第3章 ムーンライト居住エリアの『掟』

(ムーンライト居住エリア内 カフェバー『vona(ヴォーナ)』)


リキュール「さて、黒服も帰ったし、今晩の営業は黒服から“臨時休業”って指示が出ていたし、新店長の自己紹介と歓迎会でもやるかね」

ぬこみん「いいねぇ、それ。んじゃ、新店長・・・・あ、まだ名前をちゃんと聞いてなかった。黒服、店長の事、“旧式”としか言わなかったからなぁ、もう、いくら“ムーンライト堕ち”したって言っても、言い方ってもんが…」


 ぬこみんはこの事については、不満があるようだった。だがスイートが冷静に制した。


スイート「仕方ないだろ、俺たちの時だって、黒服は“旧式”としか言わなかったんだから…」

ぬこみん「ご、ごめん…」


 話の軌道を戻すため、テンニャンが仕切った。


テンニャン「まぁいいアル。仕切り直して、準備するアル。料理は中華でいいアルか?」

リキュール「いいねぇ。デザートとスイーツは、テンニャンとスイートの半々で両方出してよ。両方食べたいから」

スイート「相変わらず、酒飲みなのに、甘い物好きだな。太るぞ?」

リキュール「ざーんねん♪ 私、“マーシャルアーツ”で鍛えてるから、食べた分、ちゃんと消化してるの、ふふ♪」

スイート「俺も、“テコンドー”で鍛えてるから、試食したスイーツで加わった炭水化物は、次の日はほぼ0だ」

ぬこみん「あちしも“カラテ”の修練は怠ってないよ? これでもウェイトレスだからね、プロポーションには気をつけてますよ♪」

テンニャン「私の“カンフー”は、太るの厳禁アル」


ステロイド「俺も、食べたい、炭水化物は、パワーになる」


 いつの間にか帰ってきていたステロイドも、話に加わっていた。希とステロイド以外のスタッフ全員が突っ込んだ。


 「あなたは、脂肪まで筋肉でしょ」


ステロイド「これでも、栄養学には、うるさいん、だぞ?」


 希以外の全員が笑って和やかになった。が、そろそろ希が我慢できなくなった。


希「あのさぁ!!!! さっきの麻婆豆腐は嬉しかったけど、なんで、そんなに明るいの!? 俺、拉致られたんだよ!!! それと俺の名前は、“一 希(にのまえ のぞむ)”だ! せめて“のぞむ”ってちゃんと名前で言ってよ!」


 スタッフ全員が、希を見つめた。半分は、名前の件は失礼だった、と思った“謝罪の目つき”だったが、半分は、そろそろ事態を教えないといけない、そう思った“冷静な目つき”だった。


ぬこみん「あのね、新店ちょ・・・・のぞむさん? あなた、拉致られたんじゃないよ? 堕とされたの…」

希「ふざけないでくれ! なんなんだよ! これ! 強制連行じゃないか!? 冗談じゃない!! 無理矢理でも帰るぞ! 俺! 何が“バージョンアップ”だよ! 何が“ムーンライト”だよ!」


リキュール「あんた、帰れないんだよ、もう」

スイート「俺たちもそうだったが、“バージョンアップ”版の自分が出来たら、俺たち“旧式”は、全部お払い箱にされて、『こっち』に堕とされる。デイライトとムーンライト、双方の世界を繋ぐ“システム”にはな、そういう『掟』があるんだよ。あきらめろ」


 ぬこみんが、少しでも優しい言葉で説明しようと、フォローを入れた。


ぬこみん「だからこそ、1秒でも明るく生活する方が、気が滅入らずに済むでしょ?」


 そしてステロイドの顔つきが変わった。


ステロイド「それに、その“掟”には、もう1つ、余計なモノが、追加で、付いてくる」


 その時、入り口のドアが蹴り破られ、スパイクロッドを持った、なんか世紀末な男が一人、乱入してきた!


乱入男「ひゃっはー! さっき、黒服の車、見たぜぇ、へへへ! 上から堕ちてきた、新入生、ここにいるんだろ、おい!」


 ステロイドは、真顔で、淡々と説明した。


ステロイド「ああいうのが、たまに、来る。町中でも、たまに遭遇する」

スイート「ムーンライトから更に堕ちた連中。ガーディアンフェザーから“人外”の判子を押された連中、『ダークネス』だ」


 乱入男は、店内を見渡しながら、ターゲットを見つけていた。


乱入男「ちょうどいい点数稼ぎだ! 少しでも貯めて、正式に“ムーンライト”に“昇る”んだよ! 俺はなぁ! ひゃっはー!」


 乱入男は、店内で自分以外で、“落ち着いてなく、取り乱しているニンゲン”を、めざとく見つけた。


 『希』である。


乱入男「こぉぉぉいつかぁぁぁ!!!! 弱いうちに、殺っちまうぜ!!!」


 乱入男が所謂“釘バット”である“スパイクロッド”を振りかぶって、希に襲ってきた!


希「う・・・うわぁああぁ!!!!!!!!」


 その襲うモーションの瞬間、リキュールが、全員に向けて、一言号令をかけた。


リキュール「やむなし、『ルシフェリオン』、の使用を許可する」

スイート、ぬこみん、テンニャン、ステロイド「了解!」


 そういうと、以前、黒服が懐から、変な銃“サタメント”を取り出して、躊躇無しで希を撃ったのと同じく、スタッフ全員も、同じく、リキュール→ベストの内ポケット、スイート→エプロンの前ポケット、テンニャン→高いコック帽の中、ぬこみん→エプロンの前ポケット、ステロイド→アームポーチ、から白い銃、『ムーンライトガン=闇払い銃=ルシフェリオン』、を各自取り出して、乱入男に向かって無駄のない動きで構えた。


リキュール「ショット!」


 そういうと、彼らもなんの迷いもなく、全員が男を撃ってしまった! 振り回していたスパイクロッドなど、なんの防御にもなっていなかった。


 だが別に、鉛の弾丸が出たわけではない。変な白い“空気”みたいなのが高速で射出され、全弾、男に命中した。


乱入男「うぉぉぁぁあ…、帰りたくねぇぇぇ、せっかく・・・・・監視の目を・・・・盗んで・・・・こっちに・・・・・・・・・・・」


 撃たれた男は、粒状の細かい粒子に変化し、そして、消えてしまった。


リキュール、スイート、テンニャン、ぬこみん、ステロイド「闇払い(スイープ)完了!」


 希は、もう、あっけにとられて、怒る気持ちすらなくなってしまった。


ステロイド「これが、もう1つの、掟、だ」

リキュール「ムーンライト側での生活以外で課せられた掟」

スイート「ダークネスから、自分で身を守る事」

ぬこみん「そのための武器が、この『ルシフェリオン』なんかの“ムーンライトガン”、にゃ♪」


 テンニャンは、預かっていた希用の同効果を持つ“練習銃”を、希の手に握らせた。


テンニャン「あなたには、まだ、『ルシフェリオン』は無理アルから、来た当時の私たち同様、この練習銃の“コボルダー”で頑張ってみるアル。バックアップは、私たちがやるアルから、安心するアル!」


 希はテンニャンのなされるがままに、その練習銃“コボルダー”を握った。この時点になって、ようやく、自分が置かれた“境遇”を実感し、恐怖がわき上がってきて


そして、“絶叫しながら乱射した”。


テンニャン「空砲にしてあるから、大丈夫アル。たぶん、こうなると思ったアルから…」

ぬこみん「“明るく生活”なんて言ったけど、ここのみんなも、来たときは、同じ感じだったんだにゃ」

リキュール「あーやっぱ、無理か。明るく攻めていこうと思ったんだけど…。今日の歓迎会、中止。3Fの部屋を用意してあげましょう」

スイート「ステロイド、何日で開き直れると思うか?」

ステロイド「どうやら、何も知らされずに、生活してきた、ようだ。1週間だったら、御の字だ」

リキュール「だめよ、カフェタイムのマスター、代わりがいないんだから、明朝、復活させるわ」

スイート「さ、さすが軍曹だな…」

リキュール「男はこういうとき、甘いからだめ! 私がやってあげる」

ステロイド「う、うむ…」


 これが、希のムーンライト居住エリアでの1日目だった…。

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