第8話 死神アゲイン

僕は神社からの帰り道、巫女の詠が言った言葉を思い出していた。


僕に疫病神と貧乏神が憑いていることが、本当に良いことなのか。


だってあいつらは、今まで僕を護ってくれたじゃないか。


疫病神とか貧乏神とか関係ない。


そりゃあ多少の影響はあったものの、僕はこうして今まで


生き延びてきたのだから。


気にすることなんてないんだ。


「ただいま。」


僕は本当は一人暮らしにしか見えないのも忘れて


玄関で呟いた。


傍から見ればおかしくなったと思われるだろう。


でも僕は、確かに神々と暮らしているのだから。


「おう、おかえりー。坊、どないやった?


あの生意気な巫女をギャフンと言わしたったか?」


疫病神が目を爛々とさせて言った。


「ううん。お茶とお菓子をご馳走になった。」


僕はジャケットをハンガーに掛けながらそっけなく言った。


「なんや、それ。息巻いて行ったからてっきり抗議しに言ったんかと思ったわ。」


「最初はそのつもりだったんだけどね。まあ、一応謝ってくれたし。」


「なんや、腑抜けやな。」


「なんとでも言えよ。僕は平和主義者なんだ。彼女もまさか僕が


疫病神と貧乏神に憑かれて何とも思っていないとは思わないだろう。


僕くらいのものだよ。そんな奇特な人間は。」


それを聞いて二人の神々は腹を抱えて笑った。


「ほんま、奇特な人やなあ。」


ほんと、僕はどうかしてる。


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翌朝、いつものように、電車に乗って出勤した。


神々二人も一緒だ。


その時、僕はスマホの操作に夢中で気付かなかった。


神々が、電車の入り口を只ならぬ目でじっと見据えていたことを。


死神のこともあって、通勤には必ず神々がついてくるようになったのだ。


僕は職場の最寄の駅で電車を降りた。


「よう、オッサンたち。先日はよくもやってくれたっすね。」


僕はその声に振り向いた。


僕が駅のホームで倒れる直前に、電車の入り口に居た


銀髪のホスト風の男は、僕ではなく、僕の後ろの


神々に話しかけていた。


この男、見えるのか?


僕は驚愕の目でその男を見た。


神々は僕に警告のような目配せをした。


たぶん、こいつは危険な男なのだ。


「この坊ちゃんって、オッサンたちの大事な人なんだあ。


オッサンたちをいたぶるより、この坊ちゃんに何かあったほうが


オッサンたちにとっては辛いの?」


銀髪はニヤニヤしながら僕を見た。


僕は警戒心最大に、銀髪の男を睨みつけた。


「おはよう。偶然ね。」


僕はそう声を掛けられ、振り向いた。


後ろには制服姿の詠が立っていた。


高校生だったのか。


「邪魔が入ったようっすね。でも、必ず俺は


また現れるからね。あんなナメた真似して許されないっしょ。


俺は執念深いんすよ。死神は死なずだからね。」


何がおかしいのか、高笑いしながら、その銀髪の男は去って行った。


「なんだか、ややこしいことになりそうね。」


高校生とは思えぬ、落ち着き払った態度で


詠はその男の後姿を見つめた。


神々には只ならぬ重い空気が張り詰めていた。

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