第6話 動機が重要

 とあるマンションの一室。

 テレビは、夜のニュースを流していた。

 泣きながら本を読む、書川かきかわ正三しょうぞうの座るソファに後ろには、結婚して間もない妻の死体があった。

 夫婦仲はよかった。

 それは近所の住人も認めるところであった。

 妻を殺したのは、間違いなく書川本人だ。

 妻の首にある、強く締めた指の跡は彼のものと一致する。

 しかし、書川は妻の死体に目もくれず、涙を流しながらハードカバーの本を読み続けていた。

 荒れ狂う感情の奔流の中でも、正三の頭の一部は、冷静に作品を批評している。


 ――殺しの動機が弱いな。

 もっと、読者を納得させる、明白な殺意が欲しかった。


 ゆっくりとページがめくられ、やがて最後のページに到達した。


「はー……」


 重いため息をつきながら、書川は眼鏡を外した。

 目にたまった涙をハンカチで拭う。

 それから、テーブル上に置いてあったノートパソコンに向き合うと、自身のブログ用の記事を打ち込んでいく。

 それが終わると、正三は妻の死体をまたぎ、電話の受話器を掴んだ。

 110通報をする。


「もしもし、警察ですか?」


 自分が妻を殺したこと、死体はここにあること、自宅の場所を告げて、電話を切った。

 振り返り、妻の死体を見下ろす。

 どうしてこんな事に。

 一瞬そう思ったが、明白な殺意があった事は事実だ。

 愛していたのに。

 まったく、やるせない気持ちだった。

 けれど、どうしても許せなかった。

 そう、たとえ世界一愛している妻であろうと、やってはいけない事があるのだ。


「よりによって……」


 書川はその場に崩れ落ちた。


「……ミステリのトリックをバラすなんて」


 ミステリマニアを相手に、それだけは、絶対やっちゃあいけないのだ。

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