第21章 厄災の弾丸

 与一も馬鹿では無い。


 最初に狙っていた対象から“一人だけ”、自分の視認できるエリアから消えた事を、暗視ゴーグルとスマホからの空間情報で察知し、こういう場合は、自分が狙撃対象になっている事と理解した。


与一(ほぉ、俺と狙撃勝負するってか? 連中の所持しているムーンライトガンが最高レベルのルシフェリオンなのは既に既知だ。だが、ルシフェリオンは狙撃型ではない。つまり、なんらかの形でスナイパーライフル型ムーンライトガンを入手した奴が一人いたわけか…)


 暗視ゴーグルとスマホからのフィードバック情報を逐一監視していた与一は、自分を狙撃できるエリアを絞っていた。自分を中心にした球体の中で、数カ所存在する。なので、スマホの確立計算アプリがはじき出した“最も高確率”のエリアの順に、暗視ゴーグル越しに視線を移動していった。


与一(まず、前方22m、右1.8mの箱の奥・・・・・・この状態で撃ってこないのなら、次候補だ)


 視線は次のポイント、前方30m、左5mの棚の最上段に移動した。


与一(・・・・ここでもないか・・・・。これ以降は低確率ポイントだ。随分、“賭けに等しい位置”から狙っているらしいが、“そこ”からの狙撃は、相当の腕がないと成功しないはずd)


 パシュン!


 ぬこみんの限界突破銃である、超音波狙撃銃“フォルティマレシオ”の狙撃弾1発が、与一の左腕の肩パッドをかすって、棚の防弾壁に着弾して止まった。狙撃位置は最も低確率と算出された後方5m、左10mの位置で、そこからの障害物の隙間を縫う狙撃方法だった。


与一(・・・・ほぉ、やるじゃん。そこからか。相手のスキルが未熟とは言えないのはわかった。狙撃銃の精確さもあるが、どうやら奴、音波探知まで使っているな? 危ないところだった。しかし)


 与一は姿勢をそのままにして、そこからスマホの確立計算アプリではじき出した、“移動して陣取る次の狙撃ポイント”、と自分の視認と感で、ある1点の予想を付けた。


 与一は姿勢を変えなかった。


与一(・・・・そこか、なら、プロのスナイパーの怖さを教えてやるよ)


***


 ぬこみんは“その位置”に移動して、与一をスコープで見ていた。ターゲットは動く気配は無い。


ぬこみん(さっきも狙撃出来たし、私の位置、わからないはず。こっちは音波探知とスコープではっきりわかる。これなら、イケる!)


 スッ


 ぬこみんは狙撃銃を構えた。


ぬこみん(次は、外さない!)


 パシュ! パシュ!


ぬこみん(え…2回?)


 キンッ! バシュ!


ぬこみん「きゃああ!!!!」


 カラン カラン カラン バサン!


 ぬこみんが狙撃銃を持っていた右腕の肩を、与一の狙撃銃の弾丸が貫通し、激痛のためぬこみんは狙撃銃を手放し、そのまま勢いで棚から落ちて、床に突っ伏してしまった。


 ぬこみんの右肩からは赤い液体が流れており、落ちた痛みで起き上がれないでいた。


希「ぬこみーーーーん!!!!!」


 その声の後、黒崎のスマホに、与一からコメントが1つ書き込まれた。


与一“3つ目、片付けたぞ。まだまだ甘いよ、お前ら。ターゲットの位置がわかっていれば、目線や姿勢を変えずに狙らわれている事を悟らせずに、腕だけ動かして、その軌跡に弾丸を撃ち込む。弾丸はその女の狙撃銃の弾丸の軌跡の上を逆順で描いて、そのまま狙った女の肩口を貫通。狙い通りだ”


 希は黒崎の近くに来ており、黒崎のスマホの書き込みを見て、憤怒した!


希「てめぇ!!!!!! 絶対、許さねぇ! どこにいる! タイマン勝負だ!」


 だが、すぐに与一から書き込みがあった。


与一“ばーか! 俺は狙撃屋だ。タイマンなんかするか! 狙撃はあの女だけらしいな。じゃあ、そろそろ、お前らの脳天をぶち抜くとするか”


 その時、スマホに“信じられない書き込み”がされた。書き込みユーザーは“パンドラ”だった。


***


パンドラ“よーお、良い腕じゃねーの、俺はお前に賭けた客の一人だ。腕を見込んで良い事を教えてやる、金の話だ”

与一“あ゛? 金? まぁいい、聞いてやる。簡単に言え“

パンドラ“ここの連中のムーンライトガンとデイライトガンを、たたき落とした上で片付け、そいつらの銃を回収して勝つとな、法外な”特別ボーナス“がついた賞金がお前さんに入ってくる。たたき落としてから片付けないと、こちらがお前さんにやられたと同時にサヴァイバリングのルールで銃も消える。手元から遠く離れ、障害物扱いになってはじめて、消えないルールが適用される。あと、重要人物である希を最後に片付けると、更に特別ボーナスも付く。ではな”


 こうして、書き込みと同時にユーザーもログアウトした。


与一“・・・・ふーん、そういう特例があるのか。大概片付けちまうから、銃の回収や順番までは知らなかった。では、『特別ボーナス』、たんまり頂くとしよう。どっちみち片付けるから同じだしな”


 そのとき、“希達のスマホ全員”のSNSに、パンドラのユーザー名で書き込みがあった。


パンドラ“さっきの書き込みの主である、パンドリオンだ。信じてすぐに実行に移してくれ。全員、銃を『限界突破』させて、そのまま構えて待機していてくれ。おそらく希以外の4名は手元を狙撃される。そうしたら逆らわずに、武器をそのままぶん投げてくれ。どこでも良い。「厄災と希望」の能力を持つ、俺を信じてくれ”


 限界突破させたままの希以外の4名、リキュール、スイート、ステロイド、テンニャンはすぐに銃を限界突破させ、手元に汗をかきながら、“そのとき”を待っていた。


 そして、そのときは来た。


 パシュ!


リキュール「痛!」


 カラン カラン


 リキュールは逆らわず、かといって大げさにせずに自然に、彼女の限界突破銃である、炎龍銃“ムスペルヘイマー”を、何もいじらすに近くに落として、その場に座り込んだ。


 パシュ!


スイート「くっ!」


 カラン カラン


 スイートも同じく、彼の限界突破である、極冷気銃“コキューター”を、そのままにして、近くに落とし、その場にうずくまった。


 パシュ!


ステロイド「ぐぬ!」


 ガラン ガラン ガラン


 ステロイドも同様に、彼の限界突破銃の、重破壊ガトリングガン“タヂカリオン”を少し大げさだったが近くに投げ落とし、その場に座り込んだ。


 パシュ!


テンニャン「痛いアル!」


 カラン カラン


 テンニャンも同じように、彼女の限界突破銃である、極衝撃銃“ハイパーソニックパルサー”を、痛さもあったが、そこそこ遠くへ投げ落とし、その場にうずくまった。


リキュール(い・・・いったい、パンドリオンは何をしようってのよ…。希以外、全員武器無くなっちゃったのよ?)


 一連のそれが“滞りなく完了した”のを確認したパンドリオンは、希にこう語りかけた。


パンドリオン「それでは、Show Timeをはじめようか。お前に俺の真価をみせてやる」


***


 パンドリオンを構えていた希の腕は、パンドリオンの能力により強制的に、“とある方向”に構え直され、そして、パンドリオンは、与一が聞いている事を前提に、話出した。


パンドリオン「よぉ、スナイパーさんよ、1つ面白い事を教えてやる。どんな能力に秀でた者でも、1つだけ絶対に、回避できない要素がある。なんだか、わかるか?」


 だが与一も馬鹿では無い。そんな挑発に乗って声は出さない。だが、ちゃんと聞いてはいた。


与一(誰が喋っているんだ?)


パンドリオン「それはな、“運”って奴だ。どんな奴でも“運が悪かった”ら、命を落とす。じゃあな、『欲深き猛者さん』よ」


 その声が終わると、希が構えていた方向に、一発の“パンドリオンの弾丸”が発射された。


 バキューーン!


 弾丸はまず“棚”に当たり跳ね返った。


与一(“跳弾”戦法かよ。それはデータもあるし熟知だ。じゃあn)


 次に当たったのは、リキュールのムスペルヘイマーだった。


 キン!


 与一は焦った。その“跳弾の次の軌跡”は、彼の予測では考えられない方向だったからだ。


与一「な・・・・“ルシフェリオン”のデータからの跳弾予測なら、そんな方向には…。つ、次の予測だ!」


 キン!


 弾丸は次に棚に辺り、与一の予測した方向に飛んだ。


与一「つ、つぎ!」


 キン!


 今度はスイートのコキューターに当たり、予測出来ない方向に跳弾した!


与一「ば、ばかな・・・なぜ“ルシフェリオン”なのに、予測方向に飛ばない! まずい! 見失った! 弾丸はどこだ!」


 キン!


 今度は棚に当たり、


 キン!


 次にステロイドのタヂカリオンに当たり、


 キン! キン!


 次に棚に当たり、その次も棚に当たり、


 キン!


 次にテンニャンのハイパーソニックパルサーに当たり、そして跳弾した軌跡の先には、倒れている“ぬこみんのフォルティマレシオ”があった。


与一「どこだ! どこにいる!」


 キン!


 弾丸はフォルティマレシオに当たり、そして、一直線に与一の眉間に向けて飛んでいった。


与一「どこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 バシュン!


与一「が・・・・・・・・」


 『厄災の弾丸』は、1mmも外さず、与一の眉間を貫通し、そして衝撃で与一は棚から落下した。


***


 全員が与一の落下した地点に集まっていた。ぬこみんと黒崎は重傷だったので、希がぬこみんを背負い、蛭子が黒崎を背負っていた。


 与一は“ガーディアンフェザーの連中の最後”と同じく、細かい光の粒子に変わりかけていた。


与一「な・・・・なぜだ・・・・俺のデータでは・・・跳弾の軌跡は・・・予測出来るはず・・・・」

パンドリオン「おめーさんは、運が悪かったんだ。俺たち“限界突破銃”はガーディアンフェザーのシステム外、つまり非正規のムーンライトガンだ。つまり、おめーの参照データには無い。だからおめーさんは銃に跳弾するたびに、こう思ったはずだ。“ルシフェリオン”ならこう跳弾するはず“、と」

与一「な・・・・・おまえらの銃は・・・・ルシフェリオンの・・・はず・・・・」

パンドリオン「通常は、な。だから障害物にする時に限界突破銃にして、落としたんだ。これならおめーさんは“誤認”するはずだ、と」

与一「く・・・・口惜しや・・・・・」

希「ぬこみんと黒崎をこんなにしやがって・・・・。少しの同情の念もねーよ、とっととガーディアンフェザーに戻っちまえ!」

蛭子「草薙に伝えておけ。刺客は全員、こうしてやる。最後はおめーだ! と」


 与一は頭部以外、全て光の粒子に変わり、消えていた。


与一「か・・・・な・・・ら・・・・ず・・・・な・・・か・・・ま・・・が・・・・」


 そして与一は消えてしまった。


希「とにかく重傷者多数だ。どうしようか?」

黒崎「の・・希、この上が医務室だ・・・・。そこで簡易治療する・・・ぬこみん共々、頼む・・・」

希「当然だ! すぐに連れて行く!」


 こうして一行は11Fの医務室を目差して階段を上っていったのだった。

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