第2話 ナンスを探して

 気が付くとふかふかのベッドに寝かされていた。木製の窓を開けると白いシーツに朝日が射し込む。

「リガノ、起きたのね」

 誰かが部屋のドアを少し開けて話しかける。女性の声だった。リガノとは誰のことだろう。鏡を見る。

 そこには見知らぬ少年の姿が映っていた。

 嘘だ、こんなことが本当に……。

 レディナはその場に立ち尽くした。目の前の少年は驚いた顔をしている。その反応はレディナの心そのものだった。この少年が自分なのだと、レディナは理解した。

 温かいスープの匂いがドアの隙間から漂ってきた。レディナは先程自分をリガノと呼んだ女性を思い出した。あの女性は自分の家族かもしれない。レディナは部屋を出て、匂いのする方へ向かった。

 二人の年配の男女がテーブルに腰かけていた。

「おはようございます」

 レディナは反射的に挨拶をする。両親だと思われる男女はレディナに笑顔で挨拶を返した。初めて会う両親の姿に感動し、レディナは動揺しながらテーブルに座り、スープを飲んだ。

 この家は、レディナとナンスが幼い頃に襲われた村だとレディナは推測した。自分が男になったことで、他の事も運命が変わっているらしい。願いを叶えてやると言った声は聞こえないし、あの場所がどこかもわからなかったので、確かめようがなかった。

 レディナは外に出ることにした。自分が生まれた村を見てみたかった。小さいドアを開けてみると、同じような小さい家がいくつか建っている。この中のどれかにナンスの家もあるはずだ。レディナは外にいる人に声をかけようとして止めた。ナンスの家を訊くつもりだったが、この世界でレディナはリガノというこの村に住む少年だ。同じ村の少女の家を尋ねれば怪しまれる。レディナは自力でナンスを探すことにした。


 村内の全ての家を回ったが、ナンスはいなかった。レディナとナンスは同じ村の出身だと座長から聞いていたのに、それは嘘だったのだろうか。

 夕日が沈む時間だった。レディナは帰ることにした。村中を歩き回ったから自分の家がどこだかもう覚えていた。レディナは初めて食べる家族との夕食を楽しみ、ふかふかのベッドでぐっすり眠った。

 夢の中でまたあの暗闇からの声を聞いた。

「新しい生活はどうだ……」

「楽しい。だけど、ナンスがいない」

「お前の運命が変わったことで、彼女の運命も変わったのだ……」

「そんなことだと思った。ナンスはどこにいる?」

「私には教えられない……」

「ナンスがいなきゃ、私が男になった意味がない」

 レディナはナンスを奴隷商人から守るために男になったのだ。声はその事を承諾したようだった。

「ならば教えてやろう……」

「ナンスの居場所はどこなんだ!」

「ここからずっと東の小国だ……」

「小国?どの小国なんだ。東には沢山の小国がある」

「自分で探すのだ……」

「待て!ナンスはどうしてる?私のように幸せなのか?」

 声はそれ以上聞こえてこなかった。朝になり、目覚めると、レディナは必要なものを家から探し、旅に出る準備をした。

 家のドアを静かに閉めると、急に心細くなった。一日だけだが、幸せな家庭だった。それはレディナがずっと夢見ていたことだ。

 だけど、ナンスが心配だ。レディナは足音を忍ばせて、まだ誰も起きていない村から出ていった。

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