第14章 天体観測所
夕方から夜に変わって間もない頃、一行は天体観測所に到着した。目の前には、大きな筒状の物が、斜めになった状態で空に向かってそびえ立っていた。
建物自体はそれほど大きいわけでは無かったが、入り口に星の形の模様が彫ってある、見慣れない小さな看板と、宿のマークの看板が掛かっていた。どうやら、宿泊施設も兼業でやっているようだった。一行はガルダの背からおり、まじまじと建物を見ていた。
ジン「ほ~、宿もやっているのか。それにしても、なんだ、あの星の模様が彫ってある看板は? 見たこと無いな」
クレス「でもかわいい看板ね」
ジン「クレス、あれ、欲しいのか? じゃ、後で相談して、譲ってもらおうか?」
クレス「・・・ありがとう。でも、看板って事は、職の印でしょ? 気持ちだけもらっておくね」
ドクター「・・・ご、ごほん!」
ドクターはちょっと咳払いをした。ジンとクレスはお互いに顔を赤らめた。
ジン、クレス「ごめん」
ガルダ「・・・さて、皆様方、私がドア越しで挨拶してきますので、その後で中に入って下さい」
クレス「あの、ガルダさんが挨拶して、ゾディさんって方、驚かないの?」
ガルダ「クレス様大丈夫です。相手方も知っておりますから」
クレス「それなら安心ですね・・・・・って?」
ジン、クレス、ドクター「え?」
ガルダは玄関のそばに来て、くちばしで戸をつついた。
???「もう、存じております。皆さん、お入りになって下さい」
ガルダ「随分前からご覧になられてたのですね。それでは入らせていただきます」
???「よしなに」
ジン達は、この光景が不思議でならなかった。まるで、知り合い通しの会話だ。それに相手は「前から見ていた」と語った。なぜ? どうやって? この言葉も引っかかった。もし全てを見ていたのなら、なんであんな危険な状態の時に何らかの行動を起こしてくれなかったのだろう? それと見ていたのだったら、相手は今、戸をたたいているのが、大きな鳥であることは知っているはずだ。それを知っていても驚かないのは、どうしてだろう? ジン達全員がそう思っていた。小さくなったガルダに続いて、ジンが入っていった。その後にドクター、クレスと続いた。
ジン「こんばんはー!」
ドクター「今晩は」
クレス「おじゃまいたします」
ガルダはちょうど帽子かけがあったので、そこに止まった。
しかし、一行は、途中で、目を丸くして、立ち止まってしまった。そこにいたのは、椅子に座っている、変わった服を着た小さな少女と、同じ様な服を着て、そばで立っている18歳くらいの女性だけだった。一同は、ガルダの話から、ゾディさんは、絶対歳を取ったおじいさんかおばあさんだと思っていた。少なくても若くはない、と。
ジン「あ、あの~、ゾディさん・・・っすか?」
ジンは立っている方の女性の方に質問した。
座っている少女「彼女は弟子です」
立っている女性「はい」
ジン、クレス、ドクター「えーーーーーーー!!」
一同はまた、目を丸くした。もしかして、ゾディさんって・・・・。
座っている少女「私がゾディ、メテオ=ゾディです。天体士をやっております」
一同は信じられないと言いたげに、口をポカンと開けたままになってしまった。そして、しばしの沈黙・・・・・。
ジン「あ、あ、あ、あの~、失礼なんですが、お歳は~?」
クレス「あ、ばか! レディに歳をきいちゃだめでしょ! ごめんなさいね、この人、デリカシーが無くて」
ゾディ「いえ、結構です。それより、あなた方は、お互いに想い人なのですから、悪く言うのは好ましくないですよ。もっと広い心でわかってあげなさい」
ジン、クレス(想い人!!!)
ジンとクレスは、二人ともまた真っ赤になった。
ドクター(このゾディさんとやら、なんでそんなことまで知っているんだ? どこの時点から俺達を見ていたんだ?)
ゾディ「さて、私の歳ですが、約一万歳です」
一同「い、一万歳!?」
次々くる、信じられないようなことに、一同はもうぼーぜんとはしなくなった。驚くことは驚くが、もう何でも来いの世界である。
ゾディ「正確には9999歳です」
立っている少女「ゾディ様、お体にさわります。ご無理のないように」
ゾディ「大丈夫です。これから、少々、この方々に事情を説明しなければいけません。長くなるのはやむを得ません」
立っている少女「今日はお休みになられて、その話は明日にでも・・・」
ゾディ「ノーザンさん、彼らには時間がないのです。今、ここでお話ししなければいけません。そして、終わり次第、さらなる試練に立ち向かわなければなりません」
一同はここへ来て、やっとこ、聞き慣れた言葉を耳にした。しかし全員がこう思った。
(なぜここで?)
そう、なぜこの場所で、アイルのファーストネーム「ノーザン」が出てきたのか、である。
クレス「あの、お話の前にとりあえず一つだけお訊きしたいのですが・・・」
ゾディ「彼女の事ですね」
と言って、横に立っている女性の方を向いた。
クレス「?! どうしてわかったんですか?」
ゾディ「彼女の事を説明している、私が見えましたから」
クレス(!? ノーザンって名前が出てきたからじゃないの?)
ゾディ「わかりました。未来確認の通りに、ここからお話をしなければいけませんね」
***
ゾディ「まず、先にも伝えしましたとおり、彼女は私の弟子です。名は、ノーザン=ウィル。御察知の通り、あなた方のよくご存じの剣術士ノーザン=アイルの実妹です」
ジンは記憶に残っている範囲でアイルの言っていた事を思い出してみたが、該当する記憶がなかった。
ジン「ちょ、ちょっと待ってくれ。あいつとは随分一緒に旅をしてきたが、その名前どころか、自分に妹がいること自体、話したことはないぞ」
ゾディ「理由は2つ。1つはあなたの性格。もう1つは彼と彼女が離れてしまうきっかけを作った事への彼の罪悪感」
ジンは、なんでそこで自分の事が出てきたのかがよくわからなかった。
ジン「お、俺?」
後ろでクレスがジンの耳元に向かって声を殺しながらささやいた。
クレス「あ・ん・た・が女性に見境がない所よ。彼女を見てもわかるでしょ? 相当の美人さんよ?彼女みたいな綺麗なヒトが妹だ、なんて事があんたに知られたら、怪物に知られるより危険でしょ」
昔のジンならいくら何でもクレスに喰ってかかるだろう。しかし、曲がりなりにも彼女は自分の想い人だ。そう言う人からはっきり言われてしまったのがよほどショックだったのか、ジンはうなだれて、とぼとぼと近くの壁の方に歩いていって、しゃがんで、「の」の字を書き始めた。
クレス「あ! ごめん! ジン。ちょっと言い過ぎた!」
ゾディ「いえ、あなたのささやいたことと同じ事を、確かにアイルは考えておりました」
ジン(きっっっっつうー!)
ジンは半べそかきながら、今度は両手で「の」の字を書き出した。
クレス「・・・・・・機嫌なおしたら、ほっぺに、ちゅ、してあげる」
ジン「治りました!」
ドクター、クレス(・・・はっやー!)
約束通り、クレスはジンの頬にキスをした。ジンは気分上々である。
ドクター「相変わらず、ラブラブだのぉ」
それを見て、ちょっと恥ずかしそうにしたのがウィル。それを表情一つ変えず静観していたのがゾディだった。
ゾディ「・・・続けます。とにかく、彼はあなた方の初期の目的、「職業の最高位になること」について、パーティ作りのミーティングで、自分もそうだと言っていましたね」
ジン「ああ、そうじゃないと、ギルドでパーティ組めないし、給金ももらえないし、仕事も勿論来ない」
ゾディ「でも彼にとってそれは単なる口だけのこと。彼の本当の目的は、そう、あなた、ウィルを探し出して、一緒に家に帰ることだったのです」
横にいたウィルも、どうやら初めて聞く事だったらしく、ゾディに見つめられると、かなり動揺していた。
ウィル(そ、そんな・・・お兄様、そんなことを・・・私のため?)
ゾディ「そうです」
ゾディはウィルの考えていることすらもわかるようだった。
クレス「でも、ゾディさん! 私だって、職業の最高位になることと一緒に、消息不明の姉の捜索もしているんです。条件は同じだと思います。でも私は自分の職の、この、ヴォイス能力をどうでもいいなんて思ったことは一度もありません!」
居合わせたパーティの全員がうなずいた。
ジン「ああ、全くだ。クレスは捜索をしながらも、いつも全力で自分の職業にぶつかっている! あんたが言うことが本当なら、自分の職を単なる道具にしか使わなねえ様な、あいつは、あいつは最低の奴だ!」
ゾディはやっぱり無表情で、ジンに質問した。
ゾディ「あなたは私が言った、2つ目の理由の事を覚えているのですか?」
ジン「理由?」
ジンは完全に忘れていた。仕方ないので彼の変わりにクレスが答えることとなった。
クレス「確か・・・「アイルさんとウィルさんが離れてしまうきっかけを作った事へのアイルさんの罪悪感」でしたっけ」
ゾディ「そうです」
ジン「罪悪感? なんか深い事情でもあるのか?」
ゾディ「はい」
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