第4話 その8

「さて、みんな揃ったな」


 火曜日、朝七時。勇は居並ぶ面々を見渡しながら言う。


「それじゃあこれより第……何回目だっけ? まあいいや、バンド・オブ・ユニティ参加者有志による勉強会を始めます」


淡々と議事進行に努める勇を、場の皆はイマイチ状況を飲み込めていないように眺めている。まあ、無理もない。場所こそいつもの会議室だが、その様子は「いつも」とだいぶ違っている。


まず召集をかけたのが勇という時点で大分異例だ。人の配置も普段のように円を囲って車座になるのではなく、壇上に立つ勇を一列に並んだ皆が向かい合って眺める形。更に手元には数枚のレジュメ。勇が徹夜で作った力作である。そして何より極め付けの違い。


「……あのね? 確かに私、協力するとは言ったわよ? でもね? 昨日の今日よ? 朝っぱらにいきなり拉致よ? もう少しどうにかならなかったのかしら」

「ま、いいじゃんかよ。どうせみんな今日はナイトまで飛ばないんだし。ところで君、かわいいじゃん。名前は? ウィルマ? じゃあウィラって呼ぶよ。今度遊びに行かない?」

「細かい事を気にしてもストレスがたまるだけだよ。大らかにいこう。ちなみに君、えーっと、アリス・ウィンザーさんね。アリーって呼んでもいい? よかったら今晩飲みに行こうよ」


 というわけで、新顔三名。某王女様のやり口を見習って半ば強制的にご参加頂いた訳である。


突然の増員に原加盟メンバーの反応は様々だ。まずジェニー。酒場で一戦交えた三人の登場に腹立たしげな舌打ちを繰り返しているが、いきなり突っかかってかないのは彼女なりに自重しているのだろうか。ニールは早くもサビハに粉をかけて思いっきり無視されている。逆に口説かれている側になったのはウィラとアリー。ウィラは「あーすいませーんちょっと最近忙しいんですよーまた今度みんなで遊びましょうねー」と巧みにマリオをいなし、アリーもアリーでハビエルのアプローチを「はいはいそのうちねー」と面倒そうに押しのけている。


「おいジャップ。早いところ本題に入れ。もったいぶりが許されんのは大統領と教練指導官(DI)だけって相場が決ってんだ」


 この場で唯一フリー状態となったジェニーが、だからというわけではないだろうが短気に促す。まあ確かに、男共が女性陣を本気で怒らす前に話を進めなければいけない。勇は教壇に手を付けて皆を見回す。


「オーケー、じゃあ結論から言おう。俺たちが演習で結果を出せない理由が判明した。それと、問題を解決する方法も。うまくいけば劇的に戦績が向上する」


 言った瞬間、壇上を見上げる皆の雰囲気がざわりと揺らいだ。勇はその反応に満足して頷く。


「と言っても、そんな大層な事じゃないんだ。結局、俺たちが物事を一歩踏み込んで見ればいいだけだった――つまりな、作戦に毒が仕込まれていたんだよ」

「毒って……JFACCの作成した作戦計画に問題があったって事か? でも、発行されたATOは別に問題があるように思えなかったよ?」

「俄かには信じられん。教えてくれ、一体どこにそんな魔法の弾丸が見つかったんだ?」


 ハビエルとマリオが勢い込んで聞く。流石の彼もナンパより勇の話に対する興味が勝ったらしい。自分の成果に対する成功指標としては、これ以上ない程のものだ。つかみは上々、といったところ。あとは皆に中身を理解し、受け入れてもらう事が重要である。


「皆が疑うのは当然だ。けど、まずは聞いてくれ。順を追って説明するから――」

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