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グランフェルデン王国。
エリンディル西方、中原地域の諸都市や国家による政治的、軍事的同盟―通称、パリス同盟において最も古い歴史を持つ国だ。全盛期にはエリンディルの中原だけでなく、北部にもその版図を広げた強国であったが、およそ500年前にパリス王国に敗北したことでその属国となった。その後、パリス王国の滅亡を機に再び独立するも、そこに往年の国力はなく、紆余曲折を経てパリス同盟へ参加することとなった。
そういった歴史もあってか、この国は全体的に古きを良しとする気風を持ち、伝統的建築物を数多く見ることができる。そういった遺跡めいた建築物の観光に来る人間も少なからず居る、との話だ。
グランフェルデンの街は王城を中心として、その近傍に大神殿、貴族らが住まう高級住宅街、職人の街、商店街が同心円状に広がっていくオーソドックスな造りをしている。また、外周は堅牢な外郭も備えている。特に王城は戦乱激しい時期に建立されたためか装飾よりも堅牢さを重視し、武骨な印象を人々に与えていた。
そんな王城が少し白く霞んで見える場所に、大神殿が管理する共同墓地がある。天気は晴れ、太陽はもうすぐ真上を通過しようとする時間だ。
その一角で少女は真新しい墓に華を添え、両手を組み、眼を閉じる。蒼く長い髪が春の風を受けてゆらゆらと揺れていた。
「……クイナ」
呟き、ゆっくりと目を開ける。
「名前しか覚えてなかった私を、ここまで育ててくれてありがとう。ちょっと、残した借金多すぎるけどね…」
感謝と、ちょっとの愚痴。だがその声音はあくまで穏やかだった。胸元につけた聖印を握り少女の独白は続く。
「孤児院の経営はソーンダイク様が受け継いでくれたわ。だから、そこは安心してね。あ、そうそう。私ようやく冒険者メダルを頂いたの。これで立派な冒険者ってわけよね。」
「……クイナは、なるのは危険だって止めたがってたけど…でも、私は自分で……見つけたいの、私のルーツを」
メダルを握りこみ、少女は決意に満ちた瞳で宣言する。
「だから、行くね」
墓に背を向け、少女は歩き出す。
瞬間、少女の背中を押すように強く風が吹いた。
--行ってらっしゃい、アメノ。
「―え?」
―幻聴、だろうか。いや、例えそうだとしても、これは紛れもなく――
「……行ってきます、お母さん」
少女は一度振り返り、お辞儀をする。そしてもう一度歩き出す。
そうだ、冒険の舞台が私を待っているのだから。
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