第15章 アイルの深い事情
ゾディ「アイルが生まれた家系「ノーザン家」は、この周期のメビウスリングでは私の職、天体士を受け継ぐ家系となっているのです」
一同「え?」
クレス「失礼ながら、ゾディさんのお話にはつじつまの合わない事が多いようですが」
ゾディ「わかりました、お答えします」
クレス「天体士は世界で一人。弟子は一人ですよね。それにゾディさんは約一万歳ですよね?」
ゾディ「はい」
クレス「でも、人間の世界での「家系」では、そんな「1万年」みたいな長い間隔で、子供が誕生するわけではありませんよ。いつの時代のノーザン家の人物で、どうやって「天体士」の弟子として認定するのですか?」
全く持って理にかなった質問であった。しかし、ゾディの口から、とんでもない回答が返ってきた。
ゾディ「この約一万年の間で適正があると認められた「ノーザン家」の者は、たった3人です。つまり、私とアイルとウィルの事です」
一呼吸おいてから、また話を続けた。
ゾディ「私の前の名前は「ノーザン=ゾディ」です。元々は創世年のノーザン家の者でした。そして私の前の周期の天体士「メテオ=クルセイダー」様の弟子となり、修行して約3000年前に正式な「天体士」になりました。残念ながらクルセイダー様は亡くなられてしまったので、その際に名前を受け継ぎ、「メテオ=ゾディ」となりました」
ジン、クレス、ドクター「ゾ、ゾディさんも「ノーザン家」の一人だったのですか」
ゾディ「そうです」
クレス「・・・ところで、「メビウスリング」という物の説明がまだ・・・」
ゾディはすっと目をつむると、なにやら瞑想している様な状態になった。そして数秒後、目を開けてから、こういった。
ゾディ「ここを起点として、すぐ未来の時間を調べましたが、私があなた方に、メビウスリングの話やそれに関する説明をしているビジョンがありませんでした。どうやら、まだ、あなた方にそこまで話す刻ではないのでしょう」
一同(????)
***
ゾディ「クレスさんには大変失礼ですが、ノーザン家とアイルの話に戻ります」
一呼吸置いて、ゾディは話の続きを語り出した。
ゾディ「天体士という職はその特性から、どうしても、「悲しさ」「つらさ」「つまらなさ」を持っています。そこが嫌いで、自分の好きな剣術の道を強引に進んでいったのが、兄のアイルです」
ジン「あいつに、ゾディさんみたいなとんでもねえ力、元々あったっけ?」
ドクター「そう言えば無かったな」
クレス「・・・・・・・・・・」
ゾディ「しかし、運命は皮肉にも、彼の妹、ウィルに向けられました。彼女、そう、目の前にいるこのウィルさんを、次の天体士の職業に次がせることになったのです」
ドクター「・・結果的にだが、ノーザン家は天体士の跡継ぎを渡した形になったのか」
ゾディ「その時点では私の所に渡されてませんでしたが、そうなりますね」
ジン「でも、あいつの性格だ、ぜってー、反対したんだろ!」
ゾディ「ええ、家が壊れると思うほどに暴れました。今の彼からは想像できないくらい。しかし、ウィルのたぐいまれな天体士の素質から、逆にアイルは完全に無視されて、ウィルの方に期待が集中しました」
クレス「本当に皮肉な話ね」
ゾディ「耐えかねたアイルは、家を飛び出したい、と、ウィルに告げました。ところが、次の朝には、もう、ウィルはいませんでした。書き置きもなく、家の者にも内緒で。アイルの悲しみは例えようもない物でした。そして、ノーザン家は結局、方向転換するしかなかったのです。ギルドの担当者に事情を説明し、説得して、剣術士の家系に。残ったアイルは冷たい目で見られながらも、剣術士として、めきめき腕を上げ、ギルドに登録されました。そして、グレード7という腕前まで成長しました」
ジン「ああ、奴の剣術士、そしてナイフ士としての腕前は俺が保証する」
ゾディ「ナイフ士の職は家を飛び出した後に護身用に彼が独自で修行して、ギルドに登録した物です」
ドクター「独学でグレード7か・・・。天才的だな」
ゾディ「しかし、彼はウィルが家出してしまった原因の剣術と天体士を、心底憎んでいました。日が経つに連れ、彼にとって「剣術」は、単なる道具になってしまいました」
クレス「それが「罪悪感」なのね。なんだかアイル、かわいそう・・・」
ジン「はん! あめーな! アイツ! 罪悪感がどうとか、そんなこと世間が認めるか! だいたい俺だって、職業に対して、腕前向上目的で、与えられた仕事に正面からぶつかっているが、見る奴が見れば「道具」にしているように見えるかもしれねえ。でも、自分の心まで、仕事を道具と思ったことは一度もねえ!」
ゾディ「存じております。あなただけではないです。少なくともここにいる職をお持ちの方々は皆さん同じです」
ジン「とーぜんよ!」
***
再び、1個前より長めに一呼吸置き、ゾディは話の続きを始めた。話も核心に近くなってきたので、言葉を少し選んでいたのです。
ゾディ「アイルの話に戻ります。それでも、そんな彼の心はあなた達と会って、旅をしていく内に、少しずつ変わっていきました」
ジン「それじゃ、ゾディさん。さっきの「アイルが仕事を道具に」って話は・・・」
ゾディ「はい。あなた達と出会う前の話です」
クレス「それでは、今のアイルは・・・・・」
ゾディ「・・・・・・・」
ゾディは黙って、また瞑想のような状態になった。そして、しばしの沈黙の後、再びゾディは話し出した。
ゾディ「少なくとも、先ほどまでは、あなた達の思いに近くなっていました」
クレス「先ほどまで?」
ゾディ「はい。しかし、今の彼は・・・」
ジン、クレス、ドクター「彼は?」
ゾディ「せっかく手に入れた心を無くしてしまいました。そして、あなた達に敵対する者となりました」
一同「!!!!!!!!」
ウィル「ゾディ様、これは・・・」
ガルダ「何かの間違いでは?」
ジン「頼む! どういうことなんだか、説明してくれ!」
ゾディ「先ほども述べたとおり、今の彼はあなた方の命をねらう敵、「魔剣士アイル」です。その超越的な探査能力で、あなた方の今いる場所、そう、ここへ猛スピードで向かっています」
クレス、ウィル「と、言うことは・・・」
ゾディ「はい、「あなた方にどうしてもお話ししなければいけない」と言った後に一言述べたとおり、あなた方はこれから、試練に挑まなければいけません」
ガルダ「し、しかし、相手はアイルではないはずです!」
ゾディ「私には最初から見えておりましたが?」
ガルダ「では、私が持っている「歴史」のデータはなんなのですか?」
ゾディ「簡単です。そのデータの通りに進む未来の記憶が「変わった」のです」
ガルダ「で、では、私の存在は・・・」
ゾディ「安心しなさい。あなたの存在が否認されてしまうほど、軌道をそれていない、ということです」
ガルダ「・・・わかりました」
ジン達はその会話の意味が、現時点では全くわからなかった。
ジン「と、とにかく! 相手はアイルなんだな! だったら、この俺が一発ぶん殴って活を入れてやる! そうすれば・・・」
ゾディ「彼の剣の腕前を一番よく知っているのはあなたなのでは?」
ジン「くっ!」
図星だった。しかしこの場で一番悲しんでいるのは他でもない、ゾディの横で涙を流している、ウィルだった。
ジン「! ウィルさん・・・。す、すまん。あんたが一番・・・つらいんだよな。お兄さんが、こんなことになってしまって」
クレス「ごめんなさいね」
ウィルは泣きやんだ。「今ここで私がしっかりしなくては」と思ったからだ。
***
ウィル「い、いえ、大丈夫です。すいませんでした。なにぶん、家を出てからは一度もお兄さまに会う機会がなかったもので」
ウィルもなんとかそう言ったものの、やはり動揺は隠せなかった。
ゾディ「あなたも一緒に行きなさい。なにか変わるかも知れません」
ウィル「え?」
ジン、クレス、ドクター(あれ・・・・・ゾディさん、初めて、「かもしれない」って言ったぞ? 何でも知っているんじゃなかったのか?)
ゾディ「皆さんの考えているとおりです。実は先ほどから、あなた方を対象にした、天体士の能力「未来確認」が出来なくなってしまいました。つまり、未来の事を話すことが出来ないのです。そこで、思いつきなのですが、アイルと深いつながりのある人物を関わらせれば、この事態を解決出来るかもしれない、そう思ったのです」
ガルダ「いつものゾディ様らしくありませんね」
ウィル「やはりお体に・・・」
ゾディ「違います。こういうことはなにぶん初めてなもので、私も不安なのですよ。あなた達と同じく、私も生きとし生けるものですから」
事態は深刻のようだった。
ジン「と、とにかく、ウィルさんには悪いが、すまんが一緒に来てくれ! アイツがいくら、その、「魔剣士」とやらになっていたとしても、まさか自分の実の妹には剣を向けないだろう」
ウィル「わかりました、が、本当によろしいのですか? ゾディ様?」
ゾディ「ええ、かまいません。あなたの天体士としての素質は私が保証します。でもあなたもご存じの通り、天体士の攻撃用のスペルはあまり種類がありません・・・そうですね、あなたの能力を増幅させるのにちょうど良い物があります。そこの帽子かけの横に立てかけてある「蒼天の杖」をもっていきなさい。随分昔、私が見習い時代に使っていたものですが、まだ現役で使えるはずです」
ウィル「・・・ありがたく使わせていただきます」
ジン「おっしゃ! それじゃ、アイルの目を覚まさせてやるか!」
クレス「今度こそウィルさんと再会させてあげましょう!」
ドクター「魔剣士とやらの呪縛から解いてやろう!」
ウィル「お兄さま・・・」
***
だが、ガルダははっきりとこういった。
ガルダ「今回は私はここで待機しております。もしもの時のことを考えて・・・」
ジン「!! おいおい! 臆したのか! ガルダ!!」
ガルダ「違います。最悪の場合を考えただけです」
ジン「縁起でもねえこと言うなって! 大丈夫だ! 絶対生還してやる! 正気に戻ったアイルを一緒に連れてな!」
ゾディ「いえ、ガルダさんにはここに残ってもらいます」
ジン「! ゾディさんまで・・・どうしたんだ、二人とも!」
クレス「もう! ジン! ガルダさんにもゾディさんにも考えがあって言っているのよ! それにガルダさんの言うとおり、保険はかけておくべきよ!」
ジン「クレス・・・・・わかったよ! 俺らで何とかするから! ガルダ! 何かあったときはゾディさんを絶対に守れよ!」
ガルダは首を深く縦に振った。
ガルダ「わかっております。あ、ジン様、「魔」のモノの存在なら感知しております。おそらく彼でしょう。ここから、そう、道なりにまっすぐ北に2kmの所です。気を付けて下さい! 速さが尋常ではないです!」
ジン「とにかく行くぞ。出来るだけ、ここから離れた場所でのエンカウントにしよう!」
ドクター「その方が安全だな」
クレス「とにかく、急ぎましょう!」
ウィル「宜しくお願いします!」
彼らは急いで外に出て、北に道なりに走っていった。
ガルダ「・・・ゾディ様、これはいったい・・・」
ゾディ「あなたの記録では、コンタクトするはずだった存在は何だったのです?」
ガルダ「・・・・・・ゲートキーパーの三匹のマンティスファミリーです。しかも、アイルが魔剣士になった直接の原因、魔に属する、あの剣は今、ここの時代にはあるはずがないのです」
ゾディ「その通りです。私もこの事態をはっきりとしたヴィジョンで見ていたわけではありません。かなりぼやけていて、不確定要素が入り交じった状態でした。そして、その後の事態の未来確認は・・・」
ガルダ「では、彼らの未来というのは?」
ゾディは目をつぶり、初めて首を横に振った。
ゾディ「私にもわかりません。でも、少なくともあなたがまだ消滅していないのですから、「結果は違っていても、あなたが存在できる」方向に向かうのでしょう。ええ、向かって欲しいです」
ガルダ「同感です」
ゾディは目を開け、ガルダに確認を取る事にした。
ゾディ「それと、古文書に少しだけ書かれていたのですが、この世界には時として、未来を変えていく存在、メビウスシステムに対する「バグ」の様な存在である「イレギュラー」というモノが存在するそうです」
ガルダ「イレギュラー? ということは・・・・・」
ゾディ「言わなくても良いですよ。わかっています。私の未来確認が出来なくなってしまった事がなによりの証拠です」
ガルダ「そうですか・・・」
ゾディ「とにかく、「変更された」試練を彼らが乗り越えてくれる事を祈ってます」
ガルダ「はい」
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