第2話 腐れ縁とはこのことか
疫病神と貧乏神を追い出した次の日の朝、僕は電車で会社に向かった。
さほど、満員でもない電車の中、入り口の近くに
全身黒尽くめの背の高い痩身の青年が立っていた。
髪の毛は銀髪で、見た目が何となくチャラい。
ホストかな。
僕はそう思いながら、ちらりと男を見た。
男は僕の視線に気付くと硝子球のような目で僕を見て
口元だけで笑った。
僕は慌てて目をそらし、駅についたので
その男の前を通り、ホームに下りた。
その瞬間僕は、背中を何か鋭利なもので切りつけられたような
痛みを感じて、ホームにそのまま倒れてしまった。
周りは騒然となった。
遠くで救急車の音がした。
誰かが僕に常に話しかけてくる。
「大丈夫ですか?気をしっかり持って!今救急車が来るからね!」
見知らぬ誰かの声がだんだん遠ざかる。
僕の意識はブラックアウトした。
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「貧乏神、坊がえらいことになってん。」
疫病神が言う。
「でも私達、坊に捨てられたんですよ?」
貧乏神は言う。
「拗ねてる場合とちゃうで。あいつが来よったんや。」
「あいつって?」
貧乏神はごくりと唾を飲み込む。
「死神や。」
「死神!」
貧乏神は青ざめた。
「坊んとこ、行くで。」
二人のおっさん神たちは、病室に向かった。
「あ、ちぃーっす。疫病神さんと貧乏神さんじゃないっすか!」
おっさんたちは唖然とした。
最近の死神は世相を反映して、こんなにチャラいのか。
「その坊は、堪忍したってもらえまへんやろか?」
疫病神が言った。
死神は信じられないという顔で見てきた。
「はあ?あんたら、疫病神と貧乏神っしょ?いわゆる人を不幸に陥れる神が
何言ってんの?」
死神は腹を抱えて笑った。
そして、硝子球のような冷たい目でこちらを見た。
「まあ、俺も死神の端くれっすから。ノルマ、きついんすよね。
これ以上邪魔立てするんなら、容赦しないっすけど?
あんたらくらいの低級の神くらい、俺一人で消すことできますよ?」
二人のおっさんは反論できなかった。
「この人、もう長くないっすよ。ていうか、ここまで生命力の弱い人、
よくここまで生きてこれたよね?不思議っす。」
二人は無力な自分たちを嘆いた。
「坊はもうダメなんやろうか。おばあちゃんに申し訳ないわ。」
疫病神は涙を流した。
「あきらめなさんな。手立てが無いわけじゃないけえ。」
貧乏神が珍しく、たくましく見えた。
「ほんまか?」
疫病神が言った。
「荒神様にお願いするしかない。」
「荒神様?」
「山口に何社か、荒神様が祭ってある神社がある。
そこの一番強い荒神様にお願いしてみよう。」
おっさん神二人はとある神社へ向かった。
神々しい、大きな鳥居をくぐり、本殿へ向かった。
「荒神様、お願いがございます。」
ご神像から荒神様が現れた。
「疫病神と貧乏神が雁首を揃えて何用だ。
ここはお前らなどが来るところではない。
早々に立ち去れ!」
疫病神が荒神様の足元にひれ伏す。
「お願いします。お話だけでも聞いたってください。
わしはお世話になったおばあちゃんの孫を助けたい、
ただそれだけなんです!」
貧乏神もひれ伏す。
「お願いします。場違いなのは重々わかっております。
人一人の命がかかっております。」
荒神様は少し置いて
「人の命とな?」
そう言った。
「はい。わしは、おばあちゃんとの約束で坊を守るって決めたんです。
疫病神が何を血迷ったことを言うかとお思いでしょうが、おばあちゃんは
わしを疫病神やとは知らずに一心不乱にわしに願を掛けはりました。
孫の命を救ってくれと。わしはその熱意に打たれ、坊を助けました。
それからもずっとおばあちゃんはわしに感謝して、お参りを欠かさなかった。
わしは疫病神、感謝されることなんてなかったから嬉しかったんです。
ずっと坊を陰ながら見てきたのですが、この前、坊に見つかってしもて。
人間に姿を見られるなど、神失格です。坊には出て行けと言われました。
疫病神やから当然です。でも、わしは坊を守りたい。
あの若い身空で死ぬなんて、あんまりや。わしは坊を死なせたくないんです!」
「私からもお願いします。あの子は、素直ないい子なんです。
ただ、幼い頃から憑かれやすい体質っていうだけで、あの子は苦労してきました。
今までずっと微力ながら、私らあの子を守って来たつもりなんです。
お願いします。荒神様、お力をお貸しください。」
二人のおっさんの土下座に荒神様は呆れ顔だ。
「うぬら、本当に疫病神と貧乏神なのか?
呆れたやつらだ。でも、うぬらの熱意に免じて
願いを叶えてやろう。」
そう言うと、荒神様はどんどん巨大化していった。
見る見る空いっぱいになり、入院している病院の方へ大きな腕を伸ばした。
指で、ヒョイと坊の病院に憑いていた死神の頭を掴んだ。
死神は驚愕の表情を浮かべ、怯えていた。
荒神様は死神をつまみ上げ、大きく口を開け、一口でパクリと飲み込んでしまった。
「さすが、荒神様やで。」
二人のおっさん神たちは、荒神様の力に畏怖の念を覚えた。
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僕は意識を取り戻した。
疫病神と貧乏神は、それを見届けると安心して、
病室から出て行こうとした。
「お前ら、行くとこあるのか?」
僕が弱々しく言う。
「大丈夫や。わしら神様やで?仮にも。」
「まあ、またどこかにこっそり住まわせてもらうよ。」
二人は口々に強がりを言った。行くあてなどないのに。
「もしかして、今回もお前らが助けてくれたの?」
二人は黙っていた。
「まあ、行くとこ無いんなら、置いてやってもいいよ。」
おっさん神二人は驚いて振り向いた。
「ええんか?坊。一生ついてないし、貧乏やで?」
「元々じゃないか、そんなもの。」
僕は満面の笑顔でそう答えたのだ。
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