第6話:ランク3の苦労って何ッスか?
「いたっ!?なんなんだよ本当に冗談が通じない奴だな!!」
「うるさい!あんたこそ本当にデリカシー無いわね!私のこと男かなにかだと勘違いしてるんじゃないでしょうね!?」
「我が校初のランク3の武人様にそんな無礼な事はいたしませんよー」
勇矢は鼻歌でも歌うくらいの気軽さでそう言った。
ランク3の武人は
音無静音は9人のランク3武人の内の1人であり、その能力はやっぱり強力無慈悲なものである。そのため何も知らない者達からは『筋骨隆々の男より男している女』とか『青白い肌に極悪な面構えをした凶戦士』等と噂に尾ひれどころではない量のものがつき、なんだか別の生き物になってしまっている。
そんなわけで一目見ようとやってきた輩が噂とは全然違うその姿に『あれ?これ勝てるんじゃね?俺ってば天下とれんじゃね?』と弱々しい見た目に騙されて調子づき喧嘩をうってはボコボコにされるという習慣が最早当たり前のようにあった。
静音も断れば良いものの自分を下に見下す連中は気にくわないようでご丁寧に相手をしているというのだから、こちらもこちらで考え物である。
「お前はこの街のエリートなんだからもう少しそれに見合った行動とれよ。売られた喧嘩を全部買っていっても何の得にもならないだろ」
「断ったところでまた甘く見られて襲われるのがオチよ。それなら最初から買った方が安くつくってもんよ」
それに……と静音は付け加える。
「勝てない相手はこれ以上増やしたくないし」
そう言って静音は挑戦的な目で勇矢を見る。その目にはどこか折れない芯のようなものがしっかりと備わっている。
「あんたに勝つ為の通り道っていうなら喜んで挑戦を受け続けるわ。私にも私なりのプライドってものがあるんだから」
強気な挑戦者の姿勢に対して挑まれた側は気だるげな今にも眠ってしまいそうな覇気の籠もっていない目のまま応じる。
「何回言ったら分かるかなぁ………だから、勝ち負けじゃなくって戦いにならないって言ってんの。お前も俺の能力知ってるだろ?」
「何回も戦ってるんだから分かってるわよ。それに、あんな能力だからこそ私は勝ちたいの」
「何も分かってねぇよ!俺は何回も降参してんのに何でこう何回も挑んでくるわけ?え、いじめ?もしかしていじめなの?」
「私の方がいじめられてるようなものよ。
「だからもう俺ってば降参してんじゃん!負け認めてんじゃん!」
「そうじゃないのよ!あんたが認める認めないじゃなくって私がキチンとこの手であんたを倒したいの!もうどうして分からないのかなぁっ!?」
歯がゆそうに手をわなわなと震わせる静音。対して勇矢はそんな事言われても……みたいな億劫な顔をしている。
「そういえばお前は何でこんな所にいるわけ?いつも一緒にいる友達はどうしたんだよ?」
「あのねぇ……いつも一緒にいるって言ってもこんな地味すぎる買い物まで一緒にいないわよ。私はお手洗いにいくのも1人で十分だと思ってる人間だからね」
そう言って静音は片手に持っていた籠を傾けて中身を見せる。
「乾電池に懐中電灯に豆電球……お前肝試しかなんかするのか?」
そんな馬鹿なことするかアホ!と静音は吐き捨てる。
「見ての通り自家用よ。とはいえこの技術の進んだ世界に未だに電池で動くリモコンや消耗品の豆電球なんかが使われているなんてうちの寮は本当にレトロだわ」
「まあ良いところはほとんど“創造の
「なんでもかんでもオートフルセンサーにするのはどうかとは思うけど、やっぱり便利よね。あーあ、私もそういうところに住んでみたいなー」
「ランク3のお前ならそんな願い事余裕で叶うだろ。今度学校に直談判でもしにいけば?」
ランク3の武人ともなるとその影響力は並のそれではない。一声かければ数十という警備部隊が出動し、個人的な要求に任せた実験なんかも無償で行ってくれる。
学校側からしてもそんなプレミア価格のついた限定生産品をよそに受け渡すことは避けたいのか、金銭で叶えられる望みであれば基本的になんでも叶えてくれる。
オートフルセンサーの施設は科学技術が発達した
しかし静音はその提案に肩をすくめ、
「そんなわがまま言えるかっての。私をそこらのお嬢様やボンボンと一緒にしないでよ。特別なのは嬉しいけど特別扱いはなんだか周りから省かれているみたいで嫌だし」
「変に気取らないところは本当にお前の良いところだよな」
「ふふん、優等生なめんじゃないわよ。そういえばあんたこそどうしてこんな時間にここにいるのよ?」
自分の話も程々に、静音は勇矢にも似たような質問をし返す。
「俺はちょっと時計がみたくってさ。ほら、最近二度寝防止用のアラームとかあるだろ?ああいうのが欲しくてさ」
「あーあったわねーそんなやつ。でもアラームだけなら携帯じゃダメなの?二度寝防止にスムーズ機能とかなら今時の携帯ならほとんどついてるし」
「携帯の充電が切れたらどうすんだよ。それにいくらスムーズ機能って言っても所詮アラームがまた鳴るだけだろ?そんなものに神代さんの睡魔はやられませんことよ」
「あんたそもそも大前提として自分から頑張って起きようって気がないわよね」
軽く吐息をつくと、それから静音は片手でちょいちょいと招き猫のように手首を動かして勇矢の意識をそちらにむける。
それからバスガイドのようなお得な豆知識などは教えてくれないが、それっぽい感じで勇矢を先導していく。
しかし特に何も語ろうとはせずただ黙々と店内を巡る静音に、なにか面白いものでも見せてくれるのだろうか?という好奇心旺盛な少年心に従って勇矢は飼い犬のようにその後をついて行く。
右に行ったり左に行ったりとあまり通い慣れていない店内の構造は終わりのない未開拓の迷路を彷彿とさせる。
そもそも1人暮らしの学生という点をとっぱらってただの一般人だとしてもそんなに頻繁に家電量販店に通い詰める人もいないだろう。いるとしたらそれは壮絶な価格競争を繰り返す同業者か家電に魅了された特異な人間だけである。
真っ白な冷蔵庫のキッチリとしたフォルムや電話機のボタンの配列にロマンを感じたりはしない一般人代表の勇矢は初めて来たわけでもないのに妙な新鮮感を味わいながら歩いていた。
「ほら、ついたわよ」
静音はポイ捨てするくらいの気軽さで勇矢に言葉をなげかける。
頭の中で『そういえば家電って学割の対象になるのかなー?だったらちょっとあの簡単お手軽マジックミキサーでも買って不足しがちな野菜をジュースにして飲んでみようかしら』等と男子高校生らしからぬ女子力高めなマニアックな家電のチョイスをしていた勇矢は視線をミキサーコーナーから静音の方へと向ける。
振り向くよりも先にまず視覚情報よりも聴覚情報の方が優先して入ってきた。
鉱物と鉱物を軽く叩きつけるような甲高い音。が、しかしその音は軽やかなものとなっている。なにより幼い頃から何度も聞いてきた音だ。
「時計コーナー!やっとみつけたぞ俺の探し求めていた場所がーーっ!!」
「そんなに喜ぶことでもないでしょ。っていうかあんたをここに連れてきたのは私。つまり何か私に言うことがあるんじゃないの?」
「ああ!本当に助かった!マジでサンキューな音無!」
勇矢はズズイッと、あまり誇張のない胸を張っている静音に近づいてその手を強く握る。
いきなりのことで驚いたのか気を緩めていた手から商品のはいった籠が落ちる。ある程度の重さをもった籠が床に落ちると、当たり前だがそれなりの音がなる。
そして人間というのは野次馬根性というわけではないが、ちょっとした変化には敏感なのだ。電車でくしゃみをしたサラリーマンが注目を浴びるように。路上で転んだ子供が心配されるように。今まで流れていた音とは異なった別の音が聞こえたら視線がそこへ集中するように。
店内には少ないといっても店員も含めたらまあまあの人がいる。その誰もが突然発せられたその音の方へ視線を動かしていた。
事情を知っている者からすれば感謝をしているされているの絵面にしか見えないだろうが、何も知らない者からすればそれはまるでロミオとジュリエットよろしくな恋愛劇にも見えた。
男子高校生が女子高校生の手を強く握りしめ愛をささやくような甘いシチュエーション(客観的にみたら)にその行く末が気になるのか変に熱っぽい視線が迂回する。
いち早くその視線に気づいたのは静音だった。
店内にいるほとんどの人間の視線を一身に浴びることを不可解に思っていると、やがて今の自分たちの絵面が他の人にはどのように映っているのか簡単に予想し、そして顔を真っ赤に染め上げる。
暴発しかねない不発弾のように顔から煙をだしかねない程に顔を赤らめた静音はパクパクと酸素を求める魚のように口を動かす。
しかし当事者である勇矢はそれに全くといって良い程気づいてないようで、
「いやーこれで安心だわー!俺絶対に大事にするからな!もう肩身はなさず持ってるからな!」
などと更なる誤解を誘発させる発言をする。
「ちょっ、もう分かったから、そろそろ手離して……っ!」
「でも今日は買う気は無かったんだよな財布ないし。まあ値段を確認するのが目的だから問題ないか」
「財布でも値段でもなんでも良いから!早くはなしなさいって……」
「値段もそれなりに安いしまた明日にでも買いに行くかなー」
「どうでも良いからさっさと離せこの他人巻き込み機がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
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