第10章 ジンの治療
一行はすぐ近くの古びた建物の中に入っていった。さすが、名医とうたわれただけのことはある。一連の医療用具はちゃんと整っていた。その後、とりあえず応急処置と簡単な診断が行われた。
黒い鳥「どうでしょう?」
ドクター「ん~、内臓器官や急所にはいっさい損傷はない。さすがだ、と言いたいが、それ以外の部分の外傷による出血がひどかったようだ。今は出血は止まっているが、現在も失血性の気絶状態が続いている」
黒い鳥は心配そうにジンを見つめていた。
ドクター「心配するな! 前もって彼の血液型はきいてある。この型の輸血用血液なら、まだかなり保管してある。何かのために保管庫には自動管理装置が付けてあるからすぐ使える! 輸血後、心拍数が回復すれば、点滴だけで十分だ」
ドクターはとりあえず、輸血用の保管血液を持ってきて、輸血をした。ジンの体に血の気が回復してきた。どうやら、体の方は大丈夫の様だ。
ドクター「失血の方の手当はあらかた終わったようだな。肉体自体の回復も始まっている。元々丈夫な奴だからな、こいつは。ただ・・・」
黒い鳥「ただ?」
ドクター「ただ、一番大事なのは「気」が回復することなんだよ。気が付いてくれないと、こちらとしても、どうにもしょうがない。人間は肉体と精神の2つで成り立っているからな。医術では、死亡や手遅れでなければ、肉体の方の回復は、ほぼ100%可能なんだが、「気」ばかりは医術ではどうにも」
黒い鳥は少し、首を傾けていたが、しばらくしてこう言った。
黒い鳥「ようするに起こせばいいのですね」
ドクター「まあ、簡単に言ってしまえばそうだが、そう簡単には・・・」
黒い鳥「これまでは起こすと面倒だと思っていたので、そのままにしておきましたが。わかりました。ちょっと、うるさくなりますがいいですか?」
ドクター「あ、ああ、頼むよ」
黒い鳥は、おもむろにジンの耳元に嘴を近づけると、大音量で、こう叫んだ。
黒い鳥「きれいなねーちゃんが、うまい酒とうまい食い物もって、さっきから目の前で待ってるぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ジン「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!! どこだ、ねえちゃん! どこだ酒! どこだ食いモン!待っていてくれ! すぐ行くぞー!!!!!!」
ドクター「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黒い鳥「こんなもので、いかがですか?」
ドクター「・・・・・・前からあほだとは思っていたが、これほどとは・・・・」
黒い鳥「そこがジン様の良いところです」
ドクター「ま、まあいい。おい! ジン! おねえさんも酒も食い物もない! おまえ、やっと気が戻ったんだ。それに今は絶対安静なんだ! 輸血は済んでいる! 後は点滴を続けてしっかり回復するんだ!」
周りをきょろきょろしていたジンだが、
ジン「なにぃぃぃぃ! 何にもないじゃん! ドクターの嘘吐き野郎が、っつ! いってえ!!」
さすがのジンでも痛みには耐えられなかったのか、またベッドの上に倒れてしまった。
ドクター「当たり前だ! 普通の人間だったら、とっくにあの世行きだ! とにかく静かにしてろ!」
ジン「・・・・・・・くそ! わかったよ!」
横で怪訝そうに見ていた黒い鳥は、「安心した」のか、安堵のため息を付いた。小さくなっているとはいえ、それでも体躯が大きかったので、ジンもようやく気が付いた。
ジン「・・・ん? なんだ、この鳥・・・鷹? しかも黒いぜ、こいつ!」
黒い鳥「お久しぶりでございます。ジン様」
さすがのジンも、しゃべる鳥は初めてだったのか、目を丸くした。しかも「お久しぶり」と言っていたが、彼とは正常な状態では初対面のはずである。とりあえず距離を置こうとしたが、激痛でまた倒れてしまった。
ドクター「静かにしていろ! それに、おまえの命の恩人に「こいつ」なんて無礼だぞ! もっと感謝の気持ちを込めろ!」
ジン「へ? 恩人? ジン「様」? おりゃあんた・・・いや、あなた様の事は全く知らないんですけれども」
黒い鳥「あんたでよろしいですよ、ジン様」
ジン「じゃ、じゃあ、あんた、本当に命の恩人なのか・・・。そうか、そう言えば俺は、確かラースとか言う街のカジノで・・・。そうだ! クリーピングコインの大群に襲われて、満身創痍で・・・倒れちまったんだった! そうか、その後・・・いや~、まさしく命の恩人様々だ!」
黒い鳥「いえいえ、これも私の使命ですから」
ジン「? 使命? い、いやいや、そう言うわけにはいかねえ。そうだ! 貸し借りなしってことで、なんか欲しい物とか、して欲しい事とかあるか? 職業バッジと命以外だったら、何でもいいぜ!」
黒い鳥「お礼なんて・・・。そうですね、じゃ、お言葉に甘えさせてもらって一つだけ」
ジン「おう! バシッと言ってくれ! 命の恩人なんだからな!」
黒い鳥「では、ジン様、私に名前を付けて下さいませ」
ジン「へ? おまえ、名前無いの?」
黒い鳥「はい」
ジン「そうか・・・じゃあ、俺なんかで良いなら、格好いい名前を付けてやらあ。んー、そうだなあ。おう! そう言えば俺の育った国では、鳥の神様が有名だなあ。名前は確か・・・そう! 「ガルダ」! おまえ、ガルダって名前でいいか?」
ガルダ「御意」
ジン「これからはあんたはガルダだ! ん~、我ながら良い名前を思いついたモンだ! よし! これからも宜しくな! ガルダ!」
ガルダ「命に代えてもジン様をお守り申し上げます」
ジン「ん~「ジン様」ってのも、どうも堅苦しいんだけど、やっぱ、ジン様なのか?」
ガルダ「はい」
最後は押し切られたようだが、相変わらず、軽いノリのジンであった。しかし、その横でドクターは、このしゃべる鳥の事を改めて考えていた。会話ができたり大きさが変わったりしているのも勿論あるが、それを自分もジンも、違和感無く受け入れてしまったところが、不思議でならなかった。ともかく、ここにいる全員が、残りの仲間、クレスとアイルの事を気にしていた。
***
ジンの回復は信じられない早さだった。その日の正午には全回復していた。輸血と点滴だけなのに。ある意味、化け物より怖い存在かもしれない。ドクターはあきれていたが、ガルダはうなずきながら喜んでいた。
ジン「よし! 全員で・・・まずは、やばそうなクレス探しからだ!」
ドクター「一番やばそう?」
ジン「ああ、おれがコインに襲われる前に、あいつ、気味の悪いでっかいイソギンチャクみたいな奴にとっつかまって、消えちまったんだよ! なんだか、すっげーいやな予感がするんだ」
ドクター「でもアイルの方はどうする」
ジン「あいつは、殺したって死にゃしねえよ。それにあいつだって罠にかかったんだ。自業自得だぜ!つーわけで、あいつは後回しだ!」
ドクター「なんつー理由だ・・・」
自業自得なのは、ジンも同じだ、と、ドクターは思った。
ガルダ「ジン様、クレス様の位置はもうわかっております」
ジン「へ? もう?」
ガルダ「はい。ここから、北に5km、西に10kmの所の湖畔にローパーと一緒にいます。ん? クレス様の方はだいぶ体力が落ちております。急ぎましょう!」
ジン、ドクター(あんたって、ホントになにもの?)
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