第10章 雷撃銃『トールメント』

 それから6日が経ち、ぬこみんの足も治り、vonaの営業は通常通りに戻った。俺としてはリキュールのウェイトレス姿には少し未練があったが、それよりぬこみんの足が完治し、コレまで通りにウェイトレスとして一緒に働ける方に重きを置いたのだった。


 今日は休日。俺はリキュールの話の事もあり、買い物ついでに街の散策と、やはり熟練度を上げるための“サヴァイバリング”に挑戦する事にした。もっと熟さないとダメだと反省したからだ。せっかくぬこみんと勝ち取った真紅の銃『ベリッサ』の活用範囲を“地下の練習場”のみで狭めるのはいけないと思ったのだ。


 今日はサヴァイバリング初戦の街“ザギーン”ではなく、電気街“アキーバ”にした。黒服がボディバッグに入れてきた“電気系所持品”が余りに少なく、これまではスタッフに借りていたのだ。


 おそらく“デイライトの電気系物品”は武器に転用できる、と判断したからだろうが、それにしては持ってきた物が、シェーバーと腕時計とは、いくら何でも酷すぎる。“情報を入手できる系アイテム”は根こそぎ没収されてしまったし、こちらで売っている物をこちらで入手しないと、話にならなかったのだ。


 今回の案内役は、スイートだった。ぬこみんは用心のためvonaに残してきたし、他のスタッフも全員用事があったのだ。スイート自身も電気製品を見に行く用事があったので、ちょうど良かった、と本人も快諾してくれたのだ。


***


(ムーンライト居住エリア内 電気街『アキーバ』 大通り)


売り子の女の子「今日はいいSSD、入ってますよ~♪ 大売り出しですよ~♪」

スピーカー「今日も売ります! 買わせます! よってらっしゃい みてらっしゃい!」

コスプレ女の子「にゅふ~ん♪ 今日は、“ねこねこぷれーとぱんけーき”、がお薦めですよ~♪ 来てね~♪♪」


希「・・・・ま、なんだ。名前から何となく想像出来たけど、こっちの世界も電気街は、こんな感じなのね・・・・・・・」

スイート「デイライトでも同じだったから言うまでも無いが、こっちもあっちも、ここは“物欲の街”だ。ブレずに値段と自分の必要な物だけ頭に入れて、それだけ買って帰ります。いいね?」

希「ああ。しかし、こっちも、まぁ、やるねぇ~」

スイート「こっちはデイライトの条件に“生存競争”が加わり、それでなくてもガス抜きが必要だ。こっちのこういうのは、デイライトより“必要故の存在”なのかもしれんぞ?」

希「そうだな…」


 だが、“希の来たもう1つの用件“が、買い物より先に来てしまった。怪しい男が大通りの彼らの進路を塞いだのだった。


軍隊風の男「じゃーーーーん! ぐんたいへいし があらわれた!」

スイート「あちゃ~、買い物前とは、ある意味ツイてない…。マスター、サヴァイバリングだ」

希「え!? こんなのデイライトのあそこじゃ、日常茶飯事じゃないのか?」

スイート「こっちでも“ある物”が無ければ、単なる“コスプレ男”なんだがな…」

軍隊風の男「これかぁ!? これかぁ!?」


 そう言うと、男は右手の“白い銃”と、左手の“バックラー”を見せびらかした。


スイート「バックラーはどうせ盗品だろうが、それよりどうして“ダークネス”のおまえが、『デイライトガン』を持っている!?」

軍隊風の男「ひゃひゃひゃ! ざーんねん! どっちも“ある男”からプレゼントして貰ったのさ!」

スイート「禁則事項で、おまえら“ダークネス”は銃の所持を禁じられている。更にムーンライト居住エリアの住人は携帯できず、更に我々に影響を与えられる唯一の銃である“デイライトガン”を、“デイライト”の人間が、デイライト製の盾付きで、おまえらに渡す、ということは、出所がわかった時点で“デイライトの当事者”もただでは済まない事になる」

軍隊風の男「しらねーよ、んなこと! くれたんだから、いーーーーじゃねーか! “おまえら”をやっつけろ、それがプレゼントの条件だったからな!」

スイート「なにぃ!? “おまえら”のターゲット指定だと!?」

軍隊風の男「おまえは用心棒だから、こういう銃が必要だとか言ってた。ターゲットは、そこの冴えない喫茶店マスターみたいなヤローだよ!」

希「お、おれ!?」

スイート「・・・・軍隊男、おまえ、“戦い慣れ“、してないだろ。ベラベラと重要な事を教えてくれて感謝する。お礼に良い事を教えてやる。おまえ、”体の良い鉄砲玉“に使われただけだ。それと、俺らの今の素性は、渡した男もおまえも、もう少し調べておくことだったな」

軍隊風の男「なにぃ!?」


 スイートは1つ咳払いをすると、少し眉間にしわを寄せて、説明し出した。


スイート「その『デイライトガン』、詳しくは、“雷撃銃『トールメント』”の持ち主は、ガーディアンフェザー幹部、発電事業部部長の『武井 三日土(たけい みかづち)』の専用銃・・・・のコピー品だろうな。本物の銃はな、俺の・・・・俺の大事な人を殺した銃だ!」


希、軍隊風の男「えぇっ!!!!!」


スイート「詳しい話は、後で希にだけ話す。こんな馬の骨に話してやるほど、“レベルの低い”話では無い!」


 ピッ!


 スイートはスマホの“あのボタンアイコン”をクリックすると、ここでも“サヴァイバリング”が発動し、近くの喫茶店でお茶をしていた“髭の男性実況”がマイクを持って中央に颯爽と現れた!


***


髭の男性実況「ひゃほぉ~、今日もやってきたぜ! お楽しみの『サヴァイバリング』だ! 今日の舞台は、オタクの聖地、電気街の『アキーバ』、だぜ! サイコーにCoolだぜぇ!」

買い物客の観客達「ひゃほぉ!」


 希はまた呆気にとられていた。なんか前の“髭の男性実況”と感じが違ったからだ。


希「あのさ、スイート、ちょっと訊いて良いか?」

スイート「わかってる、実況の事だろ? あれは“全員家族親戚”らしい…。あちらこちらの要所にいると聞いている」

希「なんか、随分違うというか…」

スイート「その担当場所になじむ、と話に聞いている。まぁ、どうせ実況だ。気にしない気にしない」

希「そ、そうだな、それよりサヴァイバリングだ…」


 髭の男性実況は実況モードで姿勢を正すと、蝶ネクタイと襟も正し、“リングコール”を始めた!


髭の男性実況「そんじゃ、いくぜ! まずはダークネスサイドぉ~! 熟練度5265ポイントぉ~、リングネーム“電気街のダークストーカー”~、その名、『尾宅 軽斗(以下、カルト)』~!」


カルト「ひゃっっはぁ~!!!! 汚物はショードクだぜぇ~♪」


スイート「約5000ポイントか。カスだな。だが、デイライトガンの射撃だけなら熟練度はほぼ関係ない。今回の問題は、ヤツではなく、デイライトガンの火力だ。マスター、気をつけてくれ」

希「了解だ。初戦でダークネスとのサヴァイバリングの怖さはよくわかっている」


 次に、髭の男性実況は、スイートを指さした。


髭の男性実況「次に、ムーンライトサイドの強い方~! 熟練度・・・・・えっ? 80万5968ポイント・・・・、リングネーム“スイートエモーション”~、その名」


 この時点でぬこみんの時と同じように、スイートは厳しい目つきで髭の男性実況を睨み付けた。どうやら、ぬこみんとは違って“本名”を言われる事を、スイートはことごとく嫌っているようだった。


髭の男性実況「そ、その名、スイート!」


 多少狼狽えていたが、次に、“希のリングコール”がされたのだった。


髭の男性実況「つ、つぎ~! ムーンライトサイドの弱い方~! 熟練度・・・・・・・・・えー、そりゃないわ~、たった500ポイントぉ~(汗)、リングネーム“初級者マスター”~、その名、『一 希』~!」


希「リングネームなんて、まだ登録してないのに、また勝手に付けて…。まぁ“駈け出し”から“初級者”に格上げされたらしいしいいか。これもこの“ベリッサ”のおかげか…」


 そして、髭の男性実況は、オーバーアクションでゴングを鳴らした!


髭の男性実況「それでは、サヴァイバリング、Ready,Fight!」


***


スイート「ヤツのデイライトガン“雷撃銃『トールメント』”は、はっきり言って厄介だ。所持者の腕が低くても、ハーフホーミングで“金属”に着弾する。着弾は生身ではないから、デイライトガン特有の“ムーンライトの人間へ唯一ダメージを与える、そのダメージ”は、1回は軽微だが、連続で喰らうと、文字通り“感電”、する」

希「わ、わかった・・・・・・も、もしかして・・・・・スイートのカノジョ、この銃の本物のヤツの所有者に・・・・」

スイート「ああ。見ている前で・・・・・“武井”に感電死させられたよ。ムーンライトの俺を選んで、そいつを選ばなかった、その“見せしめ“としてな」

希「す・・・・・すまん・・・・・」

スイート「積もる話は、あとで店で甘味でも食べながら話す。トールメントの威力は以上だ。だから、“腕の無いヤツ”と、“金属着弾”から作戦を立てる。マスター、財布を手に持って、持っている“コイン”を1枚ずつ、後方に放り投げながら、とにかく障害物に隠れて逃げてくれ。俺も分散して逃げる」

希「コイン?」

スイート「ここのコインは金属片だ。近くに金属を投げ落とせば“避雷針”になってくれる。ムーンライトガンでの狙撃は、障害物とトールメントの雷撃の合間に行う。正直、面と向かって“アレ”とやり合う気は無い」

希「りょーかい!」


 そういうと、二人とも、コインを後方に投げながら、希だけは一応のために“ベリッサ”の火炎弾を撃ってけん制しながら、サヴァイバリング・アキーバの複雑な“路地”に逃げ込んだ。今度はぬこみんの時のような事はなかった。


カルト「ひゃっっはぁ~!!!! 撃つぜ! 撃つぜ!」


 バビビビビビビ!!!!! バビビビビビビ!!!! バシュン! バシュン!


 もう、それは“ガンナー”の撃ち方ではなかった。”下手なプレイヤーがやっているガンシューティング”のごとく、二人のうち”希”の方角に、めちゃくちゃな連射で雷撃を行っているだけだった。


 しかし、スイートの言った意味を希は逃げながら痛感することになった。


 ある程度ホーミングするのである


 後方に投げたコインに必ず着弾してくれるのは、スイートの作戦通りなのだが、コインがなく、希もいなかったときの“主雷撃”の軌跡は、もう、明後日の方向なのである。その明後日の方向に行くはずの主雷撃が、コイン側に考えられないような“ホーミング”をして、コインに落ちているのである。これが、“雷撃銃『トールメント』”の本当の恐ろしさなのだろう。


 おそらく、スイートのカノジョはスイートの指示方向に逃げたはず。だが、スイートが考えてもいないような“ホーミング”をして・・・・。


***


希「ちっ、コイン枚数が少ない! 両替しておけば良かった! サヴァイバリングじゃ店が使えないし・・・・」


 雷撃はめちゃくちゃで、かつ、カルトもじわりじわりと“希の方”に向かってきていた。


希「幾ら“依頼されたターゲットが俺”だからって、これじゃスイートの事、丸投げ・・・・あ」


 希は気づいたのである。やはり、相手は“ガンナーとして、ど素人同然”だったのである。


希「(OK!)」

スイート「(ロック!)」


 バシュ!


 スイートはアキーバの複雑な地形を熟知していたのである。サヴァイバリングとなっても、障害物と地形はそのまま残されるので、元の地形を知っていれば、なんなく、


 回り込める


 のだった。


 だが、相手の持っていたのは、デイライトガン、だけではなかった。


 カーン!


カルト「ひゃっはぁ~! 背後を取られてもなぁ、ガーディアンフェザー謹製の“自動追尾シールド『オートバックラー』様で、守られているのよ、ひゃっっはぁ! あ?」


スイート「내려 찍기!」(ネリチャギ!)


 ズドン!!


 カルトの頭上に、スイートの“武術『テコンドー』のかかと落とし=ネリチャギ”が決まったのだ。スイートは“2手目”を読んでいた故に、銃撃してすぐにダッシュしてカルトの側まで近づいていたのだ。


 だが、それより希がわからなかったのは、隣国の“ちゃんとしたハングル発音”で、“ネリチャギ”と叫んだ事だった。もしかして、スイートの“出身国”って・・・・・。


カルト「젠장! 아픈 아닌가!」(畜生! 痛いじゃないか!)

スイート「문답 무용이다!」(問答無用だ!)


 もはや、希には、未知の世界のやりとりだった。


カルト「혹시, 너는 그 전설의 격투가의 김 ...」(もしかして、おまえは、あの伝説の格闘家の、金…)

スイート「지옥에 떨어져 라!」(地獄に落ちろ!)


 バシュ! バシュ! バシュ! バシュ!


カルト「うごぁぁぁ・・・・・・・・・」


 カルトは、ルシフェリオンの“連射の接射”をぶち込まれ、最後は日本語の断末魔をあげて、粒子に変わり、そして、武井からの譲り受け物のデイライトガン“雷撃銃『トールメント』”のコピー一丁、同じく『オートバックラー』1枚だけが地面に残り、消えていったのだった。


***


 スイートの近くまで来た希は、パチンと指を鳴らした。“ガーディアンフェザー”に近づける“良い材料”がゲット出来た、と思ったのだ。


希「やったぜ! こいつをvonaに持って帰って解析すれb」

スイート「あの武井が、“保険”をかけていない、はずがないだろ?」


 ドロォ・・・・・シューーーーン


 コピー銃も盾もどろどろに溶けて、そして粒子に変わって、ダークネスのように消え去ってしまったのだった。


希「うっわ・・・」

スイート「まぁ、いい。とりあえず、髭! 結果を頼む!」


 そういうと、髭の男性実況は、サヴァイバリングの中央に戻ってきて、仕事に戻った。


髭の男性実況「勝者ぁ~! スイート&希ぅ!!!!!」


観客「わぁぁぁあぁあぁぁあぁ!!!!!」


髭の男性実況「オーディエンスの払戻金、選手のファイトマネー等は、各自、クレジットに入れられます。あとで確認、ヨロシク!」


希「と、とりあえず勝てて良かった」

スイート「今回は俺だけ活躍だから、マスターの銃の昇格は流石に無しだな。それと、気になる事が1つわかったよ」

希「え?」

スイート「マスター、あなた、ガーディアンフェザーにまで狙われているよ」

希「なっ・・・・・」

スイート「おかしいと思ったよ。vonaへの暴漢は、俺たち全員狙うわけだけど、ここ2回はマスターがニューフェースである事を知った上での集中攻撃だ。しかも、サヴァイバリングのターゲット指示にしても、ガーディアンフェザー謹製の物品の装備にしても、“奴らが絡んでいるダークネス”の存在が最近多すぎる」

希「やっぱ・・・・俺のver.2.0の邪魔なのか、俺が・・・」

スイート「その、ver.2.0のクズ野郎をぶっつぶせば、いいのではないですか、マスター?」

希「スイート・・・」

スイート「ムーンライトの全員が、こんな理不尽システム、本心では納得してませんよ? だが、ガーディアンフェザーの威圧はレベルが違う。だから抵抗するのをやめたのが、あの観客達で、ムーンライトガンの腕を上げる事で、希望を失わないように頑張っているのが、俺たちだ。そうだよね?」

希「・・・ありがとう」

スイート「では、買い物を続けよう。クレジットにもそれ相応の金も追加されているはずだ。少し良いスペックの商品も買えるでしょう♪」


髭の男性実況「それでは、またのサヴァイバリングまで、See You Again!」


 そういうと、サヴァイバリングが収納され、普通の街へと戻っていった。


 スイートとの“絆”が更に深まった、そんな気がした2回目のサヴァイバリングだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る