第11章 他の仲間を探して ~クレス編~

 グラン=パリスの根城とはかなり離れた所にある、深い深い湖。深緑色の湖面に異形の怪物と女性が映っていた。触手で絡まれ、口も封印されて気絶したクレスと、その触手の持ち主にして、未だにフォルテの顔の形の「部分」を付けている「ローパー」だった。クレスは全ての服が溶かされ、全裸であった。


ローパー「なんて、美味しそうな娘・・・。体の養分を吸い尽くせるように、この娘の服は全部溶かしておいたし、体は触手で締め付けておいた。勿論、危険な口は触手で封じてある。ついでに気絶しているから、完全に抵抗できまい! しかもあのヴォイス士の里の後継者となれば、上玉も上玉!」


 全く持って姿も醜いが、性格も醜い。口調から性別は女性らしいが、あまり関係ないようだ。


ローパー「グラン様は、根城に連れてきてたっぷりなぶってやってから殺す、とおっしゃっていたが、それでは、この美しい肉体に宿る、最高級の養分を食べられなくなるわ! でもグラン様のお仕置きは怖いし・・・」


 かなり困っているようだった。それほどにグランの仕打ちは恐ろしいのだろうか? まあ、あんな命令をする位だから、とうてい尋常なシロモノで無い事は察しが付く。


ローパー「ううううう、もう限界よ!! 仕置きは怖いけど、どっかに落としてきたとか報告してごまかすわ! それでは、素晴らしいフルコースの時間よ!」


 ローパーは、クレスの体全てから養分を吸い尽くすため、触手をさらに分岐させ、再びクレスの全身を覆おうとした! しかしその瞬間! 1本の剣が高速で飛んできて、クレスの口にへばりついている触手の根本に直撃して突き刺さった! 触手は音を立てて、口からはずれ、粘液をまといながら地面に落下した。


ローパー「うぎゃああああ! な、なにが起こった! グラン様? いや違うわ! だ、誰よ!」

???「怪物に誰呼ばわりされる記憶はないがなあ」


 飛んできた剣の起点と思われる所に、一人の男がローパーを睨んで仁王立ちしていた。誰呼ばわりがよほど気にくわなかったのか、かなりいきり立っている様子だった。


ローパー「???? !!!! お、お前は、ジン?! お前ならクリーピングコインが・・・・・くっ! しくじったか!」


 ジンは剣でねらい打ちするため、先に近くに飛び降りていたのだ。


ローパー「でもなぜ、この場所がわかった? 幻術が解けてもこの場所は絶対に・・」


 ローパーはかなり困惑しているようであった。すると、空から声が聞こえてきた。


???「私らの存在を忘れたかな? それともターゲット以外のメンバーは眼中なしか?」


 彼らは、そう答えながら、着陸してきた。


ローパー「んんん! レイス! それに・・・・・なんだ、そのバカでかい鳥は!」

ガルダ「お初にお目にかかる。ガルダと命名された者だ。コンゴトモヨロシク」

ローパー「えええええい! グラン様までしくじったの! それに、その鳥!・・・ガルダって、まさか! あの・・・、い、いやちがうわ、名前が同じでも姿が全然違う!」

ドクター(? ガルダってのは、さっきジンが付けた名前だ。なのに、なんでこいつはこの名前に反応したんだ? 知っているようだったし・・・全く持って謎だらけじゃ)


ローパー「ええい!!! どうやら貴様の千里眼で、ここがわかったらしいな!? くそ! グラン様から聞いたパーティには、お前なんかいなかったわよ!」

ガルダ「それはお気の毒に」

ローパー「よけいなお世話よ!」


ジン「おいおい! 俺を無視するなっつーの!! とにかく、てめーが連れていったクレスは、しっかり返して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぐぅぉ!」


 ジンは珍しく顔が真っ赤になり、両方の鼻の穴から、赤いモノが吹き出してきた。鼻血である。


ドクター「あのばか!」

ガルダ「ジン様・・・」

ローパー「???? あ、あーそーね! このかわいい餌は、そう言えば裸だったわねぇ! ふふ、見かけによらず、純情ちゃんね。それでは、あなたのご希望にお答えして、食べる前にちょっとサービスをしてあげましょうかぁ? あんたらの世界では、男どもは、女性のこーーーーんな格好がお好きでしたっけ?」


 ローパーはクレスが気絶しているのを良いことに、裸の彼女を触手で操って、淫らな格好をさせようとした。


ジン「そ、それはうれし・・・・いや!! このど変態やろう! そう言うことは、てめーの助けを借りなくても、俺がいつか・・、いやいや、違う! 違う! 違う!!!」


ドクター「は~、だめだこりゃ」

ガルダ「ジン様・・・」


 ジンはかなり混乱しているようだった。冷静に相手を倒そうと言う目的と、男としての性が頭の中でぐるぐる回転していた。しかし、ようやくある結論にたどり着いた。


***


ローパー「あんた、いったい何なのよ! 観たいの? 観たくないの? せっかくの食事の前の余興なのに! さっさと決めてよ!」

ドクター「ジン! 冷静になれ! ここは戦場だぞ!」

ガルダ「ジン様! 相手のペースに乗せられてはだめです! ここは一つ冷静に!」


ジン「んんんん、もう我慢できん! おい! こんなチャンスはもうねえかも知れねーんだ! てめーが喰う前に、俺がこの手でクレスを・・その、なんだ・・」


 あれだけ女性にモーションかけているジンなのに、このときはまるでだめだめの状態だった。いつも口にしている言葉が出てこない。


ローパー「抱くわけね」

ジン「そ、そうだ! 俺もおめーの触手の中に入って、クレスと一緒になってやる! その後、俺とクレスを喰えばいいだろう!」


 この現状をまるで理解していないような、とんでもない提案であった。


ローパー「まぁ! 今時珍しいわねえ。そんなにこの娘が好きなの? 自分が死んでまでも」


 ローパーでなくても、こんな突飛な事、質問しないではいられないであろう。


ジン「お、おう! 悪いか! 好きで好きで、しょーーーーがねえよ! クレスと一緒になって死んでいくなら、本望だ! どーせその後、ドクターとガルダが、てめーをぶっ倒してくれるはずだからなあ!」


ドクター「お、お、おい! ジン! なに言ってるんだ! 気でも触れたか?!」

ガルダ「ジン様! お気を確かに!」


ローパー「・・・わかったわ、見かけに寄らず、あんた、いい男だよ! 惚れたわ! その提案、きいてあげるわ! こっちに来て。彼女の近くの触手に隙間を開けてあげるから、その中に入って。入り口は開けて置いてあげるわ。事が済んだら、この小娘とあんたを仲良く消化してあげるわ」

ジン「わかった」


 つかつかっと、ローパーに近づくジン。もう、すでに覚悟は決めているようだった。ドクターは、もうあきらめてしまった。


ドクター「あいつ、なんてばか野郎だ! 大バカやろうだ!・・・・にしても、あいつ、そこまでクレスのことを・・・・・」

ガルダ「・・・・・」

ドクター「ま、ヒトのことはいえんか・・・男はみんなそんなモンか」

ガルダ「・・・・レイスさん、攻撃の準備をしておいて下さい。集中攻撃をかけます」

ドクター「! おい! こんな時になに言っているんだ! お前まで毒気にやられたか? そんなことしたらローパーどころか二人も・・・」

ガルダ「違います。今ではないです。ローパーは入り口を開けて置いてあげる、と言ってました。その開いた口をめがけて一斉攻撃するのです」

ドクター「・・・いちかばちかの賭か」


ガルダ「そうです。それと、ジン様は中に取り込まれるために入っていくのではないです。中からクレス様を取り出しに行くのです」

ドクター「・・そ、そうか! ローパーを油断させて置いて、時間を稼いでいたんだ! そして消化を遅らせて、中から取り出すのか!」

ガルダ「そうです。今、こっちから仕掛けると、ローパーは怒ってすぐにクレス様を消化するでしょう。でも、女性のローパーは、ジン様の男気の言葉に感銘しています。この後の一瞬の時が、取り出すのも、攻撃するのも、最後のチャンスです。失敗すればお二人だけでなく、私たちもジ・エンドです」

ドクター「・・・わかった。まだ試していないが、攻撃タイプの風水術を1つ覚えている。それを使ってみる!」

ガルダ「お願いします。でも「水」属性の術は禁物です。相手に吸収されます」

ドクター「わかっている。「雷炎系」の術だ。さっきの覚醒で覚えた技の派生系だ」

ガルダ「了解しました。私も風系の術であの触手を切り刻みます」

ドクター「わかった!」


 ついにジンは内部にいたクレスとそれを取り囲んでいるゲル状の触手の前にたどり着いた。


ジン「・・・開けてくれ」

ローパー「わかったわ、死んでも後悔の無いように、しっかりやりなさいよ」

ジン「わかっている」


 じゅるっと空いたゲル状触手の隙間に入ったジンは、触手が解かれて、体内の水の中を漂っているクレスの体を抱きしめた。


ジン(クレス、お前を死なせはしない! 絶対! 絶対にだ!)


***


ローパー「どーーしたの? あんたのテクニックって、抱きしめるだけ? それじゃあ、女は満足しないわよ! もう、しっかりやりなさい!」

ジン「ああ、わかっているよ、クレスは満足させてやる・・・だが! やるのはお前の体の外でだ!!!!」

ローパー「なに!!!! 貴様、謀ったな!」

ジン「わーるかったな!」


 そう言ったすぐ後にローパーが開けた入り口部分が爆発した。ドクターとガルダの集中攻撃がやっと開いた入り口にヒットしたのである!。勿論、中の二人には影響のない程度でだ。もろに内部に攻撃を喰らったローパーは大きくその巨体を揺らした。そして、体の一部のどろっとした固まりが地面に落ちた。


ローパー「うぎゃああああああ! 貴様、貴様!」


 ローパーの体外に脱出したジンは、クレスを抱えて、全速力でドクター達の所までかけだした。


ジン「ありがとよ! ほんじゃま、お後はヨロシク!」

ドクター「おお! 任せておけ! 行くぞ!ガルダ!」

ガルダ「行きます!」

ローパー「き、き、貴様ら! 全員! 皆殺しだ!!!!」


 ドクター達とローパーの戦闘が始まった。


ドクター「龍雷!」


 先が「竜頭」となっている雷の矢のような物を、天から落とした!。矢はローパーの肉体に突き刺さる!」


ガルダ「風神剣!」


 翼の羽ばたきで作った風の剣を無数に発射し、ローパーの肉体を切り刻む! そして、雷の矢と風の剣が何度もローパーの体を揺り動かす!


ドクター、ガルダ「どうだ!」


 攻撃により生まれた噴煙は少しずつ消えていき、ローパーの姿が見えるようになった。しかし・・・、


ローパー「これだけ? それでおしまい?」


 これだけの攻撃を受けているのに、ローパーの体自体はそれほどダメージを追っていなかった。先ほど攻撃を受けた入り口付近の触手もいつのまにか回復していた。


ドクター、ガルダ「なんて奴だ!」


 それでも、攻撃は繰り返された。しかし、ドクターもガルダも、呼吸が荒くなってきた。決定的な一撃を与えられないのである! 彼らの攻撃能力も落ちかけてきた。


ローパー「は~、退屈! こんなんじゃ、あんたら、女性を喜ばせられないわよ! それじゃ、そろそろ、私、本気で行きましょうか?」

ドクター、ガルダ「くっ!!!」


 ところで、ドクター達の攻撃が開始された頃、クレスをかかえたジンは、そばの木の下に隠れていた。クレスの気を取り戻すためである。


ジン「クレス! クレス! 気が付いてくれ! くそ! ショックと体力低下で完全に落ちている!仕方ない、ドクターに習った救命方法を試してみるか!」


 そういうと、ジンはまず、クレスの胸当たりに両手を三角形を作る様において、人工マッサージをした。


ジン「頼む! 起きてくれ!」


 何度か行った後、心臓の鼓動がはっきりしてきた。効果はあったようだ。


ジン「よ、よかった、後は人工呼吸か・・。すまん、人工呼吸、やらせてもらうぞ!」


***


 ジンは思いっきり吸い込むと、クレスの口をこじ開け、唇と唇が触れ合う様にして、一気に息を中に吹き込んだ!


ジン(頼む!)


 ジンの願いが通じたのか、何度かの人工呼吸の後、肌の赤みが増してきた。そして鼓動がはっきりしてきて、呼吸も戻り始めた。


ジン(!!!)


クレス「ご、ごほ!」


 クレスは口から液体を吐き出した。おそらくローパーの体液だろう。程なくして、クレスは薄目を開けた。意識が戻ったようだ。


クレス「う・・・・・・・・ん・・・・・・あ・・・・・・・・・あれ、ジ、ジン?」

ジン「!!! よ、よかった! 気が付いてくれた!! クレス! お前、助かったんだぞ! 本当に良かった!」

クレス「こ、ここ、どこ・・・・・って、なんか、寒い・・・・・」

ジン「そ、そりゃあ、まっぱなんだから寒いわなあ」

クレス「え・・、まっぱ?・・・・・って事は・・・裸・・・!!!!!!」

ジン「とりあえず、俺のコート着てな! まだ服は・・・・・」

クレス「○×△□☆※#%&$!?<>*-+/!!!!!!」


 クレスはコートをふんだくって羽織った後は、もう理解できない言葉を発しながら、ジンの頬を思いっきりひっぱたいて、ローパーの方へ行ってしまった。ジンはまたもや、数m位すっ飛んで、頭から地面に激突した。


ジン「な・・・・・なんで・・・・・」


 そう言って、また気絶してしまった。よほどクレスの一撃がすさまじかったのだろう。恥じらう乙女と言うよりは、戦乙女ワルキューレの鉄拳制裁のようだった。


ドクター、ガルダ「はぁはぁはぁ・・・・・」


 両名とも、ダウン寸前のようだ。それも至極当然である。ガルダは飛びながら攻撃しているのであるから体力消耗は当たり前であるし、ドクターはドクターで、まだ覚えたばかりで、使い込んでいない術を乱発しているのである。だが、一番大きい疲労は「精神」の方である。あれだけの攻撃を受けているのにローパーは、なぜか疲労がなく、ダメージもほとんどない。これではたまらない!


ローパー「ほ、ほ、ほ! あんた方の攻撃って、そんなモノ! ふふふ! 私が何でこうして湖のそばにいると思って? 私は水系の生き物よ。水があれば、回復なんてたやすいのよ? っと、しゃべりすぎたわね。そろそろ、ファイナルと行きましょうか?」


 ローパーはほぼ全快状態。しかし、ドクターとガルダは疲労困憊状態である。


ドクター、ガルダ「くっ!!!」


???「ドクターさん、鳥さん、どいて!」

ドクター「!? クレス?」

ガルダ「クレス様?」


 そこには、ジンのコートを羽織った、やる気満々状態のクレスが立っていた。


ローパー「!!! お、お前! なんで気が付いた!」

クレス「よ・・・よくも私のおねえちゃんの姿で・・・・・、それに、それに、よりによって、私の初めてを、あーーーーーーんな奴に!!!!」

ローパー「は、はじめて? って、ああ、おまえ、あの男にもう抱かれたのかい? おさかんなことで・・・・・」


 クレスは怒っていたための真っ赤さに加えて、思いっきり恥ずかしい感情がわきだしてきて、さらに真っ赤になった。


クレス「だ、だ、だかれた???? ジョーダン言わないで! キスよ、キス! 人工呼吸の時に・・・よりによって、ジンなんかに・・・ファーストキスを!・・・」

ローパー「は~??? キス~??? お前、なーんも奴から聞いていないのかい? あいつは、気絶中のあんたを抱くために、そして、一緒に自分も死ぬって言って、私の中へ入ってきたのよ? てっきりその後、どっかに逃げたから、そこらへんでちゃちゃっと済ませたんだと思ったんだけどねえ・・・」


***


ドクター「い、い、言っちまったよ! おりゃ、もーーーーしらねーからな!」

ガルダ「・・・・・ジン様も奴も、半殺しじゃ、済みそうにないようですね・・・」


 このとき、また、あの地鳴りが始まった。絵の具の赤を塗ったくった様に真っ赤になり、完全にキレてしまったクレスの周りにその場の気が集中してきた! そして、彼女の周りに空間のゆがみが生じ始めた!


ガルダ「・・・・・まずい! また覚醒の刻だ! レイスさん! ここから離れます! 急いで!」

ドクター「あ、ああ、こりゃ、とんでもないことが起きるぞ」


 ドクターはガルダの背に乗っかり、そばから少し離れた空中でこの成り行きを伺うことにした。


ローパー「??? なんだ、この場は? ゆがんでる? ん? 湖面に不思議な波紋が??? なにが起きるのよ?」


クレス「・・ナミノセイレイヨ、タイキノセイレイヨ、ワガマエニタチハダカリシ、イギョウノモノヲメッサンガタメ、ナンジラノチカラ、ワレニアタエタマエ・・・・・」


ローパー「なによ! 突然! 変なこと口走って!」


 ローパーはかなり動揺している様だった。そして、トランス状態のクレスは大声でこう叫んだ!


クレス「マスターブレス!」


 そう叫んだ後すぐに、クレスは大きく深呼吸し、口を大きく開けた。


ローパー「その手に乗るかい! 触手で口を・・・」


 しかし、時すでに遅し。クレスの口から空間をゆがめながら大きな光の輪が飛び出してきた。


ローパー「??!!!!! しょ、触手がああああああ!!!!」


 触手は輪の進行方法に向かって、消えて無くなっていった。そして、本体も・・・・。


ローパー「うううううっっっっっああああああ!!! やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」


 断末魔の叫びがクレスに届くことなく、ローパーは完全に消滅してしまった。その場にはローパーの部品の1つすらも残っていなかった。そして後ろの湖面には見たこともないような波紋が浮かび上がり、輪は湖面を進んで行った。湖面を削るように。


ドクター「まずい! あれでは、進行方向のモノ全てを消滅させるまで、消えないぞ!」

ガルダ「大丈夫です。そろそろ止まります」


 ガルダの言ったとおり、光の輪は途中で消えた。空間のゆがみもおさまったようだ。よく見るとクレスはその場に倒れていた。


ガルダ「まだ、あの覚醒能力に耐えられるだけの心肺機能を持っていない様でしたから。無理に引き出されてしまったので気絶したのでしょう。だから放たれた物も途中で止まったのです」


ドクター「そ、そうか! と、とりあえず、救助だ!」


***


クレス(ん・・・? ここ・・・どこ?)


 クレスは暗闇の中を漂う、大きな虹色の泡の中にいた。しかもジンのコートを羽織っていた。


クレス(そっか、あいつのコート着てたんだっけ・・・。それにしても、ここどこ? 夢の中?)


 下の方でなにやら騒いでいる光景が、泡の中から見えることに気づいた。


クレス(あ、あれって・・・・・あいつだわ! で・・・! あれ! あの気味悪い奴の中にいるの・・・私じゃない! しかも・・・裸って! やだ! あいつに見られてたの!!! 起きたらただじゃすまないんだから!!! って、ん?)


ジン「んんんん、もう我慢できん! おい! こんなチャンスはもうねえかも知れねーんだ! てめーが喰う前に、俺がこの手でクレスを・・その、なんだ・・」


クレス(な、なによ、あいつ! チャンスって、なに? ちょっと! なにする気?!)

ローパー「抱くわけね」

ジン「そ、そうだ! 俺もおめーの触手の中に入って、クレスと一緒になってやる! その後、俺とクレスを喰えばいいだろう!」


クレス(きゃああああああ!!!!! うそうそうそ! ジョーダンじゃないわ! あんな奴と一緒になる位なら、死んだ方が・・・・・え? 一緒に・・・喰われる?)


ローパー「まぁ! 今時珍しいわねえ。そんなにこの娘が好きなの? 自分が死んでまでも」

ジン「お、おう! 悪いか! 好きで好きで、しょーーーーがねえよ! クレスと一緒になって死んでいくなら、本望だ! どーせその後、ドクターとガルダが、てめーをぶっ倒してくれるはずだからなあ!」


クレス(ジン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


***


ローパー「・・・わかったわ、見かけに寄らず、あんたいい男だよ! 惚れたわ! その提案、きいてあげるわ! こっちに来て。彼女の近くの触手に隙間を開けてあげるから、その中に入って。入り口は開けて置いてあげるわ。事が済んだら、この小娘とあんたを仲良く消化してあげるわ」

ジン「わかった」


クレス「わ、ばか! ジン! ちょっと! 本当に・・・私と一緒に・・・、に、逃げて! お願い!」

ジン「・・・開けてくれ」

ローパー「わかったわ、死んでも後悔の無いように、しっかりやりなさいよ」

ジン「わかっている」


 泡の中のクレスはもうぼろぼろ泣いていた。


クレス「だめ! お願い! 逃げて!」


 ジンは体内の水の中を漂っているクレスの体を抱きしめた。


 なぜか、泡の中のクレスは、すでに泣きやんでいた。そして・・・、


クレス(・・・・・なんか・・・・・今、私、体が・・・熱い・・・・・)


ジン(クレス、お前を死なせはしない! 絶対! 絶対にだ!)


クレス(・・・・・・私も! 私も、絶対、あなたを死なせない! 絶対に!)


 そこで、ビジョンも泡も消えてなくなった。真っ暗闇の中に一人たたずむクレス。でも、なにか、心が熱かった。そして、その熱さは温かみに変わり、さらに光となり、体を優しく包んだ。


クレス(ジン・・・・・・・ひっぱたいて・・・ごめんね・・・・・また会えたら・・・私・・・・・・・・・・)


***


ドクター「おい! クレス! しっかりしろ! クレス!」


 今度はドクターの救急救命措置が施されていた。


クレス「ん・・・・・・・・・・・あ、あれ?」

ドクター「気が付いたか、良かった」

クレス「私・・・・・・」


 彼女はまだ記憶と現実の境目にいるようだった。あの光景と今の状態のつながりを十分把握できていないようであった。


ドクター「大丈夫か? クレス。そうだ! 君にも覚醒能力があったんだぞ! それもとびきり凄い奴が! 何せ、あのローパーを一撃で倒したんだぞ!」


クレス「・・・・・・ジンは?」


ドクター「? ジ、ジンなら、君にすっ飛ばされてあそこでのびて・・・あ、起きた」


 起きあがったジンは仲間の元へよろよろしながら歩いてきた。


ジン「いっつう~、なんで俺ばっかり!」


 クレスはジンをじっと見つめていた。


ドクター「ク、クレス! 頼むから、ジンのことは、半殺しくらいにしておいてくれ! また蘇生をやっていたら、次のアイルの捜索が大幅におくれ・・・・・・」


クレス「・・・・・・・・ジン、助けてくれて、ありがとう・・・・・・・・・」


 彼女の反応は、明らかにこれまでとは全く違っていた。あのいつものきつめの感じが全くない。純朴で素直な、可憐な少女といった感じであった。


 さすがのジンもこれには違和感があった。そこで、つい、こう口走ってしまった。


ジン「・・・へ? お、お前、どっか、頭でも打ったか? 悪いモノでも食べたか? 大丈夫か?」

クレス「・・・さっきはわけわからなかったから・・・ねえ、顔を出して・・・・・」


ジン(ひぇ! またびんたかよ! 今度は何mすっ飛ぶんだ!)


 ジンは覚悟を決めて、すごすごと顔をクレスの前に差し出した。が、クレス以外の全員が、目を丸くする事になろうとは・・・・・。


***


ちゅっ♡


なんと、クレスはジンに口づけをしたのだ。


ジン「・・・・・!!!!!!!!」


 クレスは唇を離すと、ジンの唇に一差し指を当てて、ウィンクしながら、こう言った。


クレス「お・か・え・し♡」

ジン「・・・・・クレス・・・・・・」


 お互いに見つめ合う二人。このいつもと違う「場」にどうにも耐えられなかったのか、ドクターはつぶやいた。


ドクター「・・・・あー、そのー、なんだ、ゴ、ゴホン! とりあえずだなあ・・・」


 その言葉が介入してきても、二人はまだ見つめ合っていた。その光景を隣で見ていたガルダは、不思議な気持ちになった。


ガルダ(・・・・・そうでしたか・・・・・だから・・・・・)


 クレスは、木の陰で自分の荷物にあった替えの服を着た。そして、アイル捜索に向かった。移動手段はガルダの背に乗ってだ。しかし、移動中の風景で、変わった事は、ガルダの存在、アイルがいないこと、でもそれだけではない。あれだけ喧々囂々だったクレスとジンが寄り添っているのである。


 ジンの方は、まだぎこちない様子だった、が、クレスの様子は一変したままだった。明らかに恋人同士と言って良いと思う。ドクターも気を使って、もう見ないことにした。


ジン「・・・あのよ・・・クレス・・・」

クレス「・・・なに?」

ジン「なんか、雰囲気・・・変わったな・・・」

クレス「・・・・いや?」

ジン「い、いや・・その・・なんだ、そう、今の方が・・ずっと・・かわいい・・・」

クレス「・・・うれしい」

ジン「それと・・・言って良いか?」

クレス「うん」

ジン「あのよ・・・・・結構、おまえ・・・胸・・・・・大きいな・・・」


 ジンはまたとっさに防御の姿勢を取った。まるでパブロフの犬である。しかし、取り越し苦労だった。クレスは少し頬を赤らめながら、


クレス「・・・ありがとう・・・今度、また・・・・・確かめて・・・みる?」

ジン「うえ?????」


 真っ赤になったのは、クレスでは無く、ジンの方だった。そして、ドクターも年甲斐もなく真っ赤になった。また珍しくガルダも顔が赤くなった。


ドクター「仲良きことは美しきかな。恋する乙女は綺麗になる! いいねえ、若いってやつは!」


ガルダ(・・・・・相思相愛に・・・・なられましたか。・・・あの方の誕生も・・・もうすぐの様ですね。ジン様、クレス様・・・これからもお幸せに)


 月光は、彼らを、いや、寄り添う二人を煌々と照らしていた。

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