第8章 真紅の銃『ベリッサ』

 サヴァイバリングが展開されることで、そこは“対戦型バトルフィールド”と化すため、今までの“ガチ戦闘”とは趣向が変わるのだった。つまり、“歓楽”、の要素が追加される。“ガチ戦闘が街で展開される事から来るムーンライト側住民の緊張を和らげるためのガーディアンフェザー側の逃げ道”でもあるのだ。


髭の男性実況「さぁ~、今日もやって参りました、毎度おなじみ『サヴァイバリング』! 今日の舞台は、ショッピング街の『ザギーン』、でございます! 皆さん、宜しく!」

観客達「ぉおおおおお!!!!!」

観客A「おぃ! その新米ガンナー! ダークネスなんかに負けるなよ! カノジョに良いとこ見せたれ! おまえ側に1万ゴールド、張ってるんだからな!」

観客B「ダークネス! おまえに2万張った! そんなへなちょこ! ダークネスに堕としたれ!」


 希は正直、呆気にとられていた。


希「な・・・・・・なんだこれは・・・・・」

ぬこみん「これが、“サヴァイバリング”、のもう1つの側面、“賭け試合”、よ」

希「だ、だって、ここのバトルは“生き残り“なんだろ!? こんな賭け試合の駒なんかに、して良いのか?」

ぬこみん「マスター。“常に生き死にがかかって生活している事を意識していた”ら、人間どうなると思う?」

希「えぇ!? そ、そりゃ、神経どうにかなる・・・・・って、これ、まさか、『ガス抜き』!?」


ぬこみん「デイライトはともかく、堕とされたムーンライトの住民の“沈静化”、そしてダークネスの“統治”って、難しいのよ。だから、ガーディアンフェザーは考えたの。そういう側面を“娯楽”にしてしまって、公営の賭け事、にしてしまえば、ムーンライト側のガス抜き、ダークネスへの“出世の機会を与えて抑えておく”、そう出来るって」

希「生き死にまで娯楽に!?」


ぬこみん「ムーンライト居住エリアの掟は、言わなくてもわかるよね? それと私たちにも“報酬”をくれるの。『ガンナー熟練度』と『ゴールド』って物を」

希「つ・・・つまり、『経験値』と『お金』・・・・か?」

ぬこみん「そう。私たちを管理するガーディアンフェザー側のPCに蓄積され、お金はマスターや私のクレジットカードへ入金され、『ガンナー熟練度』は戦闘の“味”の具合で変化してPCのデータベースに入力され、それが一定値まで貯まると、手持ちのムーンライトガンが変化するの」


希「き、キミの“ルシフェリオン”がその“戦いの歴史”の結果なのか?」

ぬこみん「相当の手練れでないと持てないムーンライトガン、よ?」

希「お、俺の“コボルダー”も変化、するのか?」

ぬこみん「マスター次第よ。あんまり、ヘタレで私にばかり頼る戦いしかしなければ、それなりの熟練度しか入手できないから、次回持ち越し。活躍すれば、もしかすると…」


希「地下の練習場でのアレは?」

ぬこみん「無論、少ないながらも積算されているわ。でもそれだけではだめ。だから、観客の賭け事で入手できるお金も、自分達がサヴァイバリングに遭遇した時に勝って入手できる大きな見返りも、全部、『ガス抜き』の要素なのよ」


希「や・・・・やってみせる! ぬこみんも守らないと行けないし、それに、負けたらダークネス行きだしな!」

ぬこみん「その意気よ♪」


髭の男性実況「えーーーー、っと、そろそろ、いい?」

ぬこみん「ごめーん! リングコール、始めていいよ♪」


 髭の男性実況は蝶ネクタイと襟を正すと、プロレスのような“リングコール”を始めた!


髭の男性実況「それでは、行ってみよー! まずはダークネスサイドぉ~! 熟練度11580ポイントぉ~、リングネーム“地獄の処刑人”~、その名、『奈落 やいば』~!」


やいば「ぉぉおぉぉおおお!!!! やっちまうぜ! やっちまうぜ!」


ぬこみん「11580ポイントかぁ~、結構強いね~。マスターのサヴァイバリング初戦にしては、強敵かぁ~」

希「だ、大丈夫なのか?」

ぬこみん「まぁ、私がカバーするから、頑張ってみましょう」

希「頑張るよ」


 次に、髭の男性実況は、ぬこみんを指さした。


髭の男性実況「次に、ムーンライトサイドの強い方~! 熟練度・・・・・え? 50万1263ポイント・・・・、リングネーム“最強のウェイトレス”~、その名、『猫目 音子(ねこめ ねこ)』・・・・・・違った、『ぬこみん』~!」


 ぬこみんが、“本名”をコールされた時にリングアナウンサーを睨み付けた関係で、通り名に変更されたのだった。


希「ちょ・・・・・猫目って・・・・・」


 ぬこみんが髭の男性実況にリングコールを早くする睨みをきかせたので、こういう“具合の悪いツッコミ”を流して、さっさと“希のリングコール”がされたのだった。


髭の男性実況「つ、つぎ~!、ムーンライトサイドの弱い方~! 熟練度・・・・・・・・・ええ!? だった100ポイントぉ~(汗)、リングネーム“駈け出しマスター”~、その名、『一 希』~!」


希「俺のことはいいから、ってか、リングネームなんて決めた事無いってか、その、猫目って・・・・・」


 更にぬこみんはリングアナウンサーを睨み付けたので、さっさとゴングが鳴った!


髭の男性実況「それでは、サヴァイバリング、Ready,Fight!」


 カーン!


***


希「お、おい、その猫目って・・・」

ぬこみん「はい、それは後にして、バトルよ!」


やいば「おおおお!!!!!! こっちは銃無しの代わりにな! こういうの持ってるんだよ!!!!」


 やいばは、あの店に来た連中と同じく、デイライト側が持っていた“ムーンライトガン無効化盾=バックラー”、そして、打突以外にも障害物を破壊して飛礫を飛ばせる強力な“モーンニングスター”を持っていた!


ぬこみん「ち、またバックラーか。マスターは私の近くでコボルダーを連射! 私と行動を共にして、障害物を縫って移動!」

希「わ、わかった!」


 やはり“デイライト謹製の無効化盾=バックラー”は厄介なのか、まず、威嚇射撃をした上で、障害物に隠れて狙う、王道を行くことにしたのだ。だが…


やいば「しょーーーーがいぶつってのはな! ココにもあるんだぜぇ!!!!!」


 バゴンッッッ!!!!


 やいばは、モーニングスターを振り上げて振り下ろし、鎖の先の棘付き鉄球を思いっきり、『地面』にたたきつけた! 先ほど述べたように、“障害物の破砕による飛礫”も武器になるのだ!


 バシュバシュバシュ!!!!


 飛礫の一部がぬこみんを直撃した! 希は結果的にぬこみんが盾になっていた関係で無傷だった。


ぬこみん「痛!!!!!」


 バタッ!


 運が悪かった。地面からの低弾道飛礫だったため、“足首”を直撃していたのだ。痛みに耐えかねて、ぬこみんは移動中に地面に倒れ込んでしまった! 飛礫の攻撃だったので、このダメージは“ダークネス行き”とはならなかった。だが…


 じわじわ…


 やいばはモーニングスターをぶん回しながら、ぬこみんにじわじわ近づいてきた!


やいば「俺を甘く見ていたな? 銃所持を許可されない俺たち“ダークネス”にはな、それなりの“奥の手”っての、あるのよ~。おめーの今までの相手は、正攻法が多かったようだな。“勝つ奴”ってのは、この世界では、正攻法、じゃぁねーーーーんだよなぁ、へへへぇ~」


 ブンブン!


ぬこみん「く・・・・この距離では・・・・・」


 ブンブン!


やいば「さーて、経験値“50万”の見返り、期待してるぜ、ガーディアンフェザーさんよぉ♪」


ぬこみん「くそ・・・・・怪我した足で・・・・動けない・・・」


 ブンブンブン!


やいば「じゃあ! いくz」


 バシュン!!!!!


 やいばのモーニングスターに、ムーンライトガンの弾丸が1発当たった。破壊は出来なかったが、衝突音だけはした。


希「俺が・・・・・・俺が・・・・・」


 やいばは希の方に、はじめて目線を合わせた。そして、ニタッと笑った。


やいば「そーーーーいえば、いたな。そんな練習銃、ガン無視していたから忘れてた。今のは不覚だったが、無問題だな」


 バシュ! バシュ!


 弾は今度は一発も当たらなかった。


希「くそ! くそ!」

やいば「当たらなければどうということはねぇ。無視無視。んじゃ、このねーちゃんがダークネス行きになるのを、そこで見てな!」


 すると、ぬこみんは自分の銃“ルシフェリオン”を地面をスライドさせて希の方に投げた!


ぬこみん「その銃じゃだめ! これを使いなさい!」

希「だ、だって、力量が・・・・」

ぬこみん「いいから、使って!!!!!!」


やいば「ひひゃ! 奇策かぁ? 力量不足じゃ、もっと当たらねーべ!」


 希はルシフェリオンを拾うと、慣れない手つきで、やいばのモーニングスターに照準を合わせた! 何故か銃身を軽く感じた。


ぬこみん「いいから、信じて!」

希「撃つ!」


 その瞬間、希の人差し指がトリガーを引いた、と同時に、ぬこみんの右手の人差し指もトリガーを引く仕草をしたのだった!


 バシュ!!!! バゴン!!!!


 モーニングスターの棘付き鉄球は粉々に砕け、その衝撃でやいばは、バックラーを手放しながら、ぬこみん達の後方10mまで吹き飛んだのだった!


希「こ・・・これは・・・・」

ぬこみん「ルシフェリオンのスキル“遠隔射撃”よ。奇策にしか使えないけど、役になったわ」


 ぬこみんは近くに来た希からルシフェリオンを受け取ると、希と共に、やいばに照準を合わせた。


ぬこみん「一斉射撃よ。もう連射モードでメタ撃ちでいいわ」

希「オーケー!」


やいば「て・・・てめーら、汚ねーじゃねーか!」

ぬこみん「おまえが言うな! ロック!」

希「ロック!」

やいば「黙れ!!!!!」


ぬこみん、希「ファイヤーーーーー!!!!!!」


 バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!!!!!!!!


 もうそれは、厳密にはスナイプする、ではなかった。ぬこみんの弾はほぼ相手にヒットしていたが、希の弾は近くの障害物に当たるケースが多く、鬼弾銃の名前の通り、物理ダメージもあるのか、障害物を破壊して、飛礫がやいばに当たっていたケースもあった。


やいば「がぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 シューーーーーーーーン


 やいばは、ムーンライトガンの弾丸の複数着弾により、前と同じく粒子に変わり、闇払い(スイープ)され、ダークネスエリアに再び戻された。


髭の男性実況「勝者ぁ~! ぬこみん&希ぅ!!!!!」


観客「わぁぁぁあぁあぁぁあぁ!!!!!」


髭の男性実況「お客様の払戻金、選手のファイトマネー等は、各自、クレジットに入れられます。後ほどご確認を」

観客B「ちぇーーーー、強そうだと思ったのによー!」

観客A「やったぜ! これで今日は宅配ピザだ!」

ぬこみん「ふぅ~」

希「よ、良かった、勝てて…」


髭の男性実況「尚、今回の戦闘で得た熟練度によるレベルアップにより、希選手の『鬼弾銃=コボルダー』は、Level2の『真紅の銃=ベリッサ』へと変化します。希選手、ご確認ください」


希「え!?」


 希が手持ちの銃を見ると、今までの“ごつい意匠の青い銃=コボルダー”から、“スマートで格好いい真紅の銃=ベリッサ”へと変化していたのだった。


髭の男性実況「おめでとうございます。これで練習銃から卒業して、初級銃の仲間入りです」

希「そ、そんなに活躍したのか、俺?」

髭の男性実況「ガーディアンフェザーが、そう判断したのでしょう。それでは、またのサヴァイバリングまで、See You Again!」


 そういうと、サヴァイバリングが収納され、普通の街へと戻っていった。


***


ぬこみん「いたた。ごめんね、この足じゃ、一緒の買い物、無理だわ。お店はすぐこの先だから、一人で買い物してね。私は医者に寄って治療してから、タクシーでも拾って帰るわ」

希「お、俺が一緒に居た方が…」

ぬこみん「大丈夫。一応歩けるから。それに、治安部隊が到着したから、当分安全だし。マスターもゆっくり買い物を楽しんでよ」

希「ほんとに大丈夫なのか?」

ぬこみん「これでも、熟練度50万稼いだ私よ? 医者での治療さえあれば大丈夫! 明日のホールは様子は見るけど、それはリキュール達に連絡するわ」

希「無理、するなよ?」

ぬこみん「ありがと♪ マスターも楽しんでね。せっかくの休日だから」


 こうして俺は、ぬこみんをタクシーに乗せてから、すぐに近くの店で、ざざっと買い物を済ませると、ぬこみんが行った医者に駆けつけた。ぬこみんは、やっぱり喜んでくれた。俺に気を配ってくれたのだが、内心、心細かったのだろう。


 幸い問題無く、強力な湿布薬をはり、飲み薬を貰うと、一緒にタクシーで帰宅した。


 車中で、ぬこみんは、祝いの言葉をかけてくれた。


ぬこみん「Level2のベリッサへの昇格、おめでとう♪ 大事にしてね♪」


希「・・・ありがとう・・・」


 隣に座っていた俺は、ぬこみんの肩を抱くと、肩を寄せ合って、お互い目をつむって、到着までの短い時間を過ごしたのだった。

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