第2話:ランクって何っスか?
結論。授業には遅れなかったが汗だく顔面スライディングのせいで別の意味で説教をくらった。
「……………………実は俺って何かに祟られてるんじゃないだろうか……?」
「いやいや単純に寝坊する勇矢が悪いんじゃね?」
机に突っ伏していた未だうっすらと熱のこもる体をゆっくりと置きあげ、焦点が合っていなさそうな疲労感満載な眼の先には勇矢の呟きに異を唱えた人物がいた。
ツンツン頭の艶のない茶色い髪をした少年は勇矢の良く知る人物である。
というのも同じ高校に通う同じクラスメイトなのだから逆にいえば知らない方が人としておかしい。
勇矢の良く知るこの少年の名前は
茶色いツンツン頭の髪型と活発そうな顔立ちからどこか犬のようなイメージを強く与える赤木だが、おつむの方は勇矢とは違ってそこまで悪くはないのだがランク的には中の中。
頭が良いのか悪いのか今一判断に困る成績を叩き出しているけれどキャラ的にそれってどうなの?みたいな扱いを受けている不遇な少年である。
教室にたてかけられた簡素なデザインの時計は現在時刻昼の12時ちょっと過ぎを指しており、それはすなわち学生にとってのオアシスこと昼休みの時間だ。
昼休みといえばやることは色々とあるわけだが何より最優先事項として行わなければいけないことは決まっている。
それは知らない単語や公式を理解するために消費されたカロリーの補給、つまるところ楽しい楽しいランチタイムだ。
周りではお喋り好きな女子たちが昨日テレビでやっていた人気アイドルが主演のドラマの話で盛り上がりながら近くのコンビニで買ってきたであろうサンドイッチやおにぎりをポップコーン感覚で食べている。
いくらヘルシー至高といっても、おにぎり一個で果たして満足できるのか女の子の胃袋事情は謎に包まれている。
逆に男衆はというと唐揚げやトンカツ、エビフライにコロッケと見事に茶色一色に染め上げられた超重量級の弁当を勢いよくかきこんでは飲み込んでいく。
キチンと咀嚼しているのかこちらもこちらで心配な点はあるのだが、それら全てが今の神代勇矢に爆発的な感情をわき上がらせていた。
「ぐ、腹が減った……」
寝坊して急いで身支度を整えた人間が呑気に朝ご飯を食べる時間などもちろんなく、ついでとばかりに昼ご飯でさえ準備する暇はなかったのだ。
コンビニに寄った時に弁当やらパンやら買っておけば良かったと再び机に突っ伏して後悔する勇矢。
そのうち念仏さえ唱えかねないクラスメイトを楽しげに見ながら赤木は適当に買ってきた一口サイズの甘いだけが売りのスナックパンを口に放り込み、あまりの甘さに顔を険しくする。
口に残った甘さを相殺しようと自販機で買ってきた缶コーヒーを一口含んだが甘ったるいパンの後だからかいつもより数倍苦く感じられる。
結局更に顔を険しくさせたまま赤木は片手で缶コーヒーを左右に軽く振りながら一つの案を提案した。
「ってか、ぶっちゃけ勇矢も購買とか食堂に行けばいいんじゃね?」
その言葉に体がピクッと反応を示す。
赤木の言った通り勇矢の通う高校にも購買や食堂は存在する。昼真っ盛りなこの時間だと遊園地の女子トイレ並に人が並んでいそうなものだが、それでも現地調達はあくまで可能な範囲なのだ。
希望が生まれる。自身の中におかしな力が巡っていくのが分かった。
今なら例えでっかいドラゴンの炎やらUFOから放たれた極太レーザー砲なんかでも軽くあしらえる程の力……もとい食欲が体の底からわき上がってくる。
勇矢は突っ伏していた机から顔を上げ勢いそのままに立ち上がる。勇矢が突っ伏していた机に浅く腰掛けていた赤木はそれに驚き缶コーヒーを盛大にぶちまけながら床に倒れる。
「思い立ったが吉日!いや昼休み!こうなったら先輩だろうが後輩だろうが知ったことじゃねぇ!購買のパンは売り切れてるだろうけど食堂なら席さえ強引に奪い取ればこちらの勝利……っ!!」
ゲーム序盤にでてくる底の知れた悪党よろしくなセリフを薄く開けた口から漏れさせる。
さて、そうと決まれば話は早いと勇矢は教科書やら参考書やらが入った鞄に手をいれ財布を取り出そうとする……のだが。
「………あ、あれ?」
鞄に手をいれた勇矢は顔からサーッと血の気がひいていくのを感じた。
いつも財布をいれている場所に膨らみがない。まるでなにも入っていないかのようにうすっぺらだ。
目を丸くしながらも希望は捨てない。勇矢は鞄をひっくり返して机の上に中身を出してみるが見慣れた黒い財布はどこにもない。
あるのは教科書と参考書のみで他はクシャクシャに丸めたレシートやポケットティッシュくらいだ。
希望はついえた。代わりに圧倒的な絶望が精神を蝕んでいく。
「もう…いやだ………」
勇矢は今回三度目となる奥義『机に突っ伏して現実逃避』を行い今度こそ本当に念仏を唱え始めた。
「いっ、ててて……この野郎!人様がありがたいお言葉をあげてやったって言うのにあろうことか机からたたき落とすってどういう考えしてんだ!あー……もうコーヒーでズボンべしょべしょじゃねぇかよぉ……」
赤木は机に置かれたポケットティッシュを勝手に使って床にぶちまけたコーヒーを拭き取っていく。残ったティッシュは全てコーヒーまみれのズボンを拭くのに使ったがあまり改善はしなかった。
ためしに自分のズボンの匂いを嗅いでみる赤木だが酸っぱいような苦いようなどっちつかずなコーヒーの匂いに顔をしかめる。
「しっかし寝坊した挙げ句財布を忘れるなんて少女漫画で良く出てくる食パン咥えた女子高生よりたちが悪いんじゃね?」
「うるせぇな。どうせ俺は時代遅れのポンコツ君だよ……ったく」
この街に住む住人の大半は武人だ。一人一人が武人としてそれぞれが転生した武具とその能力を存分に使って日々の学生生活を過ごしている。
というのもこの街で行われている武人専門教育カリキュラムにそれが含められているからだ。
武人専門教育カリキュラムとは鍛冶場フォージシティに住んでいる学生全員に行われるもので、その内容は転生した武具の使い方を学ぶこと。自身が転生した武具についての歴史を学び己の生き方に繋げること。など色々とあるわけだが、それらは全て綺麗事である。
武具としての性能を上げ伝承を越える新たな伝説を創り出す武人を生み出す。そんな人間誰しもがもっている向上理論から考えられたのがこのカリキュラムだ。
しかしその実、武具から発生する特殊な電磁波を用いての新種のエネルギー開発や能力発動と同時に発生する副産物の研究など研究者達の私利私欲に使われているふしがある。
そんなわけで鍛冶場フォージシティは定期的に武人に
健康状態に異常がないかどうかの診断はもちろんのこと武具としての能力内容ならびに武具としての性能も調べられ勝手にランク付けまでされている。
ランクは3段階あり、それぞれ下からランク1・ランク2・ランク3とありそれに見合った奨学金が鍛冶場フォージシティから支払われるわけだが最高ランクのランク3までいけば一気にボンボンの仲間入りが出来ると言われている。
その中で神代勇矢はそのどれにも当てはまらない特殊な武人だ。
たしかに武人なのだが一体何の武具が転生したものなのか?という事が分からないのだ。
能力はあるのだが、それに当てはまる武具が現状確認されていないため鍛冶場フォージシティからはランク未明と判断されているが周りからみれば時代遅れの落第生という大変ありがたくもない烙印を押されているのだ。
「そうネガティブになんなっての。能力はちゃんとあるんだから武人であることに変わりはないんだし、なによりランク未明ってカッコいいじゃねえか。なんか測定不能みたいな感じで」
「俺も最初はそう思ったよ。ランク未明って響きに暫く封じていた中二心が揺れ動いたけどそれも直ぐに冷めた」
勇矢は机に突っ伏したままボソボソと呟く。
「だってランク未明ってつまりはランク付けされてない大人と待遇は一緒なわけよ。つまり皆が貰ってる奨学金が俺だけ貰えてないってわけ」
「奨学金なんてそんな大した額をもらえるわけじゃねぇぜ?せめてランク2くらいにはならねぇと」
赤木の何気ない一言に勇矢は待ったをかける。机から顔をあげ今にも泣き出しそうな顔で赤木に時代遅れの不満をぶつける。
「それでもいいじゃん!大した額じゃなかろうと貰えてるんだから!プラスなんだから!俺なんて皆が奨学金で良い思いしてるなか、いかに節約してこの万年氷河期なお財布事情を打破することができるのかずっと考えてんだぞ!!」
「そのお財布も今は持ってないわけだけどな」
「黙れ万年発情期!お前の買ってるエロ本センスねぇんだよ!なんだよ『人気キャバ嬢トイレでの淫らな接待』って。青姦絶対主義かテメェは!?」
「テメェ…ぶっ殺す!!」
自身のエロ本のセンスを馬鹿にされ腹を立てたツンツン頭のワン公と空腹と嘲笑に腹を立てたエテ公がとっくみあいの殴り合いを開始する。
本来であれば他のクラスメイトが止めに入るようなものだが、しかし誰もがそれに割って入ろうとはしなかった。
というのもこういった光景はよくあることであり日常茶飯事なのだ。かといって殴った殴られたのやりとりをしている馬鹿な男子二人を見ながらなお悠々と昼食を食べていられる辺り人間の慣れというのは恐ろしいものがある。
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