第17章 魔剣士アイル攻略作戦

 アイルはまだ狂ったように喋る大岩を斬りつけていた。が、突然、声が止まってしまった。時間切れだった。


魔剣士アイル「グゥ・・・・・ジ・・・ン・・・・ド・・・コ・・・ダ・・・」


ウィル「さあ、皆さん! 作戦開始です!!」

ジン、クレス、ドクター「おう!」


 各人は次のような布陣を取っていた。ウィルとクレスとドクターは、今、アイルがいる所から随分離れた位置で互いに少しずつ間隔を置いているが、おおかた1つになっていた。そしてジンだけが、彼らとアイルを結ぶ一直線上において、ウィル達とは正反対の位置に一人だけ立っており、なにやら拳を作って、うなっていた。


ジン「ぐうううううううう! みて、やがれ・・・・・・・」


 どうやら気を拳に集中させているようであった。マーシャルアーツ士の「集中」能力である。そのころ、クレスは準備が出来たようであった。


クレス「行きます!」


 そう叫ぶと、まずは先ほどと同じようにクレスは、アイルの近くにあった大木にメモリーヴォイス能力を使った。先ほどと同じように大木が「ジン」という言葉を繰り返し喋りだした。


魔剣士アイル「グゥゥゥゥ・・・ソコカ!!!」


 魔剣士アイルは同じように、その大木を斬りつけ始めた。ウィルはあらかじめ、先ほどアイルが大岩を斬りつけていた時に、アイルの魔剣は「斬る」能力が低いと確信していたのであった。まさにその通りになった。アイルの剣は大木を「殴っている」感じだった。幹が太い木だったので、なかなか倒れそうになかった。


ウィル「グラビティショック、コンティアタック!!」

ドクター「活気泉!!!!」


 二人は術を連携させた! まず、ウィルの杖から、先ほど使った「グラビティショック」を発生させる球体が、無数に出て、アイルの背中に連続ヒットした。アイルの体はゆがんですぐ戻る、という現象を繰り返した。


魔剣士アイル「ウゴゴゴゴゴゴオオオオ!!!!」


 防御が手薄になっていたのか、背中が弱点だったのか、もだえながら絶叫するアイル。ウィルは最初にアイルにグラビティショックが効いたときの事を策に入れていたのである。ヒットしたところは同じ背中だったのだ。対して、ジンが蹴りを入れたところは腹部前面。そのときのジンの蹴りは全く効いていなかった。つまり、ダメージを与えられる場所は背部だ、と。また普通ならこれだけの術を連続で放った場合、気力が尽きるか、途中で無くなるか、なのだが、ウィルは連続術が終了した時点でも、ピンピンしていた。それは、ドクターが使った術に秘密があった。「活気泉」。つまり、術を使用するのに必要なウィルの気力は、術を唱えて減っているのだが、ドクターの「活気泉」の効果で、それと同等量の気力が補給されていたのであった。


 勿論、一見永久機関の様に思えるが、限度はある。ドクターの気力が尽き果ててしまった時だ。では、クレスの気力の限界は? それもウィルは計算済みだった。クレスが使っている「メモリーヴォイス」は、ヴォイス士の「初歩」的な能力であって、クレスほどのグレードの者ならば、なんなく使える能力であった。つまり、彼女の気力が尽きる事は心配しなくてよい、と確信していた。実際にそうだった。この1回目の攻撃でのクレスの疲労は少なくとも、心配する範疇にはなく、まだまだ十分いける様子だった。


 それより、クレスにはもう一つ、ファイナルアタックの時に大事な役があったのだ。


クレス「さあ、セカンドステージよ!」


 今度はアイルが向いているのとは逆方向にあった大木にメモリーヴォイスを使った。


魔剣士アイル「コ・・・・・コンド・・・ハ・・・・・ソッチカ・・・」


 さすがのアイルもかなり体力が削がれたようである。あの超人的な動きが鈍ってきた。攻撃がクリティカルでしかも連続だったため、回復能力が追いつかなかった様である。効果は絶大だった。


 アイルはまた声がする方向へ移動し、同じように剣を振り回していた。


ウィル「グラビティショック、コンティアタック!!」

ドクター「活気泉!!!」


 先ほどと同じ様に連携魔法を唱えた。効果も同じだった。しかし違ったのはアイルの様子だった。先ほどより遙かに動きが緩慢になり、剣の振り方もめちゃくちゃになっていた。


魔剣士アイル「グルァァァァァァァ」


 名前や固有名詞すらも声に出せなくなっていた。


ウィル「ドクターさん! あと活気泉は何回使えそうですか?」

ドクター「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・あ、あと、1回が限界だ!」

ウィル「わかりました。クレスさん! 次の攻撃の後がファイナルです!! 準備をお願いします!」

クレス「わかりました!」


 いったいウィルの言っている「ファイナル」とはなんなのであろうか? 少しして、大木からの声が聞こえなくなった頃、最後の連携魔法が放たれた! クレスがはなった声は、またアイルの向きとは逆方向の大木にメモリーされた。


魔剣士アイル「グヌヌヌヌヌヌ・・・・ソ・・・・ソッチ・・・カ!・・・・」


 アイルがまたもや声の聞こえる方向に向かっていって、剣を振り回した。もうその速さに切れは全くなかった。


ウィル「クレスさん、作戦通りに! ジンさん、ファイナル、お願いしますね!」

クレス「はい!」

ジン「オ、オウ!」


 そう告げた後、ウィルとドクターは最後の連携魔法を唱えた!


ウィル「グラビティショック、コンティアタック!!」

ドクター「活気泉!!!」


 唱え終わったドクターは、もう立っているのがやっとだった。それでもファイナルまでなんとしても立っていなければならない、絶対に。


 アイルはふらふらだった。この状態ならば顔面への一撃は、例え弱点ではなくても、人間の体の構造上、まちがいなくクリティカルであろう。最後のメモリーは消えて、アイルはふらふらっと、こっちを向いた。


魔剣士アイル「・・・ジ・・・ン・・・ハ・・・・ド・・コ・・ダ・・・」


ウィル「今です!」

クレス「エナジー オールトランスミッション!!!」


 クレスはドクターに向かって、術を唱えた。光の球体がクレスの口から発射され、ドクターの体にあたり、彼の体は光に包まれた! しばらくして光が消えた後、ドクターはある程度気力が回復したのか、体のフラフラが止まった。しかし唱えたクレスは倒れてしまっていた。気力全てをドクターに転送したのである。これがファイナルでの彼女の「役」だった。


ドクター「いっっっくぞーーーー!、いいか!!」

ジン「オウ! コイヤーーーーーーー!!!」


ドクター「極限力!!!!」


 ドクターはジンに向かってそう唱えた。唱えた後、クレスと同様に倒れてしまった。気力を使い果たしたようだ。これまで気を集中させていたジンに、想像を遙かに超える「力」が腕部にわき上がってきた!


ウィル「これで最後です!!」


ジン「オッシャァ! コイ! アイル! ジンサマハ、コッチダ!!!!」

魔剣士アイル「ジ・・・・ン・・・・ソ、ソコカァ!!!!!」


 アイルはフラフラしながらも、それでも通常の人間に比べれば尋常ではない速さでジンに突貫していった。人間で言うなら、すでに「捨て身の戦法」であった。しかし、ジンも同様だった。チャンスは一回。この一撃で決着が付かなければ終わりである。だがここで加筆しなければいけないことがある。この状況まで全員が気づいていなかったのだが、作戦が始まってから、実は地鳴りがしていたのである。


魔剣士アイル「グァァァァァァァ!、シィィィィィィネェェェェェェ!!!!!!」

ジン「キサラセェェェェェェ!!! オメガフィストォォォォォォォォォォォォ!」


 彼らの場の「気」が二人に集中する!


 ズガァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 その瞬間、気絶している者も含めて、その場の全員が動けなかった。まさに「時が止まった」か、のようだった。ジンの拳はまっすぐにアイルの右頬の部分にめり込んでいた。アイルは両手で剣を振り下ろす瞬間だった。しかし、肝心の腕も剣も両方アイルの体の上にあった。腕は微動だにしていなかった、が、魔剣はアイルの手からはずれ、地面に落下していた。ジンの「集中」、ドクターの「極限力」等で、命中率、攻撃力、共に、リミットオーバー状態になった上で、かつ、全気力を使って、無防備状態のアイルにもろに直撃していた。放たれたモノは、マーシャルアーツ士の覚醒能力「オメガフィスト」だった。


魔剣士アイル「グ・・・・・・・・・・グッフォ!」

ジン「・・・ぐ・・・・ぐは・・・・・・・・・」


 数秒後、アイルもジンも力尽きてその場に倒れた。ぴくりとも動いていなかった。唯一動けたウィルがその場に駆け寄ってきた。作戦は形式上、成功をもって終了した。


(そして約十分後・・・)


 いつの間にかアイルとジンの周りには他のメンバーが取り囲むように集まっていた。気力が回復したようである。


ウィル「起きて! 目を覚まして! お兄さま!」

クレス「ジン! 起きなさい!」


 先に起きたのはジンの方だった。


ジン「う・・・・・・・くぁぁぁぁぁ」

クレス「良かった! 起きたわ! 本当に良かったぁ!」

ジン「あ、ああ、俺は気力が尽きただけだったからな。問題はアイルの方だな。あいつはもろに喰らっちまったんだしなぁ」


 確かにアイルの方が心配であった。魔剣士の状態になっていたとはいえ、体のベースは人間のアイルだから、覚醒能力の直撃のダメージは半端ではないことは明らかだった。


ウィル「ごめん・・・・お兄さま・・・・でもこれしか手が無かったの」

ジン「おい、ドクター、医学的な診断ではどうなんだ?」


ドクター「ん~、厳しいことを言わねばならないが、生きているとは正直言えない」


ウィル「じゃ、じゃあ、お兄さま、死んじゃったの?!」


 ウィルはもう神にもすがる思いで、泣きながら質問した。


ドクター「いや、それが私にも様態がよくわからないんだよ」

ウィル「ど、どういうことですか?」

ジン「おいおい、お前「医者」だろ? わからないは、ないだろ!」


ドクター「ジン! 医術でどうにかなる位なら、とっくにやっておる!」


クレス「じゃぁ・・・・・・これって、医術で直せないの?」

ドクター「まあ、はっきり言うとそうなる」

ウィル「ごめんなさい! ごめんなさい! お兄さま! ああ! 天上の神々よ! 私の命と引き替えでいいですから、お兄さまを助けて下さい!! お願いします!」


ジン「ウィル! 冷静になれ! とにかく、俺がこいつを背負うから、ゾディさんの所に戻ろう。あそこは宿も兼業でやってたから、とりあえず安静には出来る」

クレス「それにゾディさんかガルダさんが、なにか知っているかも知れないし」

ウィル「わ、わかりました。皆さん急ぎましょう」

ジン(まってろ、アイル! それまでがんばれよ!)


 一行は転がっていた「魔剣」を柄を掴まずに鞘に納め、アイルを背負って、足早にゾディの元に向かった。

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