第4話 乗りかかった船は泥舟か?

コンビニから憑いてきた女の霊、名前がわからないので


レイコさんとでもしとこうか。


彼女の情報によると、彼女を騙した男は、無類の競馬好きだそうだ。


おそらくレイコさんから巻き上げた金も競馬やギャンブルに消えたのだろう。


だからレイコさんはずっと競馬場で張っていたけど、まだ出会えないというのだ。


「他の土地に行ってるかもしれへんなあ。」


疫病神が言った。


情報はだいたいわかったけど、肝心の顔がわからないので、


レイコさんに、僕のデジカメで念写してもらった。


念写とは思えぬ鮮明な写真が出てきた。


その写真は満面の笑顔だった。


騙されて自殺するほど苦しんだにも関わらず、思い出すのは


こんな顔なんだな。よほど好きだったのだ。


僕はレイコさんが哀れに思えた。


「じゃあ、私がこの写真を元に競馬場で張って見るけえ。


アンタは地元の競馬場、私はよその競馬場で張ってみるよ。」


貧乏神がレイコさんに言った。


「ほな頼むで、ビンちゃん。」


疫病神が言うと、貧乏神は不快な顔をした。


「ビンちゃんって、勝手に変なあだ名つけんでーね。」


「ええやん、そのほうがなんかフレンドリーやろ。」


貧乏神は苦虫を潰したような顔をした。


「わしのことは、ヤックンって呼んでくれてええで。」


「なんで自分だけ、昔のアイドルみたいな名前なんよ。ずるいわ。」


疫病神は、けけけと笑った。


僕と疫病神は、レイコさんから他に立ち寄りそうな場所を聞いて


暇を見つけては、その場所を訪ねてみた。


月日は悪戯に流れ、2ヶ月経っても何の手がかりも得られなかった。


その間レイコさんまで僕の家に待機してるから、夜中にトイレにでも起きようものなら


心臓が止まりそうなほどびっくりする。やっぱ幽霊は慣れないや。


そして、灯台下暗しとはこのこと、意外とあっさりこの街の駅で


レイコさんの元彼を見つけたのだ。


レイコさんがそうだと言うのだから間違いない。


レイコさんに眼鏡を買ってあげたのだ。メガネっ娘幽霊だ。


疫病神やっくんと貧乏神ビンちゃんが後をつけると意外に隣町に越しただけだった。


早速、復讐劇が始まった。


僕は元彼の情報をネットにばら撒いてみた。


自分が彼に騙された女のフリをして。


すると、すごい反響があった。


彼に騙されたという女の子たちがたくさんいたのだ。


どの娘もやはり、お金を巻き上げられ、最終的にお金が無くなると捨てられた


という者ばかりで、結婚を餌にする手口まで同じだった。


これは立派な結婚詐欺ではないか。


そして疫病神と貧乏神をしばらく元彼に張り付かせておくだけで


十分復讐になった。


男は怪我をしたり、財布をすられたり、車で単独事故を起こしたり


さんざんな目に遭ったのだ。


「なんか俺、疫病神でもついてんのかな・・・・。」


男はそう呟いたそうだ。


「ザッツライト。その通りやで。」


疫病神は親指を立てた。


「疫病神と貧乏神が雁首そろえてるんや。最強やで。


いつもより多めにサービスしたったわ。」


そして、極めつけは、僕が募った騙された女の子たちによる


刑事告訴だ。


あっさり彼は、結婚詐欺で警察に捕まった。


そして、拘置所にレイコさんは出たのだ。


彼はレイコさんの姿を見て、おしっこをちびったらしい。



「ありがとう・・・・。」


僕は初めてレイコさんの声を聞いた。


「よかったね。これで成仏できるね。」


初めての霊との会話だ。


「とんでもない。成仏なんて、できるわけないじゃないですか。」


僕らは耳を疑った。


「なんでやねん、お嬢ちゃん、まだ不服か?」


「もう十分じゃろ。刑務所に送ったんじゃけえ。」


神々も口をそろえて言った。


「あんな、しょうもない男のために死んだなんて。


悔しくて死んでも死に切れない。」


「そんな・・・。僕らの今までの苦労はなんだったんだよ。」


僕もレイコさんに苦言を言った。


すると、レイコさんは急にモジモジし始めた。


「どないしたん、嬢ちゃん、幽霊がおしっこか?」


疫病神が言うと、レイコさんは疫病神にそっと耳打ちした。


疫病神のアゴがあんぐりと下がった。


「言い難いんやけどな、坊のことが好きになったらしい。


側におりたい言うてはるよ。」


僕が驚愕の表情でレイコさんを見ると、白すぎる手で顔を隠した。


カンベンしてくれ。


初告白が幽霊なんて。

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