第3話 こんな物にも免疫ってあるのか?

僕は今、疫病神と貧乏神との奇妙な同居をしている。


というか、元々、僕にずっと憑いていたわけで、


このドジな神々はあろうことか、神のくせに、


僕に正体を見られてしまった、情けないやつらなのだ。


疫病神は僕のおばあちゃんから孫を頼むと願をかけられ


それ以来、霊に憑かれやすい僕のことを守って来たらしい。


疫病神が祟るというのはわかるが、守るなんてことは聞いたこともない。


貧乏神は、疫病神の所為で父が左遷になって、大阪から山口県に越した時


その引っ越した家の神棚に憑いていたらしい。


疫病神と貧乏神に何故か守られ、僕は二度も命拾いをした。


本当にわけがわからないことになっている。



そんな僕に、最近、ある異変が起こっている。


僕は今まで霊に憑かれやすくても、自分で見ることができなくて


霊の存在に翻弄され続けて来た。


でも、最近、僕にも見えるようになってきたのだ。


最初に見えた時には、「また変な神様?」とか思ったのだけど


どうやら、違うみたいだ。


彼らはただ、何も言わずにこちらを見ているだけなのだ。


ああ、ほら、さっきコンビニから憑いてきた女性の霊、


めっちゃ見てるなあ、こっちを。


疫病神と貧乏神が睨みをきかせているので


こっちに近づけないようだ。


「ねえ、僕、見えるようになっちゃった。」


神々がこちらを驚いたように見た。


「ほんまか、坊。あの女が見えるんやな?」


僕は女から目を離さずに、うんうんとうなずいた。


「坊にもようやく見えるようになったんじゃねえ。」


貧乏神がしみじみ言った。


「めっちゃ見てる。怖いんですけど。」


「あの女、坊のことを騙された男と勘違いしているようや。」


疫病神が言った。


「えー、人違いだって言ってよー。迷惑だよ。」


僕は見えるがまだ、霊の声は聞こえない。


「さっきから違う言うてるんやけどな。


ああいう女はしつこいからな。恨むことしかでけへんねん。


ぜんぜん人違いやって言うてるのに。理解してもらえへんねん。」


疫病神がフウとため息をついた。


「事情を聞いてやるから、帰ってもらえないだろうか、と伝えてくれ。」


見えるのに通訳が要るとは面倒なことだ。


「あんたな、どういう事情でそんな姿になったんか知らんけど、


この坊はあんたを騙した男とちゃうで?坊の顔見てみ?


まだ童貞やで。」


僕は飲んでいたお茶を吹いた。


「待て待て、何勝手な事言ってるんだ!適当なことを言ってるんじゃねーぞ!」


疫病神は僕の顔をじーっと見てきた。


「違うとでも?」


そこは標準語なのかよ。僕は「うっ」と返答に詰まった。


疫病神は、当たりか、みたいなニヤケ顔で見てきた。


何だよ、わかった風に。どうせモテませんよ。


すると女は顔を上げ、うんうんと頷いた。


「こら、お前、ちょっと失礼だろ。」


僕は女に向かって理不尽な怒りを感じた。


女性の話によると、さんざん男に貢がされた上に、男は他に女を作って


逃げてしまったと言うのだ。


女は絶望して、あのコンビニの入っている雑居ビルの屋上から飛び降りて


自殺したそうだ。


男を祟ろうにも、どこに行ったかもわからずに、とりあえず


雰囲気の似た男性の姿を追ってしまうそうだ。


信じられない話なんだけど、彼女はド近眼なのだそうだ。


そういう現世でのことって、あの世でも継続するのか。


知らなかった。


女はその話をする間中、メソメソ泣いていた。


ずっと泣き続けて、僕は少し可哀想になってしまった。


「捜して、仕返ししようか?」


僕はうっかりそんな言葉を口にしてしまった。


するとメソメソしていた女の顔が、ぱあっと明るくなった。


意外とかわいい。


僕は言ってしまってから、しまった、と思った。


「坊、安請け合いはあかんで?」


「そうですよ、どうやって捜すんかね?」


僕は神々から窘められ、ちょっと意地になってしまった。


「ねえ、何か手がかりはないの?」


僕は女に向かって話しかけていた。


神々は、やれやれと呆れ顔になった。


「やっぱ坊は、ついてないようや。坊は災難を呼び寄せる才能があるな。」


疫病神に言われ、僕は、お前が言うなよ、と思った。


女は疫病神に経緯、男が元住んでいた住所、名前、年齢など


いろんな情報を与えてきた。


よく考えたら、今僕は霊と接しているのに、何の体調の変化もない。


これって免疫ができた?


こういうのにも免疫ってできるんだなあ。


「しゃあないな。坊の気まぐれにも困ったもんや。


わしらが調べたるさかいに。坊も言いだしっぺなんやから


協力してや?」


ぼんやりしていた僕は一気に責任を感じてしまった。


言ったからには、やるしかないか。


女の霊は、僕に向かって手を合わせてきた。


幽霊に手を合わせられた。


縁起悪いわ。

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