第2話 僕はその都市伝説の正体を知っている
「それにしても、アンタ、私のことが見えるのね?普通の人間には見えないはずよ。アンタ、もしかして そういうの見える子なの?」
オネエ妖怪は言った。僕は頭をブンブンと横に振った。
生まれてこの方、幽霊や、そういう類の物は見たことも無い。このオネエが妖怪だと言うことすら、まだ信じられないのだ。
「フーン、だとすると、アンタの身近にそういう人がいるんだ。そういうのって影響受けるみたいだし?」
誰だろう?そんな人は心当たりがない。
「まあ、アンタは僕ちゃんにしか見えないけど、女の子の一人歩きは危ないわ。
早くお帰り。」
オネエ妖怪は、踵を返して夜の闇へと消えていった。
あくる朝、いつも通り、学校に行った。
教室に入るとすでに、何人か登校してきていた。
「あそこ、出るらしいんだ。」
教室の一角で男女のグループが何事か、声を潜めて話している。
「暗い夜道を歩いているとさ、いきなり後ろから首筋を舐めてくるんだって。」
「えー、きもーい。何それー。」
女の子は本気で気持ち悪がっている。
「それでさ、びっくりして振り向くじゃん?そしたら、そこには誰も居ないんだって。」
女の子は自分の腕を抱きながら
「えーやだー。こわーい。」
心底怯えている。
「いや、それが女の子は大丈夫なんだ。」
「え?どういうこと?」
「その被害は男限定、しかも若いイケメン限定なんだ。」
「そんなバカなー。もー、嘘ばっかり!」
「いや、マジマジ。俺の友達が被害にあったんだから、間違いないよ。」
僕、知ってる。
それはたぶん本当の話だ。
だって、僕が昨日被害に遭ってるし、その都市伝説の本人(?)と会話してるから。
でも、こんなこと、誰にも言えないよ。信じてもらえるはずがない。
それは妖怪垢舐めで、しかもオネエだなんて誰が信じる?言えばいい笑いものになる。 僕の心の中だけにしまっておいた。
「おっはよー、みなみー。」
日向子と翼が一緒に教室に入ってきた。 一緒に登校して来たのかな。そう思うだけで、僕の胸がチクリと痛んだ。
僕は知っている。翼はたぶん日向子が好きだ。 日向子は元気いっぱいで、明るくてかわいい。 誰にも同じように優しいし、スポーツも勉強もできる。 僕はと言えば、チビで痩せっぽちで、胸なんてほとんど無い。 髪の毛もショートカットでまるで男の子みたいで、しかも自分のことを僕って言っているし。
とてもかなわないよ。
僕がそんなことをウジウジ考えていると翼が僕の肩を抱いて
「昨日、大丈夫だったか?なんか変な噂があるみたいだから。まあ途中まで日向子と一緒だから百人力だけどね。」
と顔を覗き込んできた。
「百人力って誰のことよ!」
後ろから翼は日向子のカバンでポンと叩かれた。
そんなに優しくしないでよ。
僕、諦めきれなくなるよ。
「また、やろうぜ、ゲーム。土曜日、俺んち集合な!」
そう言って自分の席についた。 別に断る理由もないけど。きっとまた、日向子たちも呼ぶよね。僕は一人で切なくなった。
僕は部活の片付けで少し遅くなってしまい、下校するころにはとっぷり日が暮れていた。僕はまたあの道を通って帰らなければならない。他に回り道が無いのだ。 薄暗い夜道の昨日と同じ場所にやはり、それは立っていた。 見えているけど、あえて僕は無視を決めることにした。
「今お帰り?今日は随分と遅いわね。」
ちっ、話しかけてきた。無視だ、無視。
「あら、生意気に無視?」
僕はプチっと何かが切れた。
「当たり前じゃないの。昨日首を舐めてきたオネエの妖怪なんか、用なんてあるはずがない!」
「あれは事故よ。私だって選ぶ権利あるわあ。」
ムカツク、ムカツク、ムカツク~。
何でこんなオネエ妖怪にバカにされなきゃなんないのよ!ずんずんと僕は進む。
するとオネエ妖怪がついてきた。
「なんか、今日のアンタ荒れてるわねえ。何かあったの?」
「妖怪には関係ないよ。」
「まあ、失礼ねえ。」
そんな会話をしていたら、神社のほうから、日向子と翼が出てきた。 僕は何故か声を掛けられずに、足を止めてしまった。僕はじっと二人を見つめるだけだった。
二人で神社で会ってたの?
僕の胸がチクリとまた痛んだ。すると、後から日向も出てきた。なんだ、二人っきりで会ってたわけじゃないんだ。そう思うと、ほっとした。
「ははーん、アンタ、あの子が好きなのね。割とかわいい子じゃない。」
後ろから僕の様子を見ていたオネエ妖怪が、舌なめずりをしながら言った。 僕は振り返り、凄い形相で言った。
「翼に手を出したら、絶対に許さない!」
「フーン、あの子翼くんって言うんだあ。もう一人の子も色が浅黒くてスポーツマンタイプで素敵ね。」
こいつ、日向にまで手を出す気だ。すると、3人が僕に気付き、近づいてきた。
「おー、みなみ、今帰りかあ?一緒に帰ろうぜ。」
屈託の無い笑顔で翼が近づいてきた。だが、日向と日向子は真剣な顔でこちらに近づいてきた。そして日向が僕の手を引いて引き寄せた。
え?なに?
「おい、そこのオカマ。みなみに近づくな。帰れ。」
日向が僕の手を引き、オネエ妖怪の前に立ちふさがった。翼は何のことかわからず、ポカンとしていた。
「え、何、何?」
翼は真剣な顔の日向と日向子の顔を交互に見ていた。
「フーン、この子たちは見える子なのね。僕っ娘に影響を及ぼしてたのは、 君たちなのね。」
日向と日向子はオネエ妖怪をじっと睨みつける。
「わーかったわよ、わかった。そんな怖い顔しなくても帰るわよぉ。 私はかわいい男の子にしか興味ないんだから。」
そう言うとタバコを吹かしながら、夜の闇へと消えていったのだ。
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