第5章 初戦
(AM11:00 ムーンライト居住エリア内 カフェバー『vona(ヴォーナ)』)
希は着替え&身支度をしながらゼリー飲料で朝食を済ませた後、カフェのバックヤードに行き、“カフェのマスター服”に着替えた後、ぬこみんに訊きながらも喫茶店マスターだったときの“染みついた技術”で、テキパキとコーヒーの準備をしていた。
一番安い“ブレンドコーヒー”だけは、すぐに客に提供できるように、あらかじめ大型コーヒーメーカーで作っておいて、保温出来る“コーヒーサーバー”に入れて、そこからカップに注ぐ事にしている。
だが通常のコーヒーは、全て、注文が来てから豆を用意し、ミルで挽き、“サイフォン”で煎れる事にしているので、確かに本格的だ。
ぬこみん「前のマスターがダークネスにやられて、あなたが来る迄の交代受け持ちだった頃はね、さすがに本格的なのは無理だから、そのブレンドコーヒーだけにしていたの。元のコーヒーも粉と全自動コーヒーメーカーで作るから、簡単だしね♪」
希「大変だったと思うよ。本格的な喫茶店でのコーヒーを煎れる技術って、修行しないと巧く出来ないからね。俺もこの“お客さんに出せる技術取得”だけで、結構時間かかったから」
ぬこみん「マスター、期待してますよ?」
希「うん、今はキッチンまで背伸びできないけど、俺の旨いコーヒーは、提供していくつもりだよ。おいおい、キッチンまで行けたら、“望名”で出していた評判のランチ、それも作るつもりだ」
そこでぬこみんは、“?”が頭の上に浮かんだので、訊いてみることにした。
ぬこみん「望名? って、マスターの前の店の店名?」
希「そうだよ。“アイスランド語”で『希望』を意味する“vona”って言葉から付けたんだ。ここの店名も、その“vona”だから、なんか、その、運命だよね」
ぬこみん「そうよね。うちの店名も、同じ出所で同じ意味で付けたからね? 希望、あるといいね?」
希「そうだね」
***
そのとき、観音開きの“入り口ドア”が、けたたましく開き、昨日やってきたような男、今度は3人が、ずかずか店内の入り口付近まで入ってきて、ぬこみんに向かって、まずは怒鳴って挨拶した。
男A「ウェイトレスちゃんよぉ、新店長、出せよ」
ぬこみん「店長を堕とした奴らか・・・・・」
男B「まーた点数稼ぎに、来てやったぜ! へへへ!」
ぬこみん「コーヒー、タダで飲ませるから、さっさと出て行け」
男C「俺っちらはな、安いコーヒーは飲まねーンだよ! こんなカフェで出す、安物なんて、まずくて飲めねーよ!」
カチャ
そのとき、とっさに希は、昨日テンニャンから預かった、練習用ムーンライトガン『コボルダー』を、男達に銃口を向けて構えた。
希「俺のコーヒーを、愚弄するなよ」
男A「あぁ~? 新店長、そいつかよ? 今度はまた前任者より、弱っちそうな奴だなぁ、おい?」
男B「今回の稼ぎは、楽勝みてーだなぁ、ひゃhy」
バシュ!
その男Bの声が終わる前に、希は男達に向かって、躊躇なく、コボルダーの引き金を引いていた。
希には昨日の光景を見ていて、いくつかわかったことがあった。
・鉛の銃弾ではない
・相手は同じ人間ではない
・躊躇すれば、こっちが堕とされる
・ここのスタッフでも、撃てる銃
・女性でも軽々使えるから、反動は少ない
だから故に、友人繋がりで、友人のエアガンを撃たせて貰った経験のある希は、昨日、空砲とはいえ、錯乱でも、初めての銃を乱射できたのだ。既に、撃つ経験のあった希だ、自分のコーヒーを馬鹿にした“人の姿をしていても人外の相手”、更に躊躇したら、“カフェ店内=自分の聖域“、を汚されかねない相手を思って、銃をためらう”意味“を感じなかったのだ。
別に鉛があって、相手が血しぶきを上げて死ぬのではない。元いた場所に返すだけだ。
だが、“本物の銃”、と、“数回しか試し撃ちしたことがないエアガン”では、やはり違う。コボルダーの“銃弾=白い弾丸状の何か”は、3人の男の中央の床に着弾し、弾痕を残しただけだった。
男A「ほぉ~、もう、ムーンライトガンを持たせて貰ったのかよ、練習銃みたいだがな」
男B「ここのスタッフが全員、手練れのガンナーなのは、前の店長ヤッた時に知ってるんだよ!」
男C「だからよ、デイライトの駐在の所から、ちょーっとかっぱらってあるのがあるのよ、ひゃひゃ!」
そういうと、全員が左腕に付けてある“防弾楯=バックラー”を、希達に見せつけた。
男A「おめーらの弾丸はよ、デイライト側の楯で無効化できる。ムーンライトのコンビニで立ち読みした雑誌に書いてあったのよ、これがな!」
カチャ
ぬこみんは無言で、ムーンライトガン=“ルシフェリオン“の銃口を男達に向けると、ドスの効いた声で、こう忠告した。
ぬこみん「なら、その楯以外の所を狙って撃てば、ジ・エンドじゃねーの?」
男B「俺たちの運動性能はよ、おめーらを堕とせば堕とすほど、上がるんだぜ。ここのテンチョー倒した後、俺っちら、すげー、強くなったのよ」
男C「だからよ、楯で銃弾防ぐスキルも、よ、身につけちまったのよ、ひゃひゃ!」
男A「だから、よ? 堕ちちまえよ、さっさとよ! 新人君! 猫娘!」
そういうと、男達はバックラーをかざして、一気に希達に襲いかかってきた。
ぬこみん「マスター、練習無しの“初戦”にゃ。前任者の弔い合戦でもあるにゃ、頑張るにゃ!」
***
相手は“楯装備の近接戦闘型”である事は一目瞭然であり、それは、ここのガンナー“ぬこみん”だけでなく、アクション映画やTVゲーム位は人並み程度は嗜んでいる希なのだから、さすがにわかることだ。
最初の一発をたたき込める“勇気”はあったし、元の喫茶店に入ってくる怖い連中への対応も教えて貰っていたのだから、すぐに“そういう状況”に置かれても、最低限の“応戦”くらいには、体が対応してくれた、そういう意味では“ラッキー”だった。
だが、アンラッキーなのは、元の喫茶店に入ってくる怖い人は、“殺し合い”、で来る方はごくまれだ。そして、今のこいつらは、“殺し合い”、で来ている。その差を、希はこれから知る事になる。
***
バシュ! バシュ!
希「当たれ! 当たれ!」
カウンターの中に入る時に使う、“跳ね上げ扉”、で防御しながら、とにかくこれ以上連中を近づけないために、弾幕を張ることにした。いくら楯で弾丸を防御していても、弾幕が濃ければ、そうそうは近づけないだろう、そう思ったからだ。
だが、相手は“ヤる”気で来ていたのだ。そして“非現実的なスキル”を使い、巧みに左腕の“バックラー”で弾丸を防御し、どんどん近づいてきていた。
ぬこみん、希の二人からの銃撃は、3人が分担してバックラーで防いでいたので、人数押しはあまり効果的ではなかった。
男A「はは! さすがは新米ガンナー、この程度の銃撃精度じゃぁ、楯で余裕なんだよ、なぁ、おい」
男B「むしろ猫娘の方を気をつけろ、この前の戦闘と、なんか、違うんだよなぁ」
男C「そりゃそうだろ、トーシロのマスターの援護射撃が中心で、その合間に、自分の銃撃もやらにゃいかんからn」
ガンッ!
二人の弾丸の軌跡では作られない“直線”を描いて、男Cの心臓部分が撃ち抜かれた。
男C「な・・・・・なんで・・・・・どこから・・・・飛んできt」
男B「おい! どうした! 二人なら目の前にいr」
バシュ!
今度はまた違う“方向”から、1発の弾丸が、男Bの頭部を撃ち抜いたのだった。
男B「ま・・・・まさか・・・・・こいつら・・・・最初から・・・二人で・・・・やるつもりは・・・」
男A「な・・・なにが起こっt」
バシュン! バシュン!
最後に男Aの胴体中央部を、2発の弾丸が貫通していき、そして“予期せぬ銃撃”は終わったのだった。
ぬこみん「あちしは、最初から“二人で撃ち合う初戦”とは、言ってないのにゃ」
希「!?」
ぬこみん「うちのスタッフは、このベルで、いつでも呼び出せるのにゃ」
そういうと、ぬこみんはお洒落な“スマホ”を取り出した。画面中央部には、“Emergency”と赤い文字で描かれた“押しボタン”のアイコンがあり、既にそれは押されていたのだった。
男C「こ・・・・・この前は・・・・・・」
リキュール「そりゃ、前回は“スタッフ全員”が、同時にエンカウントしたからね」
入り口のドアから姿を現したのは、ベルで呼び出され、様子を伺った上で時間差で銃撃した、リキュールだった。
1発目、心臓を撃ち抜いたのは、彼女の弾丸だった。
男B「お・・・おまえら・・・」
スイート「おまえらがレベルを上げてきても、こっちはその上を行くガンナーなんだけどな。前回は貴様らと“同時に入ってきた”前任マスターを不覚にも堕とされて、すぐに逃げられた。ろくに応戦できず、まさに醜態だったよ」
バックヤードから姿を現したのは、私服姿のスイートだった。同じくベルで呼び出された後、様子を伺った後に、適時で銃撃したのが、スイートだった。
2発目、頭部を撃ち抜いたのは、彼の弾丸だったのだ。
男A「き・・・・・貴様ら・・・・・それでも・・・・ガンナー・・・・かよ・・・・」
テンニャン「その台詞は、おまえらが言える台詞じゃないアルよ」
ステロイド「油断、大敵、怪我の、元」
裏口のドアから、テンニャンとステロイドが姿を現した。最後の男Aの胴体を撃ち抜いた2発の弾丸は、テンニャンとステロイドの物だった。
ぬこみん「おまえらの不運は、前と同じく、同時にエンカウント出来なかったこと、それとおまえらの不備は、スキルは鍛えられてもお脳を鍛えなかった事にゃ♪」
希と男達以外の全員「前任のマスターのカタキ、ちゃんと取ったぞ!!!!」
男達「ばかなぁあぁぁあぁぁぁ!!!!!!!」
シューーーーン!
男達は闇払い(スイープ)され、粒子に変わり、そして、消えてしまった。
ぬこみん「マスター、初戦突破、おめでとうにゃ!」
リキュール「言ったでしょ? ちゃんと助けるって♪」
スイート「今回は俺たちも関係する事だったからな。この後、個人で遭遇したら、自分だけで解決することもあるから、ガンナーの腕を鍛えておくように!」
ステロイド「鍛えて、やるぜ!」
テンニャン「頑張ろうアル♪」
希「は・・・・・はい・・・・・」
希はつくづく思った。この人達、めっちゃ、凄い・・・・・。
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