第14章 限界突破銃

(ムーンライト居住エリア内 “アラヤド地区” 飲み屋街周辺)



 珠河の店内でサヴァイバリングが展開されたわけではなかった。店先の路地~大通りまで入り組んだ地形がサヴァイバリングのバトルエリアとして展開したのだった。珠河店内の客は全員避難エリアに待避し、各自のスマホから、今回の“異例の対決”へのベットを済ませていた。こういう所は、本当にたくましいというか、なんというか…。


 ということで、1軒の飲み屋から、いつもの髭の男性実況、の今回の担当が出てきて、仕事を開始したのだった。


***


髭の男性実況「さーて、今日もやって来たぜ! 俺らの憩いの場『サヴァイバリング』だ! 今日の舞台は、おじさんのたまり場、飲み屋街の『アラヤド』だ! 今日も元気に行ってみよー!!」

飲み屋の客達「おい! ステロイド! 久々の高倍率バトルだ! 俺たちに儲けさせろよぉ!!!」


火野「ちょっと待て!!!!!!!!! これはノーカンだ! さっさとサヴァイバリングを閉じろ! システムハッキングが起こったんだぞ!」

髭の男性実況「それはだめです。どういう理由であれ、あなたの所属するガーディアンフェザーが許可したバトルです。ノーカンは認められません。それに、あの猛獣たちに襲われたいですか? それにあなたも手を出したら、統治に響くはずですが?」


 火野は周りを見渡した。そこには、今回のビッグバトルに大金をかけた“観客=猛獣”達が、全員目をぎらぎらさせて、火野を睨んでいた。


火野「う・・・・」


 青ざめて周りを見ていた火野は、いったん爆炎銃『アグネント』を懐に戻すと、襟を正した。


火野「・・・やむを得ない。今回の仕事の解決形式は、サヴァイバリングで相手を始末する事に変更する。だが、通常のサヴァイバリング敗北、つまり、ダークネス相手にやられて堕とされるとは意味が違う。俺は本気でこいつらを始末する。おまえら、文句ないな!?」


飲み屋の客達「んなこと、百も承知だ! 俺たちは儲けられれば、それでいいんだよ!」


髭の男性実況「ムーンライト側は暗黙の了解。観客とガーディアンフェザーは両者とも了承ということで、サヴァイバリングのリングコールをします」

火野「っったく、ツイてない日だ・・・・・・・・」


***


髭の男性実況「では、改めて。まずはガーディアンフェザーサイドぉ~! 熟練度・・・・・・・・不明、リングネーム、無し~、その名、『火野下愚土(ひの かぐつち)』~!」

観客「日頃の恨みだ! てめーは死ねや! ステロイド、頑張れよ!」

火野「・・・・聞かなかったことにしてやるが、まさかヒール役とはな。帰ったら厄払いでもしてもらうか」


 いつもと違う形式なので、多少戸惑いはあるものの、次からはいつもの通りなので、気を取り直して、“ステロイドのリングコール”がされたのだった。


髭の男性実況「次に、ムーンライトサイドの強い方~! 熟練度・・・・・うぉわ! 120万6000ポイント・・・・、リングネーム“おじさんガンナー”~、その名」


 ここでステロイドの方から、コレまでとは違うコメントを入れたのだった。


ステロイド「本名の方でいい」


髭の男性実況「は、はぁ。では! その名、田路 唐男(たじ からお)、こと、ステロイド!!!」

観客「マジ、頑張ってくれ! こんな倍率のバトル、おそらく最初で最後だ!」

ステロイド「ああ、頑張るよ。正真正銘、生死がかかっているからな」


髭の男性実況「つ、つぎ~! ムーンライトサイドの弱い方~! 熟練度1500ポイントぉ~、リングネーム“少し成長したよマスター”~、その名、『一 希』~!」


希「毎回思うが、そのリングネーム、一度も登録したことが無いのだが、誰が決めたんだ?」

髭の男性実況「さ、さぁ。データに入っていたもので…」


 そして、髭の男性実況は、オーバーアクションでゴングを鳴らした!


髭の男性実況「それでは、サヴァイバリング、Ready,Fight!」


***


火野「悪いが、観客ども。俺は見せ物をするために承諾したのではない。飲んだのは仕事のやり方をこれにする事だけだ。だから」


 チャキ


 火野は早速懐からアグネントを取り出すと、銃口に大きな火球を作り、希に向けた。


火野「さっさと終わらせて、事務所に帰る。ばからしい」


 ガチャ ガチャ


 今度はステロイドのルシフェリオン、希のベリッサも、銃口を火野に向けた。


ステロイド「悪いが、モードはダークネスの闇払いモードではない。俺のルシフェリオンの物理化学効果“衝撃波”モードに変更している」

希「俺も、“火球”モードにしている。おまえが火炎銃の使い手だから、効くかわからないけど、俺には今はこれしかない」


火野「いいか。ガーディアンフェザー幹部のデイライトガンの威力を舐めるなよ? ソレをよく知っているのは、おまえらの中では、武井の雷撃銃『トールメント』でカノジョを殺された“金なんとか”って奴だけだ」

希「ああ、1個前のサヴァイバリングで教えて貰ったよ。てっぺんに君臨している連中の割に、その理由が、女が自分を選ばなかったから、とか、最低レベルだったらしいがな」


 ゴォォォォォ


 火野のアグネントの銃口の火球が大きくなっていく。


火野「武井の性格はしらん。俺にはデイライトに、妻子も居るし、家もある。こんな下らん仕事、さっさと片付けて帰りたいんだよ。おまえらの戯れ言につきあってられん。会話はここまでだ」


ステロイド「俺も、クズとこれ以上会話したくねーわ」


 火野の人差し指がトリガーを引く!


火野「死ねや! 爆炎弾!」


 ゴォ!


ステロイド「正攻法とは言ってない!」


 バシュ!!!!


 ステロイドが衝撃波を発射して当てた物は、火野ではなかった。ここは立体的に入り組んだエリアでサヴァイバリング展開しているので、ぬこみんの時の敵のような“絡め手”も使えるのだ!


 ゴォォォォン!


 火野の横のビルの大型看板の留め具が、ステロイドの衝撃波で破壊され、看板そのものが火野の頭上に降ってきたのだった!


火野「な! 頭上だと!」

ステロイド「回避!」


 ステロイドは火野が発射した爆炎弾を、店の地形を巧く使って回避した。爆炎弾は壁に衝突し、壁を破壊して消えたのだった。


希「破壊力は半端でない。確かにステロイドの言うとおり、正攻法では勝てない!」


 火野は緊急処置として、アグネントの銃口を降ってくる看板に向け直し、爆炎弾を発射して、破壊する事で回避したのだった。


火野「くそぉぉ!!!!」

ステロイド「サヴァイバリングを選んで正解だった。俺たちの方が地の利はあるぜ?」

希「ああ、上でのさばってモニターばかり見ている連中と一緒にするなよな?」


 だが、火野の“デイライトガンの本領”はこれからだった。


火野「き・・・・きさまら・・・・・俺を本気に・・・・・もう、ムーンライトの統治の建前など・・・・・無視だ!!!!!!」


 ガシャコン! ガシン!


 なんと、火野のアグネントが変形して、5連装マシンガンに変貌した!


ステロイド「!!!」

希「な・・・なんだそれ!」


火野「きさまら・・・・・・観客も・・・・・・この地区も・・・・全部焼き尽くしてやる!!!!!!!!!」


 ゴォ! ボォ! ゴフォォ!! ブォ! ゴォ!


 爆炎弾が5発、5つの銃口に現れると、火野は回転しながら躊躇無しにトリガーを引いた!


火野「くたばりやがれ!」


 ガガガガガッガガガガッガガッガガガ!!!!!!


 無数の爆炎弾が火野を中心とした地区一帯に降り注いだ! 髭の男性実況は危険だったのでマンホールの下に待避し、待避が間に合わず逃げ遅れた観客は火炎をかぶり、そこら中のビルが炎に包まれ、一帯は“地獄絵図”と化した。


***


火野「はぁ・・・はぁ・・・ステロイドの野郎・・・旧式のやろう・・・消し炭になったかぁ?」


 ガラッ


 ステロイドの希がいた横の店の壁が崩れ、店の厨房の下に当たる場所から、ふらふらになってステロイドが希を抱えて出てきた。


火野「厨房の防火扉に逃げたか・・・・・旧式はショックで気絶、ステロイドはかばって重傷、けっ、死に損ないめ」

ステロイド「はぁ・・・はぁ・・・あれだけ撃てば・・・チャ・・チャージに時間がかかるだろうが・・・・」

火野「ああ、そうだな。だが、てめーは今、銃を撃てる状態ではねーな。いずれにしてもチャージ完了後の一発で終わりだ。それまで、死の恐怖に震えてろよ」

ステロイド「観客まで巻き沿いにしやがって・・・・・」


 その時、マンホールの蓋が開いて、下から髭の男性実況がぴょこっと顔出した。


髭の男性実況「えーーーー、もう大丈夫ですか?」

ステロイド「あ、ああ・・・くっ・・・・」


火野「ひっひゃっひゃぁ! チャージ完了まで、あと1分。そろそろ葬送曲でも流すか? え? ステロイドォ?」

ステロイド「ぬ・・・・さすがに・・・万事休すk」


 ビーーーーン!


 そのとき、高さがあったので火災を免れたビルの“液晶モニター”に、見知らぬ“女性”が映った。


映った女性「実況さん? 今の彼の行動は、戦闘勝利後の熟練度上昇に反映しますか?」


 髭の男性実況は驚いてしまった。こんな形で“システムに第3者が割って入る”と言うことはないのである。


髭の男性実況「は、はぁ。現在の倍率と戦闘難易度から考えて、おそらく勝利すれば、20万は軽く超える熟練度が、二人に入ることになりますが…それがなにか?」

映った女性「なら・・・・・それ、前借りします」

髭の男性実況「は?」


 その横でわなわな震えてモニターを見ていた火野が、遂に口を開いた!


火野「こ・・・・・この・・・・・・尼・・・・・ついに・・・・出てきたか・・・・・見つけたぞぉ! 一 文恵(にのまえ ふみえ)!!!!!!!!」


 だがモニターの文恵は無視して、ステロイドに目線を向けて、なにか伝えはじめた。


文恵「ステロイドさん、システムに手を加えました。あなたの熟練度に、前借りした熟練度、そして、新システム“限界突破”(リミットブレイク)の効果により、貴方に貴方の素性に基づいた『限界突破銃』の、“重破壊ガトリングガン『タヂカリオン』”を授けます。望は気絶しているので今は与えられません。その銃で、望を助けてください!」

ステロイド「あ、あんた・・・マスターの・・・お母さんですか?」

文恵「はい。今は別所からハッキングしているので、そろそろログアウトします。それとあなた、あなたはガーディアンフェザーが知らない『希突起人類』の一人、男神”タヂカラオ“の生まれ変わりです。だから故に、この限界突破銃を扱えます。あなただけの銃、大切にね。望を頼みます!」


 ビュン!


 液晶モニターは消え、そして、天井の“銃のレベルアップ”の時に使われるデータ発信装置から、一筋の光がステロイドのルシフェリオンに注がれ、そして、“厳ついハンディガトリングガン”=“重破壊ガトリングガン『タヂカリオン』”に変貌した。


火野「な・・・・・・・なんだそれ!!!!!! そんなシステム、我々は知らんぞ!!!!!!」


 ガチャ


 ステロイドは真剣な顔つきで、タヂカリオンを両手で構え、そして6連装の銃口をチャージで止まっている火野に向けた。


ステロイド「マスターのお母さん・・・・俺が・・・マスターを・・・・守ります・・・・」

火野「ま、まて! 俺には上にs」

ステロイド「おめーは俺の素性を知っているだろう。俺は十字架に貼り付けられるような、元ダークネスにして、ここの連中を何人も堕として這い上がった人間だ。そういう罪悪感、今更だな」


 ギューーーーーーーン!


 ガトリングガンである“タヂカリオン”のアクチュエーターが動きだし、6連装の砲身が回転をはじめた。


火野「ま・・・まて・・・逃げ場・・・・・・くそ! 爆炎弾で破壊されて自由に・・・」

ステロイド「てめーは、やり過ぎたんだよ・・・・もう一度“エネルギー”に変わって、草薙の所にでも戻れよ」


 カチャ


火野「な!!! なんで“俺たちの秘密”を知っている!!!!!」

ステロイド「じゃあな」


 ステロイドは引き金を引いた。タヂカリオンへ“闇の弾丸”が供給されはじめ、そして・・・・・。


 ガガガッガガガッガガガガガッガッガッガガガッッッガガガッガガ!


火野「がぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!!!!!!」


 火野の全身に闇の弾丸が撃ち込まれ、そして、ステロイドが言った通り、火野は“光の粒”に変わり、そして、“上のデイライト”へと登っていって、そして消えてしまった。


***


髭の男性実況「ひぃ・・・・・。ごほん・・・・。勝者ぁ~! ステロイド&希ぅ!!!!!」


観客「・・・・・」


髭の男性実況「あ、そっか。さっきの火災で全員病院行きだった。ま、いいか」


 髭の男性実況はリングコールを続けた。


髭の男性実況「お客様の払戻金、選手のファイトマネー等は、各自、クレジットに入れられます。相当額なので、後ほどちゃんとご確認を」

ステロイド「ふぅ・・・・勝てた・・・・・」

希「う・・・・・・痛たた」

ステロイド「マスター! 気づいたか!」

希「な、なにがどうなったんだ?」

ステロイド「・・・・マスターのお母さんが、助けてくれたよ。システムにまで干渉し、新システムまで構築して、俺にこれを授けてくれた」


 そういうと、希に“タヂカリオン”を見せた。


希「ど・・・どういうことだ?」

ステロイド「限界突破銃。本来は前のルシフェリオンが最高だったが、それの上を行くリミットブレイクしたガンナー専用の銃、それがこれd」


 その言葉と同時に、厳ついガトリングガンは、前のルシフェリオンに戻った。


ステロイド「そういうことか・・・。戦闘モードを外れると自動で、タヂカリオンからルシフェリオンに戻るのか。それなら怪しまれないな」


希「か、母さんは!?」

ステロイド「液晶モニター越しだが、元気そうだったよ。向こうで色々活躍してくれているらしい」


髭の男性実況「えっと、いいですか? 今回の戦闘で得た熟練度は“前借り”という特別ルールで既に入ってます。ので、その効果はステロイドは既に終了済み。希さん、貴方は、熟練度20万越えなので、数段階の飛び越しレベルアップにより、希選手の『ベリッサ』は、Level 10の“精霊銃『アルダーP38』”へと変化します。希選手、ご確認ください」


希「え!?」


 希が手持ちの銃を見ると、今までの“真紅の銃”から、4つの色と真っ白の羽根があしらわれたスマートな銃へと変貌していたのだった。


髭の男性実況「おめでとうございます。これで初級銃から卒業して、一気に上級銃の仲間入りです」

希「い、いきなり!?」

髭の男性実況「ガーディアンフェザーとの戦闘は想定外ですが、データ上ではそうなりますね。それでは、またのサヴァイバリングまで、See You Again!」


 そういうと、サヴァイバリングが収納され、普通の街へと戻っていった。


希「母さん・・・・・・ありがとう・・・・・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る