第3話 オネエ妖怪が僕っ子をプロデュース

「うわあああああ!」

夜道に哀れな子羊の叫び声が響く。最近は噂が広まり、地元の人は恐れをなしてあまり通らなくなったこの道によそ者のイケメンが通りかかったのが運のつき。

脱兎のごとく逃げ出したイケメンの後姿を、うっとりとした表情のオネエが見つめていた。

「ほんと、サイッテー。」

僕は相手にしなければいいのに、あまりの醜態につい声に出してしまった。

オネエ妖怪垢舐めは、振り向いて憮然とした。

「何よ、食事しただけじゃない。私に飢え死にしろっていうの?」

僕は溜息をついた。

「何も、こんな所で襲わなくても。銭湯とか行けばたくさん舐められるじゃん。お風呂の桶とか、浴槽だとか。」

オネエ妖怪は鼻息を荒くした。

「いやよ、風呂桶とか浴槽なんて。やっぱり生の新鮮なものがいいに決まってるじゃない。それにね、銭湯なんてジジイしか居ないわよ!」

「若い人も居るかもしれないじゃん。」

「いいえ、経験上ほぼ皆無ね。イケメン率も低いし。私はね、グルメなの。おいしい美少年の物しか口に出来ないの!」

ああ言えばこう言う。本当に口の減らないオカマだ。

「あーあ、ここは薄暗くてなおかつ、学生が通るから いい穴場だったのになあ。最近噂が広まっちゃって、めっきり通行人が少なくなっちゃったわ。そろそろ場所を変えようかしら。」

「贅沢言ってると、ホントに飢え死にしちゃうからね。」

僕は不思議だった。 何で僕は妖怪と普通に話してるんだろう。

「ところで、アンタ、あの翼君にはもうアタックしたの?」

唐突にオネエ妖怪がたずねてきた。

僕は名前を聞いただけで、心臓が喉元まで競りあがってきた気分になった。

「アンタには関係ないでしょ!」

僕は焦ってそう言った。すると、オネエ妖怪は僕の周りを1周ほど周り、舐めるように見回した。

「まず、その格好じゃダメね。」

妖怪にダメだしをされた。しかもオネエに。

僕の今の格好は、ジーンズにボタンダウンのシャツ、その上から半そでのパーカーを羽織っていた。

「どこから見ても、僕ちゃんだもの。」

オネエ妖怪はフウっとわざとらしく溜息をついた。

「だ、だって、しょうがないじゃん。お兄ちゃんのお古とかばっか着てたから。服の選び方とか、わかんないんだもん。」

僕は本当に、服のセンスが無い。

「じゃあ、私が服を選んであげる。行きましょ!」

オネエ妖怪が勝手に腕を組んできた。

「ええ?今から?」

「まだ開いてるお店知ってるから。可愛い服がたくさんあるのよ。」

オネエ妖怪にぐいぐいと引っ張られて僕は連行された。

「おこんばんはぁ~。まだやってるぅ?」

お店、ってここ、廃墟じゃん。

「いらっしゃーい。」

僕は奥から出てきた店員にびっくりして短く「キャッ」と叫んだ。

貞子だ、貞子出てきたー。

「今日はね、珍しいお客さん連れてきたのよ。なんと、人間。」

何がおかしいのか、オネエ妖怪はくすくすと笑い始めた。 妖怪ギャグなのか、これ。

「この子に似合う、女の子らしい、可愛い服を見繕ってくれる?」

そう貞子に言うと、おもむろに古い箪笥を開いた。その中からにゅーっと手が出てきたので僕はまた驚いて

今度はしりもちをついてしまった。

「箪笥の付喪神よ。」

オネエが言った。その手には、ヒラヒラのフリルのついたピンクのブラウス、ピンクのヒラヒラのミニスカート、これまたピンクのカチューシャとピンクの靴が握られていた。

これって、まるで姫ファッションじゃん。

「こんなの、恥ずかしくて着れないよ。」

僕は難色を示した。

「何言ってんのよ。アンタなんてこれくらいしないと、女の子に見えないでしょ?」

いちいち引っかかる、棘のある言い方。僕はしぶしぶ試着室で試着した。

「フーン、なんとか女の子に見えるわね、これで。」

なんだか足元がミニスカートのせいでスースーする。心もとない。

「僕、お金持ってないよ?」

「いいわよ、今回は私がプレゼントするわ。いい?今度お祭りがあるでしょ?翼君を誘うのよ。この服を着て行きなさい。」

「えーーー、無理無理無理!僕から誘うなんて。」

「何言ってんのよ。こういう時こそチャンスじゃない!ほんと見てるだけで何の進展もない。アンタ見てるとイライラしちゃうのよ。私だったら、もっとガンガン行くけどね!」

なんだかエライことになっちゃった。

でも、翼とお祭り、行きたい。 僕は勇気を出してみることにした。

「えっ?お祭り?」

翼が僕を見た。僕は顔から火が出そう。

「う、うん。よかったら一緒に。」

「ちょうど良かった。俺も誘おうと思ってたところ。」

「えっ?」

僕はドキンと心臓がなった。

「日向と日向子がさ、一緒に行こうってさ。みなみも誘うように言われてたんだ」

なんだ、そういうことか。やっぱ友達以上にはなれないのかな、僕。

「うん!大勢のほうが楽しいしね!」

僕は努めて明るい顔で言った。

「じゃ、決まり。当日、あの神社に集合な。時間はまたあとで知らせる。」

翼、僕は二人で行きたかったんだ。でも、そんなこと、いえる筈が無い。

学校の帰り道、やはりあの場所であいつは待っていた。

「ホント、チキンね、アンタって娘は。」

「仕方ないじゃん。もう決まってたんだから。」

「それでも、二人っきりで行きたいって言えばいいじゃん。」

「そ、そんな。言えないよ・・・・。ところで、まだこの道にいるじゃん。場所変えるんじゃなかったの?」

僕は話をはぐらかした。

「アンタのこと、見てられないじゃん。しばらく見届けることにしたのよ。 私もおせっかいな妖怪よねえ。」

タバコの煙をふうっと吐いた。

本当、 余計なお世話なんですけど。

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