第3章 カジノ良いとこ、一度はおいで!

 次の朝、全員、朝食を取り、支度を整え、ギルドからの次の依頼を確認した後、宿を出発した。


 ピーカン天気で、山のすがすがしいそよ風が肌をくすぐる、実に気持ちの良い朝であった。一行は次に依頼された仕事の場所、少し離れた所にある「フーブ山」を目指していた。


ジン「しっかし、昨日のヤマ、結構楽だった割には、仕事料はずんでたな」

アイル「全くだ。あのけちなギルドにしては、随分気前が良かったな」

ドクター「まあ、おかげで、久々にうまいモノも食えたし、うまい酒も飲めた」

クレス「それにベッドもふかふかだったし、こういうことは素直に喜んだ方がいいね。私も美味しい紅茶飲めたし。でも・・・・・」

ジン「でも? ん? どした?」

クレス「んーん、何でもない。それにしても、んー、気持ちいいね」

ジン「ああ、確かにな。ほんと、ひさびさだなあ、こういうの」

ドクター「確かに。こういう感じで、トントン拍子に旅が進んでいくと、いいのだがなあ」

アイル「全くだ」


 一同は冗談交じりだったが、笑みがこぼれた。実に微笑ましい光景であった。


クレス(次の街にはきっとあるわ、あの紅茶が・・・)


 一行はこんな感じでのんびりしながらフーブ山を目指していた。そして、程なくしてフーブ山の麓に到着した。


ジン「さて、これから、ちと山登りだ!」

クレス「でも、なんか高くなさそうな山ね」

ドクター「そうだな、マップでは・・・、え? 標高400m? なんだこの山」

ジン「道中、楽でいいじゃんか」

クレス「そうね。別に移動部分は、職のグレードにはあんまり関係なさそうだし」

ドクター「そうだな。じゃ、今回は気楽に行くか」


アイル(あのギルドにしては、本当に珍しいな)


 アイルだけは、多少疑問を抱いているようだった。


 一行は麓を出発し、目の前のフーブ山を登っていった。マップの通り、確かにフーブ山の登山道はそれほどきつくなかった。彼らがのんびりしながら登れる程度で、いたって緩やかであったし、そして所々に平野もあった。しかもそれが続いているだけだった。これまでに比べると全く持って「楽」な場所であった。しかし、距離の方があった。所々で休憩をしながらだったにしてもだ。結局、頂上付近らしき場所にたどり着いたのは、真夜中あたりであった。


ドクター「なるほど、傾斜は緩やかだが、距離があるのか」

アイル「ギルドは、やはりギルドだったか」

ジン「やっべー! すっかり遅くなっちまった! こりゃ、仕事は明日だな。ギルドからの依頼じゃ、別に今日中とは書いてなかったしな」

アイル「ああ、そうなるな。それより宿を探そう」

クレス「こんな高い所に、宿なんてあるの? もう・・・、私が付いていながら、こういうミスをしちゃうなんて。私もだめね」

ドクター「まあまあ。クレス、俺やアイルだってたまにはそういうこともあるって」

クレス「そうよねえ~」

ジン「ちょっと待った! な・ん・で・、そこで俺の名前が無いんだ!」

クレス、ドクター、アイル「あんたはいつもでしょ!」

ジン「くっそぉ~、後でみてろよ!」

クレス「ま、とにかく、宿ね! ドクター、マップ確認お願い!」


 一行は大きめの石の上に出発した宿で買っておいたフーブ山付近のマップを広げた。


ドクター「えー、ここが出発した宿で・・・、ここらへんを通って・・・・・、ん? ここ、どこだ?」

クレス「どうしたの?」

ドクター「いや、それがだな、ここと同じ様な場所が、マップに載ってないんだよ」

アイル「おいおい、そんな馬鹿な!」

ジン「ドクターも歳か?」

クレス「お肩をお揉みいたしましょうか?」

ドクター「おい、からかうな、まだそんな歳じゃないわい! だったらお前ら見てみるか?」

ジン「いやいや、遠慮しておく」

クレス「みょーにあっさりしてるね?」

ジン「いや~、その、俺、地理とか、その~」

クレス「苦手だった。つまり、方向音痴」

ジン「ストレートに言うな! ちっくしょー! 今日は何だって俺に集中攻撃が来るんだ? 今日は仏滅か?」

アイル「二人とも! これは冗談では済みそうもない! この地図の製作はギルドだ! 仕事の依頼人の方が、間違った地図を作るとはとてもおもえん! とにかく、現状確認からだ!」


 一行は辺りを見渡した。


クレス「なーんにもないね。木が少しあるくらいで」

アイル「・・・しかたない! またドクターの風水術に頼るとするか。頼むドクター」

ドクター「わかった、任せておけ」


 一行は黙って目を閉じた。ドクターも目を閉じ静かに自分の周囲360度を体を使ってゆっくり回りながらモノの気配を感じ取っていた。


ジン「なんか感じたか?」

ドクター「!? こっちの方向の丘を越えて、ちょっと先の方に・・・、明かり・・・いや、光の・・・渦! そうだ! 光の渦みたいな、どでかい街があるぞ! 宿もありそうだ!」

ジン「そうか! やったぜ! 助かったぞ、ドクター! さっすがー!」


アイル、クレス「うん、言わなくても、さっきから見えてる。」


 ジンはともかく、あのドクターまで、こけてしまった。


ドクター(ジンのあほが、私にも移ったか?)

ジン「お、お、おまえら! 揃って、なんつー・・・・・!!」


 ジンもドクターも黙ってしまった。


クレス「ね?」


 いつのまにか、ドクターの向いている方向に、大きな光が確認できた。そう遠くはない。


ドクター「いつのまに、あんな・・・」

アイル「いや、俺らは先に目を開けたのだが、そうしたら、あの光がな」

クレス「なぜか、あったの」

ジン「・・・も、もういいや、なんでも来いってんだ! とにかく宿が先だ! おう! みんな行くぜ、って? あれ?」


 ジン以外のメンツはとっくにそっちへ行ってしまっていた。


ジン「こらー! リーダーは俺だー! おいて行くなあ!」


 全く持って、ツイていないジンであった。

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