第20章 儀式の結果

 儀式からしばらく経っているのに、アイルは相変わらず目を覚まさなかった。部屋にいる全員が、黙って様子をうかがっていたが、ある人物がその沈黙を破ってしまった。ウィルである。


ウィル「お願い!!! 目を覚まして!! お願い・・・お願いだから!!!!」


 ウィル以外の全員が、同じ事を言いたかったのだが、言えなかったのだ。その台詞は、この場では、ウィル以外、言ってはならないと思ったからだ。その時・・・・


アイル「・・・・う・・・・・・・・う・・・・・・」


ウィル「!!!!!」


 たまらずアイルの側に駆け寄るウィル。やっと意識を取り戻したのだ。しかし、ゾディの話通りなら、この後が最も重要な場面となる。その結果次第では、全員でまた、彼と戦う事になるかも知れないからだ。


アイル「・・・・う・・・・こ・・・ここ・・・は・・・」

ウィル「おに・・・、いえ、あなた、やっと気がつかれたのですね。大丈夫ですか?」


 彼女は心から「お兄さま」と言いたかったのであろう。しかし、ゾディの話に出てきた「覚悟」しなければいけない「条件」が、彼女の心の上を覆っていたのだ。本能から言いたかったことを、こんな場面でも理性で強烈に押さえつけられるウィルの精神力は称賛に値するものである。


アイル「き・・・きみ・・・は・・・・・・」

ウィル「ウ・・・ウィル・・・・と申します」


 やはりゾディの話通り、ウィルの顔も名前も素性もアイルの記憶から完全に消えてしまったのであった。ウィルは心が張り裂けんばかりの思いだったが、それを越えて自分の名前を告げた。


アイル「ウ、ウィル・・・・・・という名前・・・なんですか」

ウィル:「は・・・・はい・・・・」


 ウィルはできるのなら、もう、思いっきり泣き叫びたいと思っていた。しかし、そんな彼女の想い、それに「理性のフィルター」は、この後の展開では全く無意味であった。


アイル「・・・・なんて・・・・・」

ウィル「・・・・? な、なんて?」


アイル「・・・なんて、美しい人なんだ!!!!!!!!」


ウィル「????!!!!」


 アイルは突然、ウィルを強く抱きしめて、ウィルの唇を奪ってしまった!


ウィル「???!!! お、おにい・・・さ・・・ま・・・・」


 このあまりにも突然で意外な展開に、ウィルの理性のフィルターは完全に消滅してしまった。押さえていた「お兄さま」の言葉が、口づけをされているのに、ごにょごにょとした発音だったが口に出てきてしまった。加えて抱きしめられることに対して、全く拒否反応が無かった。なされるがままである。勿論、あまりに突然だったこともあるのだが、それ以外の理由もあるようだった。


 ところで、他のメンツなのだが・・・・・。


他のメンツ全員「・・・・・・・・・・・・・・・」


 二人以外の全員が、信じられないような、あまりの展開のため、目を覚ます前の沈黙とは、全く異質の沈黙を余儀なくされてしまった。それも、全員が全員、呆然として立ちつくしており、目を丸くして、頬を赤らめていた。あのポーカーフェイスのゾディですら、そうであった。


ガルダ「ゾ・・・ゾ・・・ゾディ・・さま・・・こ、これは・・・いったい・・・・」


 呆然として立ちつくしながら、この中ではなんとか冷静さを持っていたガルダが、なんとか言葉をかけられる様になった・・・・・・・のだが


ゾディ「・・・こ・・これ・・が・・きょ・・きょうだい・・・どうし・・・の・・・せ・・・せっぷん・・・なま・・・で・・・みちゃった・・・・・」


 ゾディはガルダの声等、全く眼中なしであった。人差し指の先を口でくわえて、事の成り行きを興味津々で見入っていたのだった。


ガルダ「ゾ・・ゾディ・・・さ・・ま? あ・・あの・・・」

ゾディ「ちょっと黙ってて! 気が散るじゃない!」

ガルダ「ゾ・・ゾディ様???」


 小声でガルダを制してしまった。ガルダもこっちの状況にも驚いてしまったのか、あきらめて目線をウィル達の方へ戻してしまった。


 そのころウィル達は熱いキスが終わった後、二人でまだ抱き合いながら見つめ合っていた。まさしく二人だけの世界である。


ジン「こ・・・こ・・こいつ・・・は・・・めったに・・・みられる・・・もの・・じゃ・・ないな・・・」


 ジンは少し鼻血を、ついでに、少し涎も垂らしながら、じっくりと見入っていた。


クレス「きゃぁ! きゃぁ! きゃぁ! それで、それで、それで、その後、どうなるの! どうなるの! きゃ~!」


 クレスも両腕を胸の前で曲げて、「少女が恥ずかしい時に良くやる」ような感じになって、少し汗を垂らしながら、ゾディ以上に興奮して、事の成り行きを楽しんでいた。


ドクター「ふ・・・・ふ・・・・ふ・・・・不謹慎じゃ!・・・・倒錯じゃ!」


 この中では(本当はゾディと言いたいのだが意外にも違っていたので)ガルダの次にまともな感覚を持っていたドクターは、そう言うと二人の前につかつかっと歩みだそうとした。が・・・・・


ジン、クレス、ゾディ「じゃまーーーーーーーー!」


 ドギャス!!


ドクター「ふぎゃーーーーーーーーー!」


 ジンとクレスとなんとゾディのトリプル回し蹴りが炸裂した。ドクターは進行方向とは垂直の方向に綺麗な放物線を描いて飛んで行き、壁に頭から突っ込んでいった。頭は木の壁を貫通してしまっていた。


ドクター「わ・・・・わし・・・こんどは・・・わらわせ・・・やく・・・?」


 ドクターは気絶してしまった。


ガルダ「ゾ・・・ゾディ・・・様・・・まで・・・」


 ガルダも不運であった。ゾディの意外な一面を、ここへ来て、まざまざと見せつけられたのだから・・・。ところで、二人の方だが、相変わらず抱き合って、互いに見つめ合っていた。そうしたら、ついに! アイルの右手がウィルの上着の背の結び目に到達した。そして、なんとほどいてしまった。


 上着がはだけて、上半身が下着だけになってしまったウィル。頬はほのかにピンク色に染まっていた。目はうるうるしながらも、すでにイってしまっていた。勿論、アイルの方も目はウィルに釘付けの状態であった。


ジン「うぉぉぉぉ! アイル! 見直したぞ! そ、そこだ! 一気にいけーーー!」

クレス「きゃぁぁぁぁぁぁぁ! す、すごーーーーい! それで!? それから!? これから、どうなっちゃうの?!」


 ジンは目線は勿論ウィル達の方だったが、とりあえずクレスに言った。


ジン「そ、そりゃ、勿論、男だったら、行き着くところまでいっちまうだろ!」

クレス「い、いきつくとこって? も、もしかして、それは・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! たのしみ~!」


ジン「・・・おめーとも、いつかそう言う関係に・・・してーな・・・途中までは・・・行っているんだからなぁ....」


 ジンの意外な言葉に、これまでウィル達を見ていたクレスだったのだが、ジンの方へ顔を向けた。先ほどまで間抜けな顔つきだったジンだが、事態が本格的になった頃から、マジ顔になっていた。その顔は今のクレスには絶世の美男子に見えてしまったのだ。


クレス「・・・え・・・・そ、そんな・・・・・こと・・・・あ・・・ある・・・ように・・努力・・・・しま・・・・・・。ジ・・ン・・いま・・・ここ・・・で・・・その・・・したい・・・・ね・・・・」

ジン「・・・・・・・え?」


 すでにジンの顔はクレスに向いていた。見つめ合う二人・・・。


ジン「・・・・いい・・・のか・・・・こんな・・・ところ・・・で・・・」

クレス「・・・・うん・・・・・・でも・・・最後まで・・・行っちゃうのは・・・・だ・・・め・・・・・」

ジン「クレス・・・・」


 こっちもウィル達に負けず劣らずの場面になっていた。いつのまにか抱きしめあって、見つめ合う二人・・・・。それを見ていたゾディは・・・・


ゾディ「きゃぁぁぁぁ! 今度は、二組!? た、たのしみ~!」


 ゾディも興奮状態だった。が、舞台の緞帳をおろそうとしたのは、やはり一番冷静だったガルダだった。


ガルダ「二組とも!!!!! そこまでーーーーーー!!!!!!!」



 「鶴の一声」と言うのであろうか、ジンとクレスのカップルの方は、はっと気づいたのか、お互い腕をおろして、恥ずかしそうに、もじもじしていた。しかし、その鶴の一声にも、まだ動じなかった組があった。


 ウィル達である。


ガルダ「ゾディ様! とにかくあの二人を止めます! 手伝って下さい!」

ゾディ「え? これからだったの・・・・・・・・・・えー、こほん! わかりました、どうにかしましょう」


ガルダ「ジン様! クレス様! 続きはまた別の機会に、と言うことで、とにかくあの二人を何とかします!」

ジン、クレス「は、はい・・・・」


 かなりやばい方向に突き進んでいるウィル達をどうにかすることにした。

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