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魔術師メイジだけのギルドはありませんか!」

 昼盛りのグランフェルデン大神殿に、快活な少女の声が響き渡る。声の出所は冒険者の依頼受付所だ。

 王城の北西に位置する大神殿は、王国建国のその時より存在する由緒正しき神殿である。いたるところに精緻な彫刻が施されたその壮麗な外装は、王城をはじめ堅牢且つ実用的な造りの多いこの国の建造物の中で、一際その存在を誇示しているといえよう。

 そしてその内部に設置されているのが、冒険者に仕事を斡旋する依頼受付所なのだが……。

「さ、さすがにそのようなギルドはですね……」

 いきなり受付カウンターに乗り上げてきた魔術師メイジの少女に面喰らいつつも、フィルボルの受付嬢アリエッタはさすがの対応力で答えていた。

「そっかー、やっぱりないかー」

 にははと笑いつつ、声の主はあっさりと引き下がる。肩口まである薄緑の髪をふわりと靡かせながら、受付カウンターから降りた。

「いきなり受付までダッシュして、何を叫んでるのかと思えば……。」

 そんな少女の後ろ、眼鏡を光らせ呆れた声をあげる別の少女が一人。朱色のドレススカートの上にレザーアーマーを着込み、片腰にガンベルトを装着している。魔導銃使いガンスリンガーだろう。長い紫の髪を後頭部でまとめているのは、動きやすさを重視しているのか。

「およ?」

「アイン…貴女ねぇ。そっちから冒険者やろうって誘ってきたのに、私のこともう見捨てる気なの?」

「そんなことないよ♪」

 アインと呼ばれた少女は、何の悪気もなく答えた。

「だってチェルはあたしの大切な人よ? 仲間外れだなんてとんでもないわ」

 両手を組み、エルダナーンの特徴である長い耳を紅く染め、更に身体をクネクネさせるアイン。

「アンタは……」

 はぁ、とため息をつき、ずり落ちた伊達メガネを直しながら魔導銃使いガンスリンガーの少女はアリエッタに向き直る。

「ごめんね、アリエッタ。このバカが急に変なこと言って。」

「い、いえ、大丈夫です、チェルナさん。…ビックリはしましたけど」

「ねえねえ」

「ホンットーにゴメン!アインにはよく言い聞かせておくから、勘弁してね」

「ねえってばー」

「いえ、こういうよく分からない要望は時々ありますので……」

「苦労してんのね、アリエッタも……」

「聞いてよもう!」

 完全にスルーされるのはさすがに堪えるのか、アインが二人の間に割って入る。

「あーもー……今度は何よ、アイン」

 めんどくさそうに答えるチェルナを無視し、アインは尋ねる。

「アリエッタちゃん。あたしたち二人で行けそうな依頼ってないの?」

「えぇと……」

 すぐに依頼をまとめたリストをパラパラとめくりだすアリエッタ。

「すみません、さすがにお二人だけで行けるような依頼はありませんね……」

「だから言ったじゃないの。仲間見つけてギルド組むのが先だってば。」

 しゅんと項垂れるアリエッタを見やりつつ、もう何度目だと言外に滲ませながらチェルナは言う。

「だってー」

「だっても何もないっ」

「だってだってだってー」

「えぇい連呼すればいいってもんでもないわっ!」

 子供のような言い争いをしている二人……にオロオロしているアリエッタに、声がかけられる。

「どうしたの、アリエッタ?」

「あ、アメノさん!」

現れたのは、先ほど墓参りをしていた少女であった。


***

 

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