第3話 南の洞穴

「よいしょっ」


 ゾンゴンを引き抜こうとユーフォは足を思いっきり引っ張る。

 ゾンゴンはびくともしない。

 地面が少し隆起した。


「こらしょっ」


 怒っているリリーを宥めすかし説得して二人で引っ張る。

 ゾンゴンの体が少しだけだが動く。

 ミシミシっと地面に亀裂が入る。


「どっこいしょ」

 

 ポンッとゾンゴンが抜けた。

 土にまみれたその姿は、ゾンビ感を際立たせている。

 と同時に地面の亀裂が勢いよく拡がっていく。

 

「あ、やべえ、床が壊れ……」


 ユーフォがあわてて逃げようとして地面をけった。

 ゾンゴンを持ったままのその蹴りは、とても壊れかけの地面が耐えられるようなものではなくて。

 

 地面が崩落した。

 

 


「うーん……」

 

 リリーが目覚めたのは、ベットの中であった。

 寝ぼけ眼で辺りを見渡す。

 リリーがいる部屋は、ダークブラウンと黒でまとめたシックなインテリアの部屋であり、高級感のあるフローリングや色調をコーディネートした家具によって洗練された空間を演出していた。


「おや?お目覚めでござるか」


 子供のような背をして灰色の肌を持ち、頭が異様に大きくて、吊り上がった真っ黒で大きな目をした生き物がにこやかに話しかけてきた。

 魔物かと身構えたが、わざわざ敵をベットに寝かせる魔物なんていないだろうと思い返す。

 それにパーティ内には人間なんてリリーしかいない。

 死臭漂うゾンゴンに比べれば見た目が奇妙なだけでまだましである。


「あなたは一体……?」

「おおっと、まだ名乗っていなかったでござるな。吾輩の名前はグレイ、ここに住んでおるのでござるよ」 

「は、初めましてグレイさん。あたしの名前はリリーです。ここは一体どこなんです?地面が壊れておちちゃって。そこから記憶がなくて……」

「この家のすぐ近くに上から落ちてきたでござるよ。さすがに放っておけぬので介抱したが、一体なぜおちてきたでござるか?」

「いや、その、せ、戦闘中に地面に衝撃を与えたら地面が崩落しちゃって……」


 仲間を地面に突き刺して引っこ抜いたら崩落したなどと言える筈もなかった。

 グレイがリリーの細腕をじっと見る。 


「地面を崩落させるとは華奢な姿に見せて中々の怪力でござるな」

「いや、まあ鍛えてますから、ははっ」

「あっ、そういえば持っていた荷物をそこのテーブルにまとめて置いているでござるよ。そのまま寝ると腰を痛めてしまうでござるからな」

「色々とすいません。じゃあ、荷物の確認でもしようかな」

「何かあったらよぶでござるよ」


 そのままニコニコと部屋を出ていくグレイさんは怪しさを感じさせない。

 やはり、普通の人(?)であったようだ。

 荷物は弓と矢さえあれば別にいいと思っていたが、どうやら何も手を付けて無かったようである。

 リリーのグレイへの好感度はますますあがっていった。

 

 呪文を唱えることで大気の魔力を使い、特殊な射撃へと変える。

 鷹狩オンスロートと名付けられたその武骨な弓はリリーの唯一の宝である。

 家宝として受け継いでから苦難を共にしてきた故に、もはやただの武器ではなく相棒といっても過言ではなかった。

 ばらばらになったかつての仲間たち、そしてあまりに珍妙な今の仲間。

 なにもかも変わっていく中で、オンスロートに触れるたび変わらないものがある事を思い出す。

 そう、今の仲間は前とあまりに変わってしまい……。


「ユーフォとゾンゴンの事忘れてた……。まあ、あの二人なら大丈夫か。そうやすやすと死なないし」


 それは信頼というよりはあきれというべき思いだった。

 目を光らせて攻撃をものともせず突き進むユーフォや、肉体を飛び散らせながら前へ前へ進むゾンゴンは死を感じさせない。

 見ていると気の抜ける二人である。




「やべえ、このままじゃ……」


 斧を持った屍人がぼやく。

 その前には大きな石の巨人が仁王立ちしていた。

 うごく石像ゴーレムが屍人を睨みつけていたのである。

 まさしく絶体絶命の危機であった。




 リリーとグレイは和やかに談笑しながら、出口への道を進んでいた。

 ユーフォとゾンゴンを探しながらゆったり歩く。

 道中はラージジィムどころか魔物1匹出てこない。

 最初はその事に懐疑的だったリリーも魔物の気配すら感じないので、だんだん安心し会話を楽しんでいた。

 

「ギルドの酷いのなんのって、あいつら少しでも金をとろうとするんです。冒険者になるための試験代、冒険者になったときの登録代、毎月の会費、冒険者になり続けるための試験代、冒険者になり続けるための更新代、クエストを受けるための仲介料、緊急クエスト不参加時の罰金、挙句の果てにはクエストを紹介したギルド職員に対してチップも払わなきゃいけないんですよ。ほんっとしぼりとれるだけしぼりとろうとするんです」

「そりゃ、ひどいでござるな。大変でござろう」

「パーティの二人が不死身に近いからまだましですけどね。ここらへんの冒険者たちはある程度装備を整えたらどんどん違うところへいきますよ」

「ここらへんじゃ稼げないのでござるか?ラージジィムなら簡単にかれそうでござるが」

「ぜんっぜん」


 冒険者の話について食いつきのいいグレイに対して、饒舌に語っていたリリーは気づけば日頃の愚痴をボロボロとこぼしていた。

 聞き上手なグレイに乗せられ、たまっている鬱憤が次々と噴出していく。


 そうしてリリーがある程度すっきりしたころゴテゴテに粉飾された大きな扉が見えてきた。

 

「あれが出口へ繋がる扉でござるよ。中へ入ればいいでござる」

「出口なの?なんだか強い魔物がいそう」

「心配いらないでござるよ」

「ユーフォとゾンゴンがこの先にいるといいのだけれど」

「全部の道はみたでござるからな、先に行っているでござろう」


 グレイが扉に触れるとひとりでに扉が動き出す。

 ゆっくりと開いた先には


 仁王立ちする巨大なゴーレムと、斧を振り回すゾンゴン。

 そして、ゴーレムの頭からは下半身が生えている。

 ユーフォの体がゴーレムの頭に突き刺さっていた。


「な、なんじゃこりゃ!?」


 


 





 

 


 

 

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鉄人ユーフォ ミニッツメン @16443

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