Mission2

Working

 代わり映えのしない空の下、悪魔は今日も仕事に励む。

 人の欲望を糧にして、彼らは今日も屍を積む。

 

『さぁ、本日は仕事日和です。張り切って行くのです』


「今日も、の間違いじゃないのか?」


『当然です。雨だろうが晴れだろうが放射能が降り注ごうが屍が生えようが、私達にとっては関係ないです』


「たまには安息日が欲しいところだ」


『昔の諺にこのようなものがあるそうです。"毎日が月曜日"。エコノミックサムライと呼ばれたジャパンの企業戦士は毎日18時間休みなく働くのが普通だったと言われてますです』


「サムライ恐るべし、だな」


 いつも通り、無駄口を叩き合う。

 彼とオーヴァーフェイトにとって、このやり取りは一種のゲン担ぎのようなもの。特に意味がある訳ではないが、習慣のようなものだ。

 一時期は無駄話をせずに、効率を追求して用件のみを伝え合っていた時もあったが、長くは続かなかった。結局のところ二人にとって、気分を切り替える為のリラックスタイムなのだろう。


『私達もそうあるよう努力しましょうです。それでは今回の依頼の確認をするのです』


 今回もまた常の如く、ろくでもない依頼。

 だからと言って彼もフェイトも、声や表情に険を滲ませたりはしない。例えどのようなものであっても、彼らにとっては等しく仕事だ。


『依頼主はエコーエレメンタル。ミッション内容は殲滅戦です』


 フェイトの言葉に合わせ、コックピットのホログラムが開かれる。表示されるのは目的地、サラム研究所の館内マップ。


『こちらの研究所が占拠されたです。テロリストによる犯行とのことですが、恐らくは毎度の陣地争いです。調べましたところダイホー辺りの手引があったようです』


 テロリストによる破壊。暴徒による襲撃。犯罪者によるハッキング。

 その内の大半は、他の企業の手が入っている。ライバル企業を蹴落すために、成果を探るために、盗むために、妨害工作を行うのは日常茶飯事だ。

 少し探ればすぐに分かること。だからと言って表立って追求したりはしない。なぜならば、被害者である企業もまた、加害者として同じようなことをどこかにやっている。もしどこか一企業が文句を言ったとしたら、逆に追求されるだけ。お前の所はどうなんだ、と。

 だから暗黙の了解として、第三者による犯行という形になる。例え証拠を掴んだとしても、それを振りかざすことはない。

 勿論、どの企業も証拠を残さないように徹底している。もし発覚してしまえば、喜々として同じように報復を送り込むことができるのだから。

 

「相手の陣営はどうなんだ?」


 彼らにとって重要なのはどこが手引したかではなく、誰を手引したかだ。

 フェイトはそれを調べる過程でダイホーの痕跡を掴んだが、だからと言ってそれを依頼主であるエコーに伝えたりはしない。売れば高値になるだろうが、それは企業付のやることだ。一箇所に属するならそれもいいが、彼らはフリーという立場。ダイホーから依頼を受ける可能性を潰したりはしない。

 これが落ち目や潰れかけの企業であれば安値で叩き売ることもあるが、ダイホーは中堅どころ。無用な手立てをするつもりはなかった。


『喜ぶがいいです。傭兵の関与はなし、前回と同じく扇動によるものです。今回はシャイターンも関わっていないのです』


「それは朗報だ」

 

 フェイトの報告に喝采を上げる。

 企業の工作には、傭兵が関わることも多い。そう言った傭兵は、大体が腕利きだ。雇う側の企業が凡百の役立たずを手引することはまずない為、その場合は難易度が跳ね上がる。例え相手がウォーロックではなかったとしても、油断はできない。

 特に《ブラッディマンス》を筆頭とする傭兵組織が関わっていれば、依頼金の見直し、場合によっては撤回が必要となってくるレベルだ。企業側もそれが分かっているから、事前に情報を渡したりはしない。

 依頼を受ける前にも受けた後にも、調査を欠かしてはいけないというのは常識だ。信頼が第一の傭兵稼業ではあるが、それに拘って引き際を見誤っては何の意味もない。


『ただし事前に用意された装備と、研究所内に残された兵器を再利用しているようです。余計な損害を負って修繕費を無駄遣いすることの無いよう注意してくださいです』


「ああ、分かっている。油断はしないさ」


 ただし、最新兵器の更に上を行くシャイターンの性能でも、決して無敵という訳ではない。

 対戦車ライフルを100発も喰らえば穴が開くし、RPGやスティンガーが直撃すればそれなりに損傷はする。普通に動いていればまず当たらないとは言え、過去には旧時代の兵器でシャイターンと渡り合ったような化物も数えるほどだが存在している。

 滅多にあり得ることではないが、注意しておくに越したことはない。


『それならばいいのです。目標まで間もなく、ポイント上空に到着次第切り離しますです』


「了解した。暫く今晩の献立でも考えておいてくれ」


 『グレイトフルデッド』の今回の主武装は前回と同じく、ハンドマシンガン『ウィザード・ディアボラカスタム』とレーザーブレード、『TRV-ミッドナイト』。

 両腰に格納するサブ武装は、制圧用にエコーエレメンタル製のガトリング『FW/TTG-121』とボファス・クーガ社のショットガン『PARANOIA-mdl3』。

 弾幕による面制圧を行う為、両肩には追加弾倉『GLSH-nd2』を装着している。


「グレイトフルデッド、行くぞ」


『成果を期待しているのです』


 輸送ポイント上空でヘリより切り離され、ブーストをかけて落下。

 自動迎撃システムにより発射されてくるミサイルを加速することで引き離し、目標のサラム研究所へと降下する。

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