第8話 その5
――いいぞ、いける。勇は戦闘空中哨戒を行うウィーゼル編隊の二番機、ウィーゼル二四として空域を俯瞰しながら、誰知らずコックピットの中で頷いた。
二段構えの作戦――まずセルビアIADSを無力化し、次に強力な
早期警戒管制機、JSTARS、U‐2、その他各種無人機などを十数機体制で飛ばして陸・空の監視体制を整備。またEQ‐4B
空中給油機の群れが作戦機の腹をジェット燃料でなみなみと満たし、
午前四時二十分。地中海に展開し、波間に命令を待っていた米第六艦隊の艦艇が暗号通信を受け取る。その数分後、空母「リチャード・ニクソン」から二機のMH‐60S(シエラ)多用途ヘリがSEALSの隊員を乗せてセルビア沿岸に向け飛び立ち、作戦開始の合図となった。
ヘリユーゴ沿岸到達は十数分後。突入環境を整える為、まずトルコ空軍のF‐16がユーゴ領空ギリギリまで進出する。だが正確にいうと、一番槍は彼らではない。その「栄光」を担うのは、F‐16から放たれたADM‐160 MALD。空中発射型の囮だ。様々な機体のレーダーシグネスチャーを再現できるこの無人兵器を敵の領空に侵入させ、IADSを刺激する。
こちらの狙い通り、セルビア側のSAMは囮に殺到した。安全圏から攻撃の様子をつぶさに観察したNATO側部隊は直ちに正確なSAM陣地の場所と種類を割り出す。場所が分かり、種類が分かれば後は的当てのようなものだ。EA‐18Gによる電子的防御を受けたイタリア空軍のトーネードとスペイン空軍のホーネットが、それぞれ翼下にHARMとJDAMを満載してユーゴ領空に侵入。既知のSAMサイトはJDAMで、またポップアップSAMはHARMで、虱潰しに破壊する。
更にダメ押しでトルコのF‐16がBLU‐114「ソフト・ボム」――グラファイトのフィラメントをばら撒き電力設備を短絡させる特殊兵装――を満載した
ここまで、大体三十分。経過を頭の中で整理した勇は、IADS無力化が達成されたと自信を持つ。だがもちろん、安心するにはまだ早い。作戦はやっと第二段階へと入ったばかりだ。
つい先ほど、二機のヘリ、コールサイン「サンディ」がユーゴ領空に侵入したと報告が入った。オルズ中佐のいる地点へと地を這うように飛行している彼らが目的地にたどり着けなければ、第一段階の成功はすべて水泡に帰す。そして当然――敵はこちらの失敗を望んでいるのだ。
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