第9話 護るべきもの
「で?何でアンタたちは、死神に狙われてるわけ?」
僕たちは、詠の神社にいる。
神々は俯いて黙っている。僕が重い口を開いた。
「僕を助けるため、疫病神と貧乏神が荒神様に掛け合ってくれて、
死神を退治してくれたんだけど、どういうわけか生きてた。」
「まあ死神だからね。」
詠は溜息をついた。
「わしら、死神に掛け合ってくるわ。」
意を決したように疫病神が言うと隣で貧乏神もうなずいた。
「話してわかるような相手じゃない感じがする。」
僕は思ったことを口にした。
「大丈夫や。同じ神様や。坊は心配せんでええで。
巫女の嬢ちゃん、しばらく坊をお願いします。」
神々はペコリと頭を下げた。
僕はしばらく会社を休み、神社に泊めてもらうことにした。
「大丈夫かな、あいつら。」
僕は不安を隠せなかった。
「いつまでも、あんな低級な神に守られてても良いことにならないわ。」
詠は相変わらずの無表情で、冷たく言い放った。
この娘はどこまでも冷徹なんだ。僕は少しむっとして、彼女を睨んだ。
すると彼女は僕の心を読んだのか、ふうっと溜息をついた。
「つまり、あなた自身がもっと強くおなりなさい、ってことよ。」
「僕が、強く?」
「そう、あなたが、強くなる。元々、あなたにはその素質があるの。」
澄み切った詠の目に、僕が映った。
「私が、あなたの力を引き出してあげるわ。」
「僕の、力?」
僕はまだ半信半疑だった。
その日から、僕と詠の特訓は始まった。
まずは体力作りよ、詠は、そう言うと、僕に神社の階段をうさぎ跳びさせた。
今日日、スポコン漫画でも、こんな特訓なんてしないって。
「これ、本当に効果あるの?」
息も絶え絶えにたまらず、詠に問いかけた。
「体力がなければ、生命の力も薄れるのよ?」
涼しい顔で詠が僕を見下ろす。
「じゃあ、次は筋トレよ。上腕二頭筋と腕の筋肉を鍛えなきゃね。」
もう意味がわからない。僕は、目だけでそう訴えると全てを悟っているように詠が言った。
「そこの筋肉が必要になってくるのよ。」
そう答えると、さっさと行ってしまった。
そんな日が1週間ほど続いたある日、詠は僕にあるものを渡してきた。
それはどこにでもあるような破魔矢だった。
「これには、私の気をこめておいたわ。あなたはこれをもう射ることができる。」
「射るって、矢だけじゃんこれ。しかも破魔矢だし。だいいち矢を射るには弓が要るよ?」
「矢を射るように、弓があるつもりで構えてみて。」
「はあ?そんなことしてなんに?」
「いいから、構えて。」
もうわけがわからないけど、有無を言わせぬ詠みの態度は変わらない。
仕方なく僕は、弓があるがごとく、矢を構えてみた。だが、何も起こらない。
毎日毎日、あんな体力づくりや、筋トレに何が意味があったのか。
「何も起こらないよ。」
僕は憮然として、詠に言葉を投げかけた。
「集中するの。その矢の先に、あの死神が居るって想像して。あなた、いつまで守られてるつもりなの?」
「そんな、守られてるって。」
「今度はあなたが、自分で自分を守るの。そして、あなたの大切なものを。」
そうだ、僕は不本意ではあるが、守られて(?)きた。
大切なもの。
僕は何故か、あの薄汚い神々の顔が浮かんだ。
「僕が、守る。」
そう口にして、集中したとたんに、僕の手には弓が握られていた。
「な、なにこれ。」
「それが、あなたの力よ。」
詠が薄っすらと笑った気がした。
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