第24章 吸引吸着式ワイヤーの弱点

 パンドリオンと希が策を練っている間にも、八握のデイライトガン“土蜘蛛と子蜘蛛”のワイヤーが換気口を通過し、シュルシュルと仲間達に近づいてきた。


 軌道エレベーターは、大型のエレベーターとはいえ、あくまで閉鎖空間、大きく回避できるスペースは、それほど無い。しかも、エレベーター内部での派手な攻撃も出来ないのだ。なので、火気攻撃であるリキュールの炎龍銃“ムスペルヘイマー”、激しい衝撃の弾丸を放つテンニャンの極衝撃銃“ハイパーソニックパルサー”、黒崎の電撃系の“サタメント”も撃てなかった。


黒崎「ちっ。こう狭くて閉鎖している空間では、銃ではどうにもならん!」

リキュール「ルシフェリオンに戻しても、弾丸では威力が強すぎてだめなの」

テンニャン「あうぅぅ、これでは攻撃できないアル…」


 だが、“弾丸をアレンジ”する事で、唯一撃てる弾丸を持つ仲間の銃があった。


 スイートの極冷気銃“コキューター”だ。


スイート「火気厳禁、電撃禁止、衝撃なんてもってのほか。なら、撃てる弾丸は1つだけ。冷気だ。少し寒い程度でエレベーターが故障するなど、聞いたことが無いからね。ターゲットはこのワイヤーの先。俺たちを締め付けるかぎ爪となるこの部分を凍らせて機能させなければ、とりあえず凌げるだろう。ということで、全員換気口から一番遠い所に固まって!」


 その声に全員反応して、スイートを中央にして、全員が換気口の反対側の壁に集まり、スイートのコキューターの冷気弾丸に任せることにした。


パンドリオン「冷気弾丸でワイヤーの口を凍らせる・・・・ワイヤーの先は真空吸引型の吸盤・・・・か・・・・」


***


スイート「おらおらおらおら!」


 パキーーーン! パキーーーーン!


 スイートのコキューターから放たれる弾丸“冷気の塊”がワイヤーにヒットするたびに、ワイヤーの先に厚めの氷が纏わり付き、換気口の外に引っ込んでいった。とりあえずこの対処は正解だった。


 だが、八握も馬鹿では無い。デイライトガン“土蜘蛛と子蜘蛛”の銃口まで戻ったワイヤーは、八握の手元の土蜘蛛なら八握自身が纏わり付いた氷を、八握の仕事道具のハンマーでガンガンと叩くことで、周りの氷はぱらぱらと落ちていき、元の吸盤に戻っていた。子蜘蛛の場合、1回エレベーターエリアの内壁まで移動させ、こんこんとぶつける事で、同じようにワイヤーの先は復活してしまったのだった。


 当然、ワイヤー攻撃は、また復活し、換気口から再侵入し、これが数分繰り返されているだけとなった。


八握「こんな子供だましの小細工、無駄無駄無駄! このワイヤーの素材は表面加工された柔らかくて強い強化プラスティック製の中空糸。完全凍結することなく、どんな場合でも柔らかく弾性に富む。テメーらの疲労がピークになって、弾丸が外れてきたら、巻き付いて骨ごとバキバキにしてやるぜ! へっへっへっ!」


パンドリオン「吸引機能のため、中空糸で素材は弾性に富むプラスティック製、所謂ゴム素材・・・・よし! それなら、これだ」


 その声と同時に希のパンドリオンを持つ腕は換気口の方へ向けられ、銃口はワイヤーの先に向いた。


パンドリオン「スイートさん、八握の土蜘蛛に繋がっているワイヤーがどれか、わかりますか?」

スイート「え!? あ、ああ。あの一番大きな吸盤が付いているワイヤーだが…」

パンドリオン「では、その吸盤を凍らせてください。後は他の奴の応戦をしていてください」

スイート「あ、ああ。わかった。では、撃つぞ!」


 パキーーーーン!


 言葉の通り、土蜘蛛に繋がっているワイヤーの先は凍り付き、同じく換気口まで引っ込みはじめた。


パンドリオン「逃がさん! 希、撃つぞ!」

希「わかった! で、どこに!?」

パンドリオン「吸盤の口の中だ!」


 バシュン!


 パンドリオンに言われたとおり、希は引き金を引いた。すると、黄金だが今度は何というか、ゴム弾のような感触の弾丸が発射され、土蜘蛛のワイヤーの凍り付いた吸盤の口に侵入した!


 ボヨンボヨンボヨンボヨン!!!!!!


パンドリオン「これで終わりだ。おめーの糸は構造的に、欠点だらけだ。それを利用させて貰ったよ」


 八握の握っている土蜘蛛がぶるぶる振動していた。糸の“中”を弾丸が通っているのである!


八握「なっ!!!!!! 中空糸の内壁に跳ね返り続けて・・・・こっちに弾丸が来るだとぉ!!!!!!」


パンドリオン「ワイヤー銃も欠点だったな。銃を手放せば、おめーは真っ逆さまに落ちていく、握っていれば、確実に弾丸はヒット。さて、おめーさん、どうする?」


 八握は汗だくで迷っていた。どっちを選んでも、結果が同じだからだ。


八握「ひ・・・・ひ・・・・ひ・・・・い・・・・」


 ガンッ!!!


 パンドリオンの弾丸は遂に土蜘蛛の銃口まで到達し、そして本体の“吸引器”を破壊して、そして本体の“アクチュエーター”を破壊し、そして・・・。


八握「いやだぁぁぁ!!!!!! 死にたくねぇぇぇ!!!」


 バガン!!!!


 銃は暴発した。八握の銃を握った手から、土蜘蛛が消えていき、そして本体が破壊されたことで、子蜘蛛6機全てのワイヤーが消滅して、真っ暗の真下に落下していった。


八握「うわぁあぁあぁぁ!!!!!!!」


 八握の土蜘蛛も同様だった。銃とワイヤーが消滅した事で、八握を支えていたモノが無くなったので、八握も、当然、真っ暗の真下に落下していた。


八握「うわぁぁあぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 そして、見えなくなった…。


***


制御パネルの声「障害物消滅、状態オールグリーン、緊急停止解除、これより上昇を再開します」


 ブーーーーーーーン


 軌道エレベーターは再び上昇を開始し、今度こそ、101Fに登っていってくれそうだった。


パンドリオン「ま、ざっとこんなもんだ。相手の利点なんて、考え方を転換すれば、利用出来るって事だ。希、覚えておけよ?」

希「あ、ああ…」


 パンドリオン、どこまでその力は“パンドラの箱”なのだろうか?

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