お正月SP書き下ろし 番外章 お正月のそれぞれ
(某年元日 午前0時 某都市 某所 喫茶店『望名(ぼうな)』)
前年の12/31の通常営業は休業日にし、12/31午後9時から午前3時まで、喫茶店『望名(ぼうな)』は特別営業を続けていた。毎年恒例となった、深夜の初詣客を見込んだ特別体制だ。もうかれこれ何年、この特別深夜営業をやってきたか忘れたが、とりあえず、深夜割り増し価格+メニュー限定営業にも関わらず、俺とウェイトレスは修羅場と化す。つまり、店内はこうなる。
客「すいませーん! こっち甘酒2つ!」
ウェイトレス「はい! 今、伺います!」
客「マスター、サンドイッチ追加でお願い」
望「かしこまりました」
客「こっち、ブレンド追加!」
ウェイトレス「はい、かしこまりました!」
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これが延々午前3時まで続くのだ、いつもの修羅場ランチタイムが1時間限定なのに対し、こちらは、午後9時~午前3時の6時間、ずっとこの修羅場が続く。まさに1年に1回の“ド修羅場”である。
店内がそれほど広いわけではない事もあるが、望とウェイトレスの二人だけで特に増員せず、この客達の相手が出来るのだから、この二人、相当の強者である。
そんなこんなで午前2時30分のラストオーダーが終わり、午前3時に客は全員いなくなった。流石にカウンターに突っ伏す俺とウェイトレス。
店内片付けをささっと終えて、帰宅したのが午前4時。だが、この修羅場には“第2陣”が待ち構えていた。お昼の参拝客のお相手である。
第2陣は店員のエネルギー補給のため、午前10時に喫茶店に出勤し、やはり特別メニューだけの仕込みをして、ブレンドコーヒーを入れて、甘酒の用意をして、午後0時に開店する。それから午後9時まで営業だ。そこで、望とウェイトレスのお正月バトルは終わる。1/2と1/3は臨時休業にしている。元日の午後9時を廻って客が居なくなった時点で店員のライフが0になるからだ。
(某年元日 午後0時 某都市 某所 喫茶店『望名(ぼうな)』)
望「さーて、そろそろバトル第2陣だ」
ウェイトレス「深夜の初詣客も凄いけど、今度も凄いし長丁場だし、ド修羅場なのよね」
望「がんばんべ」
ウェイトレス「がんばんべ」
カランコロン
カップル客「うーさむ、マスター、甘酒とブレンドとサンドイッチ2つ、超特急で!」
望「かしこまりました!」
そんなこんなで、午後9時まで、店内超混みの修羅場が続いたのでした。
それから数ヶ月後の某日、別の意味での“修羅場”が待っているとは、このときは知るよしも無かったのでした…
***
(某年元日 午後5時50分 ムーンライト居住エリア内 カフェバー『vona(ヴォーナ)』)
スタッフ全員でミーティング中だった。
希の1個前のマスター(以下、マスター)「さて、皆さん、もうおわかりの通り、1年で一番、色々な面で忙しい、元日夜の営業です。では、問題! どう忙しいか、はい、ぬこみん!」
ぬこみん「はい! 客をさばくので忙しい!」
マスター「正解! では、もう1つは? リキュール?」
リキュール「はぁ~、ダークネスのお相手…。ったく、客だけでも忙しいのに、こっちの方が厄介とは…」
スイート「一応、治安部隊は参拝客がいる所に、多めに出動してくれるそうだから、客に紛れて店内に侵入して、となるだろうな」
テンニャン「こっちは厨房が修羅場アルから、ダークネスのスイープはホールのメンツに任せるアル」
ステロイド「任せておけ。こっち全員の“ルシフェリオン”で、他の客が慌てないようにスイープしておく。まぁ混乱が起こったら、速やかに客の誘導はする」
マスター「すまない。私も当然加勢するし、ダークネス検知には更に気をつける事にする」
リキュール「でもさ、たぶん、奴らの目当てはマスターだから、どっちかというと、マスターは有事の時は厨房に逃げて欲しいんだけど…」
ぬこみん「そうにゃ! 私たちで片付けるから、安心するにゃ!」
マスター「すまない。そうさせてもらうよ」
ボーンボーンボーンボーンボーンボーン
時計の音が6回鳴った。もう午後6時、開店時間だ。
マスター「ではみんな! 午前3時までの年間最高の修羅場に突入だ! がんばんべ!」
全員「がんばんべ!」
その後、修羅場の正月を過ぎたある日の襲撃で、マスターはダークネス送りになり、そして、更に後日、代わりのマスターとして、希がやってくることになることなど、この時点では誰も知らなかったのである。
***
(某年元日 午後3時 ガーディアンフェザー本部 会議室)
そこに緊急招集された面々は、世界統治機関“ガーディアンフェザー”のアップデート管理部門の部長の草薙以外に、火野、蛭子、武井、黒崎と他2名の黒服、だけだった。
蛭子「なーーーーーーーんで、元日招集なのよ~。私、コタツでコーンスープ飲んで駅伝見ていたのに…」
火野「俺は自宅で家族サービス中だったんだぞ…。出勤準備中のかみさんの顔、マジ怖かったんだぞ…」
武井「俺は年末にゲットした彼女と、おせち食べていたのによぉ、マジ勘弁だわ…」
蛭子「で、黒服君達は? こういうときは言っておくべきだよ?」
だが、黒服3人は、首を横に振った。そして代表として、黒崎が一言だけ述べた。
黒崎「俺たちは使いっ走りだ。1年中365日24時間、緊急招集で呼ばれても文句は言えない。それに俺は家で汁粉をすすっていただけだから、いつでも出勤できる」
蛭子「大変ね、黒服は…」
そこに、液晶ボードの前の席に座っていた、今回の緊急招集の元凶…発令元である部長の草薙が、口を開いた。
草薙「えーーーー、私への遠回しの悪口は、今回の緊急招集を流石に悪いと思う気持ちがあるから、不問とするが、そろそろ本題に入る」
蛭子、火野、武井「へーーーーーい」
そういうと草薙はノートPCを操作し、液晶ボードに、望と望の両親の写真が映し出された。
草薙「“次”のver.2.0対象人物だ。名前は、一望と書いて、にのまえのぞむ、と読む。いちぼうではないので注意だ。喫茶店『望名(ぼうな)』のマスターをやっている」
蛭子「へー、完成後交換したら、ムーンライト行きか、ご愁傷様」
火野「黒崎達、おめーさんの監視対象だ、覚えて置けよ?」
黒服達「はっ」
草薙「元日深夜営業の客に紛れて、マスターの毛髪1本を入手し、既にラボに届けてある。GOサインは既に、上から出ている。プロジェクトの開始日は、すまないが、今日からだ」
蛭子、火野、武井「え~、マジですか? なんでまた?」
草薙は再びノートPCを操作し、詳細データのPDFファイルを開き、液晶モニターに映し出した。
草薙「今回の件は、相手が貴重な『希突起人類』のサンプルだからだ」
この言葉を聞いて、そこの全員の顔つきが変わった。
草薙「全員周知の通りのはずだ。この貴重なサンプルは是が非でも欲しい。一切命令に背くことの無い“Ver.2.0”として我々の中に取り込むことで、更に優秀な“デイライトガンのガンナー”として成長するだろう。上も、一切問題視することなく、このプロジェクトの開始を指示したそうだ」
火野「で、依頼人の設定は?」
草薙「両親、ということをでっち上げる。本人は両親と離れて暮らしている。問題ないだろう。今日の所はこの指示だけ行い、各自、デスクで書類に目を通してくれ。流石に今日は午後5時退社で構わない。では、頼む」
そういうと、会議は終わった。
***
(某年元日 午後3時30分 ガーディアンフェザー本部 通路)
黒崎(この仕事が終わったら・・・・・いい加減やめるか。潮時だろう・・・・)
***
この数ヶ月後、ストーリーは、プロローグに繋がる事になる・・・・・・
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