第4話:暴力教師って何ッスか?

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結局午後の授業は空腹で挑む他なかった。


赤木が購買だとか食堂だとか余計な希望を与えるものだから更に空腹がうねりをあげていたが、それをなんとか耐え抜くこと数時間。


「いやったぁぁぁぁぁっ!終わったぁぁぁぁっ!!」


帰りのHRが終わりの挨拶を告げ終えたのと同時に勇矢は歓喜の声を学校に響きわたるんじゃないかくらいのどでかい声量であげる。


いざ終わってみればたかだか昼食を抜く位であそこまで騒ぎ立てる必要はなかったと馬鹿笑いをしてみせる。


「なんとか餓死しないですんだな勇矢?」


「うるせっ。こんなんで餓死なんてしてたらたまったもんじゃねぇよ」


赤木はケラケラと笑ってみせる。


「まあそれもそうだわな。じゃあ俺っちはそろそろ行くことにするわ」


「なんだよ帰り道も同じなんだから一緒に帰ろうぜ?」


勇矢の仲良くご帰宅の提案に赤木は首を横に振る。


「ちょっと寄りたい所があるんだ。どうも面白い情報が流れてきたんでな」


「面白い情報……?なんだそれ?まさか売れ始めたプリティーアイドルが実は過去にAV出演してたとかそんな感じのニュースか?」


適当に言ってみた一言に、まあそんなもんだと相槌をうってさっさと教室をあとにする赤木。


おかしな発言に首を傾げる勇矢だがそれを遮るようにグーーッと空腹を知らせる音が勢いよく腹から鳴る。


その音を耳にして自分の現状を再度思い知らされる勇矢。もうこれ以上はダメだと胃袋が食料をせわしなく求めてくるのが分かる。


さて学校が終わったとなればもうこれ以上空腹のまま拘束される必要もなし。あとは素直に家に帰りこの食糧難にあえぐ状況を冷蔵庫の中にあるであろう食材達で打破するのみである。


意気揚々と学生鞄を持ち上げ教室を後にしようとすると出入り口前で誰かが妨害するように肩に手を置いてきた。


クラスメイトの誰かが遊びに誘ってきたのではと思い気だるげにその手を払いのける勇矢。


「悪いんだけど今日は黙って家に帰るよ。遊びならまた今度な」


「ほほう。お前は遅刻した挙げ句、担任になんの謝罪もなくこの場から立ち去ろうっていうのか。良い度胸してるじゃないの」


予想とは違う声に勇矢はビクゥッ!!!と両肩を跳ね上げる。恐る恐るといった様子でゆっくりと首だけを使って後ろを振り返っていると途中から片手で顔面をわし掴みにされてグイッと強引に視線を変更された。


そこにいたのは腰にまで届く艶のある長い黒髪をした女性教師。そこそこ名の知れた有名ブランドのスーツに身を包んだお上品な見た目とは裏腹にその顔は狂気に満ちている。


ギリリ……とマシュマロのように顔を潰してくるとんでも握力な女性教師の名前は宝月明ほうづきあきら。学校1の美貌をあわせもつ文武両道彼氏募集中なこの女性は何を隠そう神代勇矢の担任教師であり、恐らく今日最もこの少年に腹を立てているであろう女性だ。


「なあ神代ー、お前朝のHRは出ないくせに斉藤先生の授業だけは出るんだなー?なんだーお前はー?もしかして私に宣戦布告してるのかー?ボイコットかこの野郎ー?」


わざとらしく語尾をのばし徐々に己の怒りを伝えてくる担任教師に嫌な汗を浮かばせる。サイコメトラーでもないのだが宝月明の怒りのボルテージが不思議と視覚化されているように思えた。


水が沸騰していくようにぐんぐんと上がっていく怒りのボルテージは今すぐにでも限界点を突破してしまいそうだ。


「あー……っと、急いだんですけど全然間に合わなくって…別に宝月先生のゴミを見るような粘ついた視線を一身に浴びたかったとかとかそんなわけではなくてですね…っ」


「ほほぅ、そうかそうか。なら急いでた奴がコンビニに寄ろうとするのか?悠長に本なんか読もうとするのか!?アァンッ!?」


「ぎゃぁぁぁぁぁあっ!?い、一体どこからその情報をぼぼぼぼぼぼっ!?」


言い終える前に更に強い力で顔を両側から圧迫され口が幼稚園児が描いた鳥の絵のように不格好なものとなる。それが悲痛の声をあげるのを妨げ口だけがむやみやたらに振動する様はなんだかちょっとした楽器みたいになっている。


「教師なめんじゃないよ。あんたらの悪さなんて逐一耳に入ってくるんだからね。素直に謝っていればまだ許してやったものの……馬鹿なくせに変にずる賢いなお前は!」


そう言って明はようやっと顔を掴んでいた手を離した。


忌々しげに残る圧迫感に渋い顔をしながら勇矢は明の顔色をうかがう。


そこにはまだ許さないぞという強い意志が見え隠れしている。


早く家に帰ってこの飢餓状態から脱したい勇矢はこの場において最も適した手段を空っぽな脳味噌がすり切れるまでひねり出す。そしてついに見つけた最適な手段に若干の戸惑いを感じさせるもこれ以上の空腹には耐えられない。プライドもなにもかも捨て勇矢は重力に従うようにその場にひれ伏した。


両膝はしっかりと折りたたみ頭は限界ぎりぎりまで床に押し当て見事なジャパニーズの十八番芸こと土下座スタイルを見せつける。そして勢い任せに謝罪の声を並べていく。


「昨日夜更かししてしまったのが原因で寝坊しました!アラームをつけたは良いものの携帯の充電をしなかったから遅刻しました!途中まで走って疲れたのでコンビニに寄って水を買おうとしました!でも財布がなくってそれもできませんでした!おかげで昼ご飯も食べてません!これからは夜更かしはしても携帯の充電とアラームだけはなんとか死守するのでどうか帰らせてくださいお願いしますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」


「……お前、後半それただの願望じゃないか?」


馬鹿な生徒の担任をもってしまったと頭を抱える明。やれやれと短く首を振るとその場に静かにしゃがみこんだ。


「顔をあげろ神代」


明の言葉に勇矢はしかし断固として首を縦に振ることはなく、擦り付けるように床に頭を押し付け続けている。


「嫌です!僕にはまだ反省が足りません!どうかもう暫くこのままでいさせてください!!こうして床と一体化するくらいの罰を!掃除と共に掃かれる埃の気持ちを!どうかこの哀れで醜い神代勇矢に味あわせてやってくださいぃぃいっ!」


うわっ……と周りのクラスメイトから冷たい視線を一身に浴びる勇矢を、今度は明が慌てるように止めにかかる。


「いいから!もう私の気は晴れたから!いい加減顔をあげてくれないと私がとんでも悪役みたいじゃないかっ!?」


その言葉に勇矢は顔を静かにあげる。そこにはいつの間にやらしゃがみ込んで自分と似た視線になるようにしている美人教師の姿があった。


「せ、先生……!」


「分かったらもうこれに懲りて遅刻なんてするんじゃないぞ?私だってお前が憎くて言っているわけじゃないんだ。最初お前が席にいなかった時だって何かあったんじゃないかって心配してたんだぞ?」


「……………せ、先生……」


「さ、早く帰りたいんだろ?来週からは気をつけるんだぞ?」


明が良い教師と生徒というドラマのワンシーンのような絵面にし、ここでこれ以上更なる被害もなく平穏に場が収まると思ったその瞬間である。


「先生………なかなかドエロイ下着つけてるんですね」


余計なその一言に教室にいた全員が時が止まったかのようにぴったりと静止する。その中の誰もが固まる体で同じ事を思っていた。


テメェなんで最後の最後にとんでも情報垂れ流してんだよ、である。


そして見た目とは裏腹に意外とドエロイ下着をつけていたという情報を公開処刑された美人教師の明先生はというと短い悲鳴をあげてその場から素早く立ち上がり距離をとる。


それから真っ赤に染めあがった顔を俯かせては体をプルプルと小刻みに震わせている。


「か、み、し、ろぉぉぉ…………!!」


「いやいやいや!?だって仕方ないじゃないですか!顔をあげれっていうからあげてみたらそこにベージュのストッキングに包まれた見るも嬉しいドエロイ下着があったんだから!!」


「さっさと帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


今にも喰らいついて喉元を噛みちぎってきそうな明の野獣さながらの威圧感をバックに勇矢は素早くその場から退避する。


どうやら帰りも帰りで汗だくになる必用がありそうだ。

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