ・・ないん・・だけど・・」

ウィル「いいの・・・おにい・・・さま・・・って・・・よばせて・・・・」

アイル「・・・いいよ・・・そういっている・・・きみも・・・かわいいよ」

ウィル「・・・・ありが・・・とう・・・・・おにいさま・・・・・」


 そういっているウィルだったのだが、上半身がはだけて下着姿になっている、今の自分の出で立ちなど全く気にしない状態で、とろんとして、うるうるしている目でアイルを見つめていた。


 一応、今のアイルとウィルは兄妹関係ではないのだが、ウィルの中のアイルの思い出が交錯して、ウィルとしては大好きな兄との兄妹関係、対して、(記憶をなくして)知らない状態のアイルは、単純に目の前の美しい女性と関係を持つ、というお互い、まるでずれてしまった思惑で、ここまで話が進んでしまったのは、ひとえにウィルが溜め込んでいた兄への絶対的な信頼の裏にあった深い恋愛感情だったのであろう。


アイル「そう、今日は君を帰さない。今日、ここで君と一緒になるんだ。いいだろ?」

ウィル「は、はい、お兄さま・・・」


 誰が見ても究極的にやばい状態であった。ウィルもウィルである。よりによって昔、兄であった男に落とされてしまうとは・・・。ウィルは本当にこういうことに経験がないのであろう。彼女にとって信頼する人で、かつ、愛する人は、間違いなく、兄であった「アイル」だけなのである。


 ここまで体を許してしまい、完全無抵抗でなされるがままなのが良い証拠である。


 それでも、確かに、ポジティブに状況を分析するのなら、彼と再び戦う事にならなくて済んだのは、大成功である。しかし、今の彼は、目の前の人物だけと関係を持つとは、必ずしも言えない。


 無差別ナンパ男かも知れないのだ。


 そうなっては、考えようによっては、怪物になってしまうよりたちが悪いとも言えるのだ。


 そして、お邪魔虫4人が、その二人の前に集まった。ジン、クレス、ガルダ、ゾディである。こんな状況になっても彼らは武器を持たなかった。これからどういう展開になるかわからなかったからだ。ついでに魔剣グングニルも置いてきた。


ガルダ「二人とも! もうその辺でいったん中断して、続きは後にしなさい。できれば永遠にやめて欲しいのだが

ジン「アイル、とりあえず、男として誉めてやる! 見直し、いや、お前は偉い!」

クレス「あの~、私としては続きが気になるのですが・・・やっぱり・・・その・・そういうことは・・・ちょっと・・・まずいような・・・。今回は皆さんも見ているのですから、その~、どうしてもというなら・・あ、いえ、今度、お時間を作ってですね・・」


 全く持って説得力に欠けていた。予想通り、二人は耳を貸さないで続けようとした。


ゾディ「コ、コホン。改めてアイル、汝はこの女『ウィル』を愛してしまったのか?」

アイル「うっせえーなー!、そうだよ! 今良い所なんだから、邪魔しないでくれ」


 アイルは小声だった。ゾディは仕方ないのでウィルの方に囁いた。


ゾディ「ウィルさん、気持ちは重々わかるのですが、これでは物事が進みません。彼がいったいどういうモノになったのか、まず確認しなくてはなりません。いいところだ・・・・・もとい、ここは申し訳ないのですが、いったん中断して、その・・・・」


 さきに動いたのはアイルだった。ウィルの腰部まで手が下がっていたのだが、両腕をはずして、ゾディに面と向かった。


アイル「うっせえーなあー!、おこちゃまには、これからの展開は刺激が強すぎるぜ! 風呂でも入ってとっとと寝な!」


 アイルが離れたことで、やっとこ現状を把握できたウィルは、自分の上半身のあられもない姿に気づき、真っ赤になりながら、脱げた上着を急いで着た。


アイル「あーあ、せっかくここまで行けたのに! おい! そこの間抜け剣士! ちょっとかわいいねーちゃん! うまそうな鳥! さっきのがきんちょ! おまえらいったいなにもんだよ!」


ジン「ま、まぬけ・・・・」

クレス「ちょっと・・・・」

ガルダ「うまそうな・・・・」

ゾディ「が、がきんちょ・・・・」


 全く持ってとんでもない暴言の数々であった。


ウィル「お兄様! 言い過ぎよ! 仮にも・・・・・」

アイル「仮にも?」

ウィル「ご、ごめん。何でもない。と、とにかく、ここにいる私たち、そう、お兄さまも含めて、みんな仲間なのよ!」


アイル「仲間・・・・へ! まあ、どういういきさつがあるにしろ、そういうわけなのか。じゃ、ま、宜しく頼むわ! 俺は・・・・・俺は・・・・誰だっけ?」


 アイル以外、全員困ってしまった。絶対にここで最悪の結果にするわけにはいかない。何か良い名前は・・・・。


ウィル「サ、『サザン=アイル』って言うのよ」

アイル「へーーーそうかーーーーー、俺って「サザン=アイル」って言う名前なんだ。わかった。ウィル、君の言った事はなんでも信じるよ」


 またウィルにキスをした。その後、ウィルは・・・・。


ウィル「あ、ありがとう。お兄さま・・・・」


 どうやら、彼の「新しく持った同行理由」と「新しく持った興味」というのは、全部、ウィルのことだった。つまり、「彼女をどんな状況下でも助けること」だが、それ以外に「邪魔者を入れないで、いつかウィルを自分のモノにしてやる」こともあった。


 むしろ後者の方がシェアは大きい。そのころ、やっとこ、ドクターはもそもそっと起きてきた。


ドクター「全く、今日は厄日じゃ・・・・って、いったいこの状況はなんなのだ?」

ゾディ「あなたには後で詳しく説明します。深くは突っ込まないで下さい」

ドクター「・・・・わかった・・・どうやらあれから、いろいろあったらしいな」

ジン「あーもー、本当にいろいろとな!」


 ドクターはアイルの方へ向かって、こう言った。言わなきゃいいのに・・・。


ドクター「おう! 伊達男になったらしいな! ノーザ」


ジン、クレス、ゾディ「言うなっての!!!!!」


 ズガァァァァァァァァ!


ドクター「あーーーーーーーれーーーーーーー」


 ジンとクレスとゾディのトリプルドロップキックが炸裂した。しかし、コンボ攻撃はこれだけでは無かった。


ガルダ「お帰りはこちらです」


 ドクターの軌道の先にあった入り口のドアをガルダは素早く開けた。ドクターはその中を通り抜けていって、道路の先の方にあった大岩に頭から激突した。その距離、実に20m。ジンの記録、更新である。


ドクター「ま、ま、また、このパターン・・・か・・・」


 ドクターはまたのびてしまった。彼にとって今日は、「厄日」を通り越して、「大凶の日」だと思った。実に不憫である。


ゾディ「こ、こほん! それでは、サザン=アイルよ! これより我の言うことをしかと聞いて欲しい。よいか?」


アイル「やだ」


 アイルのあまりのストレートな回答に、ゾディは、少しとまどってしまった。少し考えてからこう質問した。


ゾディ「・・・・・・・では誰の言葉ならいいのだ・・・・・・」

アイル「ウィル。それ以外の奴からの話はいっさい聞く耳もたねえ。それが敵でも味方でもだ!」


 ゾディは、本気でほとほと困ってしまった。が、ある策を思いついた。


ゾディ「わかりました。それでは、ちょっとそこで待っていて下さい」


 そう言うとテーブルに移動して、卓上光を付けてから、紙になにやら書き始めた。そして数分が経過した頃、ゾディは書き終えたのか、その紙を筒状に丸めて、ウィルの所まで持ってきて渡した。


ゾディ「ウィルさん、もう貴方しかいないのです。ここに書いてある事を彼に話してやって下さい」

ウィル「はい、わかりました」

ウィル「・・・・それでは、アイル、良く聞くがよい。まず汝の名前は『サザン=アイル』である。そして、この世界で生き延びるには『職』を持つことが好ましい。そして、今の汝の職は、『魔人剣士』である。つまり汝は『魔』の者である。しかし、汝の意志通りに、その『魔』の力を用いて、汝の最愛にして最大の想い人である・・・私を守るがよいであろう。存分に使いなさい」


魔人剣士アイル「おう、わかったぜウィル! お前の言うことなら何でも聞くぜ! 大船に乗った気分でいてくれよ。それと『魔』とか言う物、俺には関係ねーよ! 要するにウィル、君を守り抜けば良いんだろ?」


 その横で、他のメンバーはこそこそ話をしていた。


ジン、クレス「ま、魔人剣士・・・ってなんですか? そんな職・・・」

ガルダ「いえ、確かに、この・・・職業データベースで照会できます。しかし肝心の説明が・・・削除されております」

ジン、クレス「データベース??」

ゾディ「それならば良いでしょう。この時代のギルドに問い合わせても、あまりいい返事はもらえないかも知れませんが、存在の確認はできるでしょう」


ジン「いや、良いです。も、もう、何でも来い! になりました・・・・おい! アイル! いや、魔人剣士サザン=アイル! これから一緒に旅を続けるぜ! お前もその新しい職、自分を磨いて、最高位までがんばれよ!」

アイル「おまえの指図は受けない!」


クレス「一緒にがんばろーね!」

アイル「・・・かわいいお嬢さん、残念ながら、貴方の命令でも聞けないのです。私はこのウィルの命令しか聞きません。それ以外の用件であれば、聞くだけ聞きますが?」

クレス「か、かわいい・・・」


 クレスですらポッとなってしまった。


ジン「こら! アイル! てめー! クレスは俺の女だ! こっちにまで触手のばすな!」

クレス「ちょ、ちょっと! 『俺だけ』の女なんて、勝手に決めないでよ! そりゃ、好きだけどさ…」

アイル「そこの男! うるせー! 女性には優しく接するのが俺のモットーだ!!! お前こそ口出しするな!」


ジン「くっそ~、なんだか前と大して変わってないような気もしてきたんだけどなぁ」


 話が収集付かなくなってきそうだったので、ウィルが助言した。


ウィル「アイル、そこの男は『ジン』って言う名前なの。そして、この女の子は『クレス』。あそこでのびているのが『レイス』、通り名は『ドクター』です。そして、私に紙を渡してくれたのは、私の師匠で『ゾディ』と言う名前です。それとこの大きな鳥は『ガルダ』って言って、そこのジンさんが名前を付けたのよ。ちゃんと名前は覚えてね」


アイル「わかったよ」


ウィル「それと、アイル、私と、そして、この方々と一緒に旅をしましょう。そして、私を守ってくれる、その『魔人剣士』の職に磨きをかけて下さい」


アイル「そっちも了解したよ」


 ウィルの頼みには、彼が断言しているとおり、妙に素直だった。


 まあ、結果的に最良の方向に転がったのだから、皆も大きな不満は無かった。ただ、アイルとウィルの関係が複雑になってしまった事は否めなかった。


アイル「ところで、ウィル。なんで、俺を『お兄さま』って呼ぶんだ? さっきも言ったんだけど、俺、君の兄じゃないんだけどなあ」


 ウィルはちょっと寂しい感じがしたのだが、支障のない程度で答えた。


ウィル「そ、それは・・・私が貴方に付けたニックネームです。その言葉自体の意味は気にしないで下さいね」

アイル「はぁ、ニックネームが『お兄さま』ねぇ・・・わかったよ」


 なんとも、牧歌的な雰囲気となっていた。その後、ゾディは布で覆ってある武器類の中から、魔剣をとりだした。鞘部分しかさわってはいなかった。


ゾディ「アイルよ、汝にこの剣を授けます。あなたの想い人、ウィルを守るのには最高の武器ですよ」


ジン「ちょ、ちょ、ちょっと! ゾディさん! それはまずいっての!」

ゾディ「大丈夫です。安心して見ていなさい」

アイル「ああ、良い物くれるってんだったら、もらってやらぁ」


 そう言うとつかつかっとゾディの方に来て、剣を手に取った。


ジン「ああ! もうだめだ!」


 しかし、ジンの心配は取り越し苦労だった。アイルに全く変化がなかった。


アイル「おお! 結構いいじゃねーか! ありがたくもらっておくぜ!」

ジン「???????」

クレス「ゾ、ゾディさん、これは・・・・」


ゾディ「もう、今のアイルはあの剣の闇魔法の呪縛どころか、マンティスの呪縛の目すらも効果がありません」

クレス「どうしてですか?」

ゾディ「さっきウィルさんに言ってもらいました通り、彼はこれからはずっと『魔』属性です。それに1つの強い意志もできました。あの剣や呪縛の目などのようなモノなどでは、彼を操る事は出来ません。いや、むしろ、あの剣に関しては、逆に彼との相性が最高なので、十二分に使いこなせるはずです」

クレス「『魔』属性って、なんでもありなんですね」

ゾディ「ええ、背負っていくモノが重いですけれどもね」

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