第18章 再び、天体観測所
(天体観測所)
ガルダ「ジン様、皆さん、ご無事でなによりです」
ゾディ「でもまだ一仕事あるようですね」
ジン「ああ、まだ最後のつめ、こいつの事が残っている」
ジンの背中には、ぼろぼろ状態で様態不明のアイルがいた。ジンはとりあえずその場にアイルをおろした。
ゾディ「存じております。「未来確認」は出来なくても、「今を見る力」はまだ残っているようでしたから」
ジン「なら話は早いや、頼む! こいつを助けてくれ! 自分でやっておいて、ほんと、虫のいい話だっつー事はわかっている!」
ガルダ「ジン様、あの場合、これ以外の方法は無かったと・・・」
ジン「ガルダ! やった経過も結果も、事実なんだよ! ホント! ウィルさんには、顔向け出来ねえ」
ウィル「いえ、良いんです。もともと私の立てた作戦ですし…」
クレス「みんな! それより、今を解決することが最優先でしょ!」
ジン「そ、そうだな。ガルダ、ゾディさん、とにかくこいつは何とかならないのか?」
しばしの沈黙・・・・。ガルダもゾディも目をつむって考えているようでもあった。
ジン「や、やっぱり、だめなのか?」
ガルダ「い、いえ、ジン様、そうではないのです」
ゾディ「はい。方法はあるの・・・ですが・・・・・・」
クレス「ですが?」
ゾディ「それには皆さん、いえ、特にウィルさん、あなたの覚悟が必要です」
ウィル「か、覚悟・・・・ですか?」
ガルダ「そうです」
ジン「い、いったいどんなことなんだ?」
この後、ジン達は、いや、ウィルは人生における大きな選択を迫られることになる。
(アイルの蘇生法)
ゾディ「はっきり言います。アイルは、あなた方と共に旅をしてきた頃の「剣術士アイル」、もしくはウィルさん、あなたが良く知っている兄であるアイルには戻れません」
ウィル「そ、そんな・・・・・・・・・・・・」
クレス「うそでしょ・・・・・」
ドクター「・・・・・・・・・・・・・」
ジン「ゾディさん! 悪い冗談はやめてくれ! 現にここにアイルはいるじゃねーか! ちょっと、怪物っぽくはなっているが、面影は残っている! それとも、このままこいつは死んじまうのか?!」
クレス「ジンのばか! 悪い冗談言ってるのは、あんたの方でしょ! ウィルさん、ここにいるのよ!」
ジン「わ、わりぃ・・・・」
ドクター「おまえら落ち着け!! どうやらゾディさんの話にはまだ続きがありそうだ。とにかく聞こう!!」
ゾディ「・・・・・よろしいですか? レイスさんの言うとおり、続きがあります。元のアイルにはなれませんが、「ある状態」でなら再び、「生」を受けることが出来ます」
ウィル「え?」
ジン「ふ、復活できるって事だよな!」
クレス「よ、よかった・・・・」
ドクター「・・・・ある状態・・・・ゾディさん、それって怪物の状態なら、ってことですか?」
ゾディ「いえ、必ずしもそうなるとは限りません。正直な話、私にもどうなるのかわからないのです。ただ、先ほども言いましたが「ある状態」でいいのなら蘇生は出来ますが、それなりの覚悟がいる、と言うことしかお話出来ません」
そう言ってゾディはウィルの方を向いた。
ウィル「そ、その覚悟って、いったい何なのでしょうか?」
ゾディは間をおいて、こう答えた。
ゾディ「・・・・・・今後、あなたは「兄」としてのアイルから、自分に「ウィル」と声をかけてもらえなくなってもよろしいですか?」
ウィル「え・・・・?」
ゾディ「・・・・・・以前のあなたとアイルとの、いえ、あなた方全員とアイルとの思い出は、どんな状況になろうとも、思い出として大切にしておけますか?」
クレス「え? そ、それって、まさか・・・・・」
ジン「・・・・・・・ストレートに言ってくれ。その方が後腐れがない」
ゾディも承知したようだ。
ゾディ「アイルが再び生を受ける方法、それは、あなた方との記憶、いえ、それだけではないです。人間として最小限の行動に必要なこと、以外の記憶、つまり、自分の名前、生い立ち、等の記憶が、完全に無くなります。つまり、復活すれば、この者は自分がウィルの兄であること、あなた方の仲間であること、それすらも全て失います」
ゾディの「最悪」な話はそれだけではなかった。
ゾディ「これだけではないです。彼は一度「魔」属性を受けました。これを解呪する事は、いかなる事でも出来ません。例え生き返っても、この方は「魔」の者のままです」
その場には、音がなくなった。絶対的な静寂・・・。しかし、それは数秒後に破られることになる。
ジン「それじゃぁ・・・こいつは・・・また・・・俺達の・・・敵になっちまうのか? それじゃぁ、それじゃぁ! 意味ねーじゃんか!」
クレス「ひどすぎます! それじゃ、さっきの戦いはなんだったの? アイルさんを助けるためじゃなかったの!」
ドクター「俺達の努力は水の泡なのか…」
ウィル「そ・・・・・・そ・・・・・そ・・ん・・・・な・・・・・」
ウィルはもう涙でぐしょぐしょだった。ガルダですらも、ウィルにかける言葉がなかった。しかし・・・
ゾディ「先ほどもお話ししたとおり、必ずしもそうなるとは限りません。最後の希望はまだ一応残ってます」
ウィル「・・・・・・え?」
意外な一言だった。こんな絶望的な状況で、まだなにか策があるのであろうか?
ジン「ゾディさん! そんな気休めはよしてくれ! あんたの話からじゃ、どう聞いたって敵に戻っちまうんだぞ! それになんだよ! その「必ずしも」とか「限らない」とか「最後の希望」って! もし、本当に「希望」なんてものがあるんなら何でも言ってくれ!」
クレス「私も同じです!」
ドクター「私もだ」
ウィル「ゾディ様、教えて下さい、その「最後の希望」っていうモノを」
ゾディ自身も、話す事の覚悟を決めたようだ。あまりに不確定な要素なので多少躊躇していたが、それはやめたのだった。
ゾディ「・・・わかりました。それでは教えます。最後の希望・・・それは、彼があなた方と同行する「新しい理由」を持ったとき、または、あなた方に「新しい興味」を抱いたときです。そのときになにも思いつかなければ、復活しても「魔」属性を持ってしまう彼は、あなた方を「敵」とみなして、襲いかかります。そして、今度彼を倒してしまった場合、復活は永遠に出来ません。それでも本当によろしいですか?」
長い沈黙が続いていた。が、口を最初に開いたのは、意外にもウィルだった。
ウィル「・・・わかりました。今まで再会できなかった兄と、こんな形でしたが、また会えたのです。失敗しても後悔はありません。襲ってきたら、躊躇無く、殺めます」
ジン「・・・賭けてみる! 小さくても、希望がある方にな!」
ゾディ「他のお二人は」
クレス「一番近い間柄の二人の意見に従います」
ドクター「このままにしていてもどうしようもないからな」
全員、覚悟を決めたようだった。
ゾディ「・・・・・わかりました。もう、後戻りは出来ません。これより、この者に「輪廻の儀式」を施すことにします。あ、そうです、皆さん、これは気休めなのですが、一応のため、彼が復活した際にあなた方にできるだけ「敵対意識」を抱かせないために、着ているモノ以外のすべての武器類を見えないところに隠して置いて下さい」
ジン「わ、わかった」
全員はアイルの持っていた「魔剣グングニル」も含めて、「武器」と思われる全てのモノや、プロテクター類も全てはずして、室内でもかなり遠くの場所において、その上に布をかぶせた。全員、普通の服を着た、軽装の状態になっていた。
ゾディ「よろしいようですね。では、始めます」
最後の賭け、「輪廻の儀式」が始まったのだった。
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