第11章 師匠との約束
2回目のサヴァイバリングの日に買ってきたムーンライトエリア限定の格安スマホにより、俺の情報網は一気に増え、且つ、これまでサヴァイバリングの発動は仲間にやってもらっていたのだが、自分でも出来るようになった。もしスマホが無かった時期に自分一人で遭遇した場合は、近くの人に頼んで発動してもらう事になっていたが、仲間の計らいでそういう事がないように、サヴァイバリングになりそうな場所への移動は仲間が必ず随行してくれていたのだ。
兎にも角にも、これでスタッフとの行動がなくても、一人でサヴァイバリング出来る理由は出来たので、今後はより気をつけるべきだと気を引き締めたのだった。
そして、数日経ったある日、その日の午前のカフェタイムの営業が終わり、勉強も兼ねて、その日の午後~夕方からのバータイム迄の“仕込みの時間”は、テンニャンの厨房で料理の勉強の視学を受けることになった。当然“視”学なのだから、邪魔せずに見て覚えるのがメインだった。
***
(ムーンライト居住エリア内 カフェバー『vona(ヴォーナ)』 厨房)
コネコネコネ カチャカチャカチャ! ブォー! ダンダンダン!
テンニャンは、“餃子の仕込み”、“調理に必要な野菜や肉の仕込みや下味付け”、“作り置き出来るサイドメニューの調理”をメインに忙しそうに調理を進めていた。
当然だが視学なので、俺は見ているだけ。というか、忙しい故に俺が口を挟める場合では無かったのだ。
テンニャン「マスター、ごめんアル! ちょーーーっと忙しいアルから、もちょっと待つアル!」
希「あ、あの、俺で何か出来ることあるかな? 喫茶店マスター修行中に調理師免許は取得済みなんだけど…」
テンニャン「んじゃ、遠慮無く頼むアル! この野菜ざく切りで、この挽肉は塩コショウラー油で下味付けて、お豆腐はさいの目に切ってこのタッパーに入れて、それからそれから…」
希「わ、わかった。すぐに取りかかる」
こうして“基本的な調理”のみ希が担当し、二人で忙しく仕込みを終わらせたのだった。
***
テンニャン「ふぅ~、マスター、謝謝アルよ♪ 予定より30分早く終わったアル! プーアル茶でも飲んで一休みするアルよ♪♪」
希は久々に“地獄のランチタイム”を思い出して、大分、体がデイライトの時のキレを取り戻した感じだった。
そう、この地獄の忙しさこそ、自分の生活の神髄、だ。そうしみじみ思ったのだった。
希「そうするよ、バータイムでもコーヒー出すしね」
***
二人、お茶中・・・・・
ずずず…
テンニャン「いや~、助かったアル! いつも一人でやってるから、バータイムまでに間に合わせないといけないアルから、とっても忙しいアルよ」
希「その気持ち、よくわかるよ。俺の前の職場でも、ランチタイム終わるまでは大戦争だからね」
テンニャン「マスターの前の喫茶店でも、厨房はマスターだけだったアルか?」
希「そだよ。あのおん・・・・ウェイトレスは、ここと同じでぬこみんと同じ役割だからね」
テンニャン「やっぱり、午前中の仕込みは大変だったアルか?」
希「いや~、さっきのお手伝いの具合から考えても、うちの方はまだまだ全然平気だったよ。こっちは、中華メインとはいえ、一人でこれだけこなすための仕込みとか、大変すぎるよ! もう一人くらい、調理担当増やした方がいいよ、絶対! 黒服に頼んでみたら? こっちに来る予定の誰か回して貰えれば…」
テンニャン「・・・・それはだめアル。師匠との約束があるから…」
希「師匠?」
テンニャン「私の・・・この厨房の前の料理人だった人アル」
希は不思議に思った。“師匠”と呼んでいたということは・・・・。
希「え!? って事は、テンニャンが来た時点から、この厨房を任されていたのは二人だったの?」
テンニャン「そうアル。私の師匠、『碧霞元君(へきかげんくん)』、ニックネーム『ヘッキー師匠』、は、それはもう、凄い女性だったアル。まさしく“神の料理人”だったアル!」
希は冷や汗が出た。『ヘッキー師匠』って…。
希「ヘ、『ヘッキー師匠』!?」
テンニャンは珍しく目を皿にして冷や汗をかいて赤くなった。そして取り乱したように“付け加え”た。
テンニャン「この呼び名は、師匠の方から“こう呼んで“って言われたから使ってたアル!」
更にテンニャンはまくし立てて、説明を続けた。
テンニャン「最初、『碧霞(へきか)師匠』って呼んだら、”だめだめだめ! もっと、こう、フランクに行こうよ! そうだな~、そうだ! 『ヘッキー師匠』、で行こう! そうしよう!“、って言われたアルから・・・・・・・」
希は、久々に“ホッコリ”して、優しく微笑んだ。
希「いい師匠だね」
テンニャン「そうアル! 世界最高の師匠・・・・・・・」
だが、ここでテンニャンの顔色が曇ってしまった。
テンニャン「・・・・だったアル・・・・・」
希はまた“しまった!”と思った。ここのスタッフには、全員“影がある”のをすっかり忘れていたのだ。
前に二人がここにいて、今、テンニャン一人、ということは、師匠はつまり・・・・。
テンニャン「師匠、随分前に、ダークネスの襲撃で、ダークネスに落とされちゃったアル。別れ際に、“ここの厨房を頼む!”、って・・・・だから、その約束があるから、ここの厨房に、他から来たお手伝いは、入れられないアル。師匠の死体はまだ見てないアルから、まだ、師匠はここの担当アル。ちょっと遠い所に“お使い”に出ているだけアル。だから、“留守”の間は、この厨房は、私が一人で守らないといけないアル!」
希は反射的に、テンニャンを抱きしめてしまった! そして背中越しに頭をなでて、こうささやいた。
希「テンニャン、一人で抱え込まないで。キミも俺を麻婆豆腐と銃撃で助けてくれただろ? 俺も出来る範囲でキミを助ける! 今回みたいに仕込みの手伝いも出来る。だって、他を入れたくないって厨房に、お手伝いで俺を入れてくれただろ? だから、この厨房の3人目の担当に、俺を入れてくれないか?」
テンニャンは、声を出さずに、ほろほろと泣き出してしまった。どうやら、“相当やせ我慢していた”、のだろう。
テンニャン「・・・・・ありがとアル・・・・・3人目のコックさん、お願いアル・・・・」
希「こちらこそ、ありがと♪ 今後とも、よろしくアル♪」
テンニャン「マスター・・・ぬこみんの事があっても、いいアルか?」
希「これは、仲間の相談の一環だよ。だって、俺は一応、マスターだからね♪」
テンニャンは振り返って、今度は逆にマスターに抱きついた!
テンニャン「マスター! 我喜歡アル!」
希「え!?」
テンニャンとの“絆”がよりいっそう深まった。と、同時に、ぬこみんに続いて“2つめの恋愛フラグ”が立った、そんな気がしたテンニャンとのお茶タイムだった。
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