第15章 協力者

 あの日から約2週間経過後のvonaのバータイムになるまでの間、vonaスタッフ全員、そしてvona店舗に、これまでの傾向とは違う“違和感”がつきまとっていた。


 vonaスタッフ全員の外出では、後ろに何か“ダークネスとは違う種の人間の気配”を感じ、全員がそれを自覚していた。しかも、サヴァイバリングのアイコンをタップしても承認されず、結局、地の利を利用して、巻いて逃げる事になってしまうのである。


 また、vona店舗にしても然りである。ダークネスとは間違いなく違う連中が、店舗に入る事無く、尾行スタイルでうろつき、声をかけようとすると巻かれる。


 更に治安部隊ですら、“警備”にしてはあまりに人数の多い部隊で、vona周辺をうろついており、声をかけても、


 『警備任務を頼まれたので、ご安心を』


 と、ごまかされてしまう始末。


 明らかに、“あの火野との一戦”以来、環境が変わってしまったのである。


***


(某月某日 午後6時 ムーンライト居住エリア内 カフェバー『vona(ヴォーナ)』)


 店舗はcloseしており、“本日臨時休業 Sorry”の看板もドアの外にかけてあった。


ステロイド「正直、すまん」

リキュール「謝る必要はないわよ。『本当の敵』が本性を現して、たまたまその相手をしちゃっただけ」

スイート「しかし、相手はダークネスより遙かに“たちが悪い”な…」

テンニャン「私たち、全員見張られているし、店も監視されていて客入り最悪アル。困ったアルね…」

ぬこみん「…もう、こうなったら、アソコに乗り込むしか、ないのかなぁ~最後の手なんだけど…」

全員「う~ん・・・・・・」


???「なら、ガイド、勤めても良いぞ?」


 全員がムーンライトガンを構えた入り口には、普通のスーツを着た男が一人立っていた。知らない顔だった。


リキュール「すみませんがお客さん、うち、今日は臨時休業なんですが、というかどうやって入ったのですか?」

男「ここの合い鍵は、私の元商売道具でね、上には返却してなかったんだよ」


 そう言うと、男はvonaのスタッフ全員しか持っていない、vona店舗の入り口の鍵がかかったキーチェーンを見せた。


 スタッフ以外でその鍵の所持許可が下りているのは、一人しか居ない。だが、その男は目の前の男とは姿が違うのだ。


男「偽装するためだったが、もう良いだろう。これなら、わかってくれるか?」


 そういうと、男は懐からスマホを取り出すと、“変装アプリ”のアイコンをタップして、『解除』を選んだ。


 シューン


Vonaスタッフ全員「えぇぇえええ!!!!!」


黒服A「久しぶりだな、旧式とスタッフ連中。お前らの元担当の黒服Aだ・・・というか、そろそろ本名を名乗らせてくれないか?」

希「あ、いや、お前、それより、いや、なんで!?!?」


 黒服Aは小声でスマホを更に操作した。


黒服A「色々説明する前に、まずはジャマーフィールドを張らせてもらう。この店の周囲を、今でも治安部隊が警戒しているからな」


 そういうと、“ガーディアンフェザー専用のスマホ”を操作し、専用のアプリをタップして、店の周囲一帯にジャマーフィールドを展開した。


 ギューーーーーン!!!!!


黒服A「これでよし。では、順序立てて説明する」


 黒服Aの声量は元に戻った。


***


黒崎「俺の本名は、“黒崎 八咫烏”(くろさき やたがらす)だ。変な名前だから名字の“黒崎”でいい。さっきから“元担当”と言っているのは、旧式…いや、希、君の担当をした後、俺は担当からはずされたのだ」

希「何故だ? あれだけあいつらに忠誠を誓った仕事をしておいて…」

黒崎「さぁな、ガーディアンフェザー側からは特に理由を告げられず、人事通知1枚で終わりだった」

リキュール「で、今はなんの担当なのよ」

黒崎「そうさな、表向きはムーンライトの偵察一般だが、不審に思ったからちょいとCOMPにアクセスして調べたら、まぁ、出てきたわけよ、奴らが俺や他の2名の黒服を担当から外した理由が」

希「俺が・・・・“希突起人類(きとっきじんるい)”とか言う遺伝子を持っているから、上にいる“ver.2.0”が出来た今、少しでも関係した人員は、外して関わらせない、と」

黒崎「そうだし、君のご両親の拉致にも関わった俺たちは、やはりさっさと異動させないといかんのだそうだ。Ver.2.0の今の管轄は、ガーディアンフェザーの例の部署の部長の草薙専任だ」

ステロイド「異動した部署にいるって事は、あの火野と同じく、俺たちを始末しに・・・いや違う。最初に“ガイドを勤める”と言っていたが、意味がわからん」


 黒崎はコホンと1回咳払いをすると、襟を正して、希に目線を合わせた。


黒崎「俺の今の裏の顔の上司は、希、君のご両親だ」

希「!?」


黒崎「もうステロイドから希のご両親の行動は聞いているだろう。裏で繋がっている、ガーディアンフェザー側の協力者、それは俺だ」

希「黒崎…」

黒崎「ガーディアンフェザーの望ver.2.0に関する真相を、草薙のPCにハッキングして調べてわかったときは正直、驚いた。だから、それを阻止するために、牢獄の君のご両親に協力を求め、アカウント権限を書き換えて、裏で繋がる“活動”をはじめたって事だな。いまだに元雇い主の草薙は俺の今を知らない。こうやって活動しているときは、この変装アプリで動いているからな」


 ここでぬこみんは首をかしげた。黒崎の“立場”って、結局なんなのだろう?


ぬこみん「あのさ、前から不思議だったんだけど、くろふ・・・黒崎さんって、ガーディアンフェザーなの?」

黒崎「さっきの話に繋がる事だが、俺は純正のガーディアンフェザー側の人間ではない。使いっ走り且ついつでも処分できる仕事を受ける職員を、ガーディアンフェザーからは起用しない。草薙、火野、武井、等は純正のガーディアンフェザーであり自分専用のデイライトガンが与えられている。だから、ステロイドの話から聞いているとおり、ムーンライトガン系の集中攻撃で光の粒子化させて上の世界に追っ払える」

希「って事は、黒崎、お前の故郷は…」

黒崎「俺の住んでいたところは、希、君と同じく“デイライト居住エリア”だ。つまり、希、君と同郷と言うことだ。だから、君を堕とし、厳しい言葉をかけたのは、生き残って欲しかったからだ。俺らは仕事上、数え切れないデイライトの人間をムーンライトに堕としてきた。正直、君の案件の時点で、飽き飽きしていたのがホンネだ」


 そう言うと、黒崎は持っていたアタッシュケースをテーブルに置き、おもむろに開けた。中には、4個の“ムーンライトガン用交換マガジン”を取り出した。


黒崎「希、君のご両親から預かってきた。希とステロイド以外のスタッフのムーンライトガンの交換マガジンだ。ステロイドは既に強化済みだから良いとして、済まないがシステム改ざんを行っても、ガンナー熟練度が足りない希のムーンライトガンを限界突破銃にする事は出来なかった。サヴァイバリングの骨組みまでは変えられなかったからな」

希「この前飛び級で強くなったばかりだから、このアルダーP38で頑張って、最高レベルのルシフェリオンを自力で手に入れるよ」

黒崎「うむ。で、この4個だが希のご両親が作ったシステム改ざんマガジンだ。で、今のルシフェリオンのマガジンと交換する事になる。すまないが、4人のルシフェリオンの中で、そうだな、まずはリキュール、君に銃を限界突破させよう」


 そう言うと、リキュールは自分のルシフェリオンをテーブルに置いた。


黒崎「では、このマガジンを交換してセットする」


 黒崎は、ルシフェリオン常設の“外部エネルギー吸入マガジン”を外して、持ってきた“赤い光るを放つマガジン”を交換で取り付けると、ルシフェリオンが赤く輝きだした!


黒崎「リキュール、君の本名、坂田魅子(さかた みこ)の血統はね、代々、上の世界の巫女“卑弥呼”の生まれ変わりである“希突起人類”の一人なんだよ。だから、君のルシフェリオンの属性“火炎”を限界突破させる事が出来た」


 その言葉が終わる頃、リキュールのルシフェリオンは、真っ赤と橙の2色の火炎をあしらった、スマートなハンドガンへと変貌を遂げた。そして、その銃をリキュールの手に戻した。


黒崎「君の限界突破銃(リミットブレイクガン)、炎龍銃“ムスペルヘイマー”だ。君の血統が持っている潜在能力を200%以上に引き出せるはずだ」


 チャキ


 リキュールは銃を胸元に構え、じっと見つめていた。


リキュール「“私”専用の銃・・・・・・」


 そう思った途端、またルシフェリオンに戻ってしまった。


黒崎「所持者確認が終わったので、元に戻ったんだ。理由はステロイドから聞いているはずだ」


***


 次にスイートのルシフェリオンの限界突破が始まった。黒崎は“青白いマガジン”と常設マガジンを同じように交換すると、程なくして、青白くうっすらと輝くハンドガンに変貌を遂げた。


黒崎「スイート、君の本名、金 志久波田(キム シクハダ)の血統は、上の世界の魔王“ダンテ”を守ってきた守護者の末裔である“希突起人類”の一人だ。主の力を貰った末裔は、代々、“冷気”のマスターでもあった。だから、君のルシフェリオンの属性“冷気”を限界突破させた銃が、この限界突破銃、極冷気銃“コキューター”だ。君専用の銃だ」


 スイートは少し戸惑いながらも、極冷気銃“コキューター”を手にすると、覚悟の決まった顔つきになった。


スイート「いいだろう。アイス料理のパティシエには似つかわしい。受け取るぞ」


 所持者確認が終わると、同じようにルシフェリオンに戻ったのだった。


***


黒崎「次はコックさんのテンニャンだ」

テンニャン「わ、わたしアルか!? ルシフェリオンは確かにもっているアルが…」

黒崎「君にもあるんだよ、凄いのが」


 そういうと、テンニャンから受け取ったルシフェリオンを黒崎がテーブルに置き、同じく常設のマガジンと、白と黒のマーブル模様のマガジンを交換した。すると、テンニャンのルシフェリオンは、白と黒のモノトーンカラーリングのリボルバー銃に変貌を遂げた!


黒崎「マガジン銃からリボルバー銃に変化して驚いていると思うが、これが、君の限界突破銃、極衝撃銃“ハイパーソニックパルサー”だ。一発の重みが他の限界突破銃と比較にならないため、リボルバー形式に変化した、と、希のご両親からは聞いている」


 テンニャンはそのリボルバー銃を受け取ると、不思議そうに見つめた。


テンニャン「こ、これが私専用の限界突破銃アルか?」

黒崎「君の本名、天仙娘々(てんせんにゃんにゃん)は、名前の通り、中国神話の女神“碧霞元君(へきかげんくん)”の同名の女神の生まれ変わりである、“希突起人類”の一人。君が一番最初に希のご両親が特定出来た一人だったよ。その銃は強烈な衝撃を生む弾丸を発射できる。その威力が激しすぎるので、出来れば対生き物に使わず、障害物に当て、他の皆のサポートに回ると効果的だ、とおっしゃっていたよ」


テンニャン「わかったアル! そういうのなら、大歓迎アル!」


 その言葉を聞いた銃は、所持者確認が終わり、ルシフェリオンに戻ったのでした。


***


黒崎「さて、最後は、ぬこみん、君だが、君の限界突破銃は少し違う。タイプが変化する」

ぬこみん「わ、私の?」


 そう言うと、ぬこみんは黒崎にルシフェリオンを手渡すと、黒崎はテーブルに銃を置き、アタッシュケースから真っ黒のマガジンを取り出すと、ルシフェリオンのマガジンと交換した。すると、真っ黒の煙が出現した後、全身真っ黒の“狙撃銃”が現れた。


ぬこみん「な…なんか、私のキャラと正反対のような…」


黒崎「これが君の限界突破銃、超音波狙撃銃“フォルティマレシオ”だ。名前の通り、狙撃銃、つまりスナイパーライフルだ」


 そういうとライフル銃をぬこみんに手渡した。


黒崎「君の本名、“猫目 音子(ねこめ ねこ)”は、音の神“フォノン”の生まれ変わりである“希突起人類”の一人。音波を凝縮した弾丸をライフル弾として射出できる銃が、君の“フォルティマレシオ”だ」


ぬこみん「わ、私、狙撃なんて、やってことないんだけど・・・・」

黒崎「ムーンライトガンにはスナイパーライフルの形態はない。ガーディアンフェザーも流石に狙撃されるのは嫌だったのだろう。だが、君の中に眠る“力”は、すぐに目覚めるはずだ。狙撃銃だから、これまでの立ち回りとは違うのは、わかるね?」


 その言葉に安心したのか、ぬこみんは力強く、その超音波狙撃銃“フォルティマレシオ”を手に取り、誓いの言葉をかけた。


ぬこみん「これで、皆を守ります!」


 この言葉により所持者確認が終わり、再びルシフェリオンに戻ったのでした。


***


黒崎「これで、俺の最初の仕事は終わった。では次のステップだ。『月光タワー』を突破し、デイライト居住エリアに“戻り”、ガーディアンフェザー本部を目差す!」

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