第5話 地をすこし浮き上がりたる枯野かな

藤田湘子が、私の印象ではいつもかりかりと怒っている一方で、伊沢惠はいつも穏やかでにこにこしていた。句会の後の懇親会では、酒を飲めない体質なのにも関わらず、大きな声で周りの酔人と渡り合っていた。偶然、伊沢惠の孫娘と私とが同じ歳だったこともあり、私を孫だと言って何かと目を掛けてくれた。私は藤田湘子を敬して遠ざける一方で、伊沢惠に次第に心を開いて行った。藤田湘子の前では緊張で表情が強張る私も、伊沢惠の前では気楽によく喋った。藤田湘子にとっては、それが多少は癪に障ったのかも知れない。あいつは俺になつかない。後に、藤田湘子が私のことを指して伊沢惠にそう漏らしたことがあったと、伊沢惠本人から聞いたことがある。

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