第2章 仲間の紹介
さて、お堅い説明はこれくらいにして、俺の仲間の紹介に移ろう。
店の端の方に座って、自分の愛用のレイピアを手入れしながら一人で世界に浸っている、蒼い長髪が目立つ、細身の剣術士は「ノーザン=アイル」。俺らはアイルって呼んでいる。剣術士は基本的に剣類を相棒にしていれば、俺のような湾曲した剣でも、レイピア等の細長い剣でもかまわないことになっている。ギルドの給金制度の基本は、「どういう仕事をしたのか」なのだから、使っている武器の属性が同系列であればよいそうだ。
奴は、いつも冷静だ。そう、いっつも、いっつも。悪く言えば、何事にも冷めている。仕事はしっかりこなすんだが、仕事以外の事には全く興味を示さない。趣味は自分の商売道具のレイピアを磨くこと。よく言えば、「若いのにいぶし銀」。
だがそんな奴でも兼業をしている。もう1つの職が「ナイフ士」だ。初めてあった時に剣術士とナイフ士の2つのバッジを付けていたのですぐわかった。いわゆる「近接戦闘」も「飛び道具」も使えるって奴だな。ちなみに職のグレードだが、こいつがびっくり、両方7。敵にするとちとやっかいな奴だ。ほんと、仲間で良かった。
次に、あそこで、酒を飲みながら、隣の知らないやつと、なにやら楽しげに話している奴が「レイス=ハート」。奴は「医術全般」に詳しい。職は「医術士」、つまり「医者」だ。だから通称「ドクター」で通っている。それと医者なんだからそれで十分だろうと思うのだが、何故か兼業している。医術とは別に、「自然の神秘の知識」に長けている。つまり、医者とは反対方向だが「風水士」だ。ちゃんと聴診器をかたどった「医術士」のバッジと、滴の形をした「風水士」のバッチを付けているので、勿論公認だ。
しかし、基本的にギルドの職業認定の仕組みでは、「兼業職は、本職に近いこと」なのだから不思議である。が、実はドクターの様なそれぞれ反対の属性の職に就きたい場合の唯一の条件は、「組んだパーティにとっての護身用途」とされている。確かにそういうことなら、奴の本職「医術士」も、そして兼業職「風水術」も、両方立場を入れ替えても成立する。その変わり、持ち主の自助努力は計り知れないことになる。さて、奴のグレードだが、医術士が5で風水士が3。やはり風水士の方は磨きをかけるのが大変そうである。
奴の話では、「「風水士」の方は、半分趣味なので、それほどグレードに執着していないが、最高位になれれば、それに越したことはない」との事だ。俺も「マーシャルアーツ士」に関しては、同じ様な物だから、奴にケチを付けることは出来ないと思っている。大柄の体つきで、地味で、一見、ぼーっとしている様な所もあるが頼りになる奴だ。
実際、これまでの旅で起こった戦闘や自然の驚異で受けた傷も、奴の医術士としての「治療」で助かったし、風水士としての、「自然感」で、随分、危ない橋を渡らずに済んでいる。
で、最後に紹介するのが、俺らの中の紅一点で自慢の娘なんだが、これがまた難攻不落で・・・。
あ、そうだった、名前は「ミューズ=クレッシェンド」、俺らの間では「クレス」で通っている。珍しい紫色のショートで、小さな花の形の髪飾りもつけている。以前、歳をそれとなく訊いたことがあったが、びんたが返ってきた。それ以来、彼女には歳をきかないことにしている。ギルドへの登録時は通常なら「年齢」を記入するのだが、理由があれば書かなくても良いことになっている。「女性だから」という理由でも許可がおりる様だ。
それでも同行する上で最低必要な事は2つだけだが聞いている。1つは目的。こいつは勿論俺らと同じだ。もう1つは簡単な身の上の事。彼女には5つ年上の姉がいる。名前は「ミューズ=フォルテッシモ」。「フォルテ姉さん」と呼ばれていたそうだ。クレスはその姉の捜索もやっている。なんだか、俺の苦手な「音楽」の授業みたいになってきたが、ま、そういう名前なのだそうだ。
お! そうだ忘れてた、彼女の職業!。まだ幼い感じなんだが、ちゃんと職業を持っているってのも、彼女の凄いところだ。彼女の職業は「ヴォイス士」。
直訳すれば「声士」だが、その通りで、彼女の守りも攻めも回復もサポートも「声」だ。千変万化する彼女の声は、仕組みはよくわからないが、時にパーティの周りに結界を作り、時に相手にダメージを与え、時に、癒しの声で、不思議に俺らの傷が癒える。特に精神的な疲労が回復する。全く持って不思議な力だ。
それとこれは生活の一面なんだが、彼女はどこの食堂や酒場に行っても、ちょっとした食べ物以外に、その土地の名産の特注の「ハーブティ」しか飲まない。まあ、まだ子供っぽいから、外見だけなら、酒は早いと思うが、なんでまた、「ハーブティ」しか飲まないのか、そのことも未だ謎だ。
っとまあ、俺の仲間の紹介はこんな所だ。ところで俺らがいるこの食堂は、山の麓にある、結構大きめの食堂兼宿泊施設だ。キッチンには酒もお茶類もあり、ちょっとした名産料理も食べさせてくれる、ある意味俺らのオアシスって所だ。
それにここは俺らの仕事請負所と給料受取所だ。実はギルド登録者への仕事の依頼と給金の支払いは、こういう施設だったら必ずあるギルド直結の通信機を通じて、行われる事になっている。まあ、仕事の依頼に関しては、パーティ名を打ち込んで、ギルドに連絡すると、ギルドの本部が仕事の依頼を送ってくれる。じゃ、一時的に彼らが払った俺達の給金分のお金はどうなるのか?
それは、店の係りが後で電算機を通じてギルドからもらえることになっている。ギルドが契約者に対して給料を払う方法は、「現金」と決まっている。こういう所は俺も好きだ。この「現金受渡機能」がある施設には必ず看板の横にもう一つ、「$」のマークが彫ってある看板がある。また「仕事依頼連絡機能」があれば、さらに隣に「J」のマークが付いた看板もかけてある。俺らがいるこの食堂は、両方あった。だから、こうやって飯も食えるし酒も飲めるし宿泊もできる。
考えてみれば、彼らとパーティを組んで同行し、ギルドから依頼された仕事をこなして旅を続けて来て、こうして食堂で飯を食ったり、酒を飲んでいるのも、結構不思議なことだ。不思議とパーティブレイクしたことがない。今になってみれば、結構感慨深い。が、また後で考えることにしよう。
とりあえず、今日は食事がすんだら、ゆっくり寝よう。休憩は大事なことだ。
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