第20章 狙撃のガンナー

 蛭子を仲間にした一行は、黒崎と蛭子の案内もあり、4F、5F、6Fの電源室、7Fの空調制御室、8F、9Fのサーバー室を無事通り抜け、10Fの倉庫室に到達した。


(某月某日 午前2:45 月光タワー・10F 倉庫室)


 そこはまさに名前の通り、整然と棚が並んでおり、棚には所々に隙間を作りながらもコンテナや段ボールが収納されていた。


 塔の形式の建物なので、これまでの階と合計すれば同じ広さだが、1つ部屋で構成されており、仕切る壁もなかったので、とても広く感じられたのだった。


蛭子「…ライトのスイッチが壊されている。当然人為的だろうな」

黒崎「蛭子、思い当たるガンナーは?」

蛭子「私の次に足が速く、“暗所”を得意とするガンナーは一人だけ」


 蛭子はすかさず自分のデイライトガンである、疾風銃『シナトベル』を構えると、近くの棚に向かって射撃し、弾丸は棚の“頑丈な骨組み”に着弾し、非常灯程度のほぼ暗闇の室内に、疾風銃『シナトベル』の弾丸能力である“気流”が生み出され、室内を扇風機の強レベルの風が駆け巡った。


蛭子「・・・・・気流が変に乱れる場所が、部屋の奥、11Fへの階段の横、右横2つめの棚の最上段の空間に生じている・・・・そこに居るな? デイライトガン“狙撃銃『ナスーノ』”の使い手、狙撃のガンナー“平 与一”(たいら よいち)?」


 その声が“その場所に響いた”後、蛭子のスマホのSNSに、1つのコメントが書き込まれた。


与一“蛭子の『気流による空間把握能力』…。全く面倒な奴がそっちに廻ったもんだ(笑)“


 すかさず蛭子と黒崎が、そのコメントにレスを送った。


蛭子“同行しているだけだ。それにお前、その位置からの狙撃なら、私を狙っていただろ。なら、お前は敵だ”

黒崎“どうして、このSNSを利用する?”


 すかさず与一から返事が書き込まれた。


与一“喋ったりメールを送ったりして詳細位置を特定されるのはごめんだ。かといってそっちに蛭子や黒崎がいる以上、存在を消したり黙って狙撃は出来まい。なので、俺も商売する事にした。サラリー以外の高額収入だ。蛭子の件で学んだよ、こいつを利用すればいいわけだ”


 その声と同時に監視モニターの1つだけに電源が入った。


主催者の声「今度は与一からの開始依頼かよ…。おい与一、お前、蛭子のような事はないんだな?」


 すると主催者のスマホにもSNSの書き込みがあった。


与一“賞金の半分をお前の口座に直接振り込む。互いの位置情報はクローズ、モードは暗所で頼む”


 ガシャン! ガシャン!


 その書き込みのすぐ後、倉庫室の周りの壁、棚の荷物の置いてある段のみ、防御壁が降りてきた。照明は付かず非常灯のみの明かりとなった。つまり、


 『サヴァイバリング開始承認』


 がされた、ということである。


黒崎「…裏で何があったか、見当は付くよ…」

蛭子「主催者もワルよのぉ…」

希「ところでさ、ガーディアンフェザーの連中って、こんなのばっかなのか?」

黒崎「まぁ、普段はサラリーマンだが、統治機関所属の傲慢は、多かれ少なかれ、ある」

蛭子「そして、サラリー以外の所得が許されているのが、サヴァイバリングだ。勤務の鬱憤晴らしにも使われているね」

スイート「どいつもこいつも…」


 それから2分間の沈黙の後、モニターに再び主催者の姿が現れた。


主催者「短時間でのベットにした。与一へは合計1000万ゴールド、それと今回はお前らにも掛け金が支払われた。たった100ゴールドだがな。よって勝負成立。倍率は与一勝利が2倍、お前らが上限付きで999倍だ。我々も青天井の掛け金を支払えるほど余裕は無い。今回は蛭子の件があったため、少々観客も慎重になってお前らを“穴”として賭けた奴がいたようだ」

希「少しはこちらに風が吹いてきたようだね」

主催者「クローズ環境が条件なので、選手の呼び上げも情報もなしだ。でははじめる」


 ビーーーー!


 サヴァイバリング開始のブザーが鳴った。スナイパー戦の開幕である。


***


蛭子「私の弾丸で奴の大体の位置は掴める。私の探知が終わるまでは、棚の影に隠れていて!」


 全員が散開して棚に張り付き、各自の銃を構えて、相手の様子をうかがっている間に、蛭子のみ棚から棚に移動する際に、先ほど探知した与一の近くに弾丸を撃ち込んだ。倉庫全体に気流が生まれ、蛭子はまたうなずいた。


蛭子「弾丸着弾地点から右に5m、一番上の棚にいる!」

黒崎「ショット!」


 黒崎はサタメントでその位置に雷属性の光弾を撃ち込んだ。当たらずとも光の弾丸なので着弾で光り、奴の状況を把握出来ると考えたからだ。


 だが、相手は“狙撃特化のガンナー”だった。そう段取り通りの結果になってくれなかった。


 光った後ろに現れる“影”に、人影は無かった。その代わり現れたのは“煙を少し上げている筒”の影だった。


蛭子「! まずい! 黒崎! にげr」


 パシュ!


黒崎「くぬ!」


 その狙撃弾は、蛭子が指定した位置の反対側、左に7mの位置の棚の中段から発射され、黒崎の左肩を撃ち抜き、床に着弾した。黒崎の左肩は上の方が赤くにじんでいた。当然だが出血したようだ。痛みでその場に座り込む黒崎。


 ピローン!


 黒崎のスマホのSNSに与一から1つコメントが書き込まれた。


与一“命拾いしたな。蛭子の作った乱気流で”弾丸の軌跡”にわずかな乱れが生じた。俺はお前の心臓を狙ったのだが…。残念だが、まぁいい。一番面倒なお前はとりあえず封じた。さて、次は誰にしようかな?(*^_^*)“


黒崎「ふ・・・・ふざけやがって・・・・・」

蛭子「すまない! 奴は常備品の発煙筒をおいて移動し、気流の空間把握を邪魔してきた! 悔しいが…能力は封じられた…」

黒崎「く・・・・みんなすまない。これでは発光する弾丸を撃てない・・・。奴の言うとおり、奴にとって厄介な俺も封じられた・・・・。奴が俺にとどめを刺すのは先になるはず。他のメンツで、なんとか、奴の狙撃を攻略してくれ!」


希「お・・・・おいおい、一番頼りになる二人がやられて・・・」

リキュール「私たちで、プロのスナイパーを相手にするの!?」

スイート「奴からは俺たちが丸見え。だが俺たちは奴の居場所がはっきりわからない…」

ステロイド「まずいだろ、これ」

テンニャン「最悪アル!」


 だが、一人だけ、いつの間にかその中から抜けていた人物がいた。


 ぬこみんである。


 彼女だけ、彼らと同行していなかった。


 そのとき、希達のスマホのSNS(ガーディアンフェザー側とは違うSNS)に1件のコメントが書き込まれた。


ぬこみん“みんな、安心して。私のルシフェリオンを限界突破させて、超音波狙撃銃“フォルティマレシオ”にしたの。私はとある場所で待機して、音波を飛ばして奴の位置を探っています。位置がある程度確定したら、そこから狙撃します!”


 希はコメントにレスを送った。


希“ぬこみん、頑張れ! 奴を倒せたら、後でなんでも奢る!”

ぬこみん“じゃあ、コーヒーショップの一番高いドリンクね♪”

希“ああ、契約だ! 健闘を祈る!”


 こうして、狙撃手vs狙撃手の対決が始まったのだった。

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