間奏

1.



 ヒロトと出会う以前から、サナはSANAとして音楽活動をしていた。そこそこ名の売れたインディーズバンドのボーカルとして。メジャーからの誘いもいくつかあった。そのうち、このバンドでプロとしてやっていくのだろうと、漠然と思っていた。──ヒロトと出会うまでは。

「なんで、このバンドで歌ってるんですか?」

 当時まだ高校生だったヒロトが、サナと出会って、最初に放った言葉がそれだった。

 出待ちの女の子に紛れて、彼は居た。サナを含めて、その場に居たバンドのメンバー全員が唖然としたものだ。袋叩きにあっても文句の言えない状況。実際、サナがその場を収めなければどうなっていたか判らない。ちなみに、この時の話は後々まで『Owl's notes』内で語り継がれる事となった。

 それ以降、二人は連絡先を交換して度々会うようになった。ヒロトは顔を突き合わせる度にサナを勧誘した。サナは、ヒロトの特異な人格には多大な興味を抱いていたが、引き抜きに関しては一切耳を貸さなかった。今のバンドで既にそこそこの成功を収めているサナが、どこの誰かも判らない一高校生の引き抜きに応じる道理は無い。

 ヒロトが打ち込みをやっていて、ネットを中心に活動しているという事は聞いていたが、彼がどんな曲を書くのかまでは知らなかった。

 そんなある日、サナにメールが届いた。PC用のメールアドレス宛てに。送信者はヒロトだった。件名は『とりあえず曲作りました』。本文には、歌詞と、音楽ファイルへのリンクが二つ張ってあった。ひとつはボーカル入り(VOCALOIDによるものだった)、もうひとつはオケのみの音源だった。

 三日後、サナはそのメールに返信をした。自身のボーカルとMIXした音源を載せて。

 その日から、サナの声はヒロトのものになった。

 ヒロトと組むようになって初めて、サナはヒロトの経歴を知った。知る人ぞ知る、ネットレーベル『Owl's notes』の創設メンバーにしてメインコンポーザ。最近は、サウンドチームとして商業ゲームにも楽曲を提供したりしている、もはやプロと言っても差し支えの無いクリエイターだったのだ。

 サナはその事を知っても、さして驚かなかった。既に、ヒロトの曲を聴いていたから。

『Owl's notes』に入る時、サナはヒロトにこう言った。

「俺の声をお前にやる。そのかわり、約束しろよ? いつか、世界一のコンポーザになって、世界一の歌を作れ。んで、それを俺に歌わせろ」

 人知れず交わされたそれは、ヒロトとサナの契約だった。

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