第4話 その1

演習二日目。

「実に奇妙だ。私は昨日、反省するようにと強く言ったつもりだったのだが、まるで改善の兆しが見えない。それともあれは白昼夢だったのか? ならば現実と夢中を取り違えた私の責任だ、謝罪したい。しかし二度も同じ間違いを犯すほど愚かなつもりはないし、もしこの場すら夢だとしたら私はいよいよ精神科に通う必要がある。米軍の医療保険費を圧縮するためにも明日は今日よりマシな結果を出してほしいものだ」


三日目。

「軍隊生活というのは得てして娯楽に乏しいものだが、ここ数日というもの私はまったく休まる暇も無いほどに楽しんでいる。この会議室に立って諸君らのすばらしい戦果を確認するのは人生に二度とはないだろう衝撃をもたらしてくれるからだ。ここで一つ提案だが、いっそのこと諸君らはコメディアンか何かに転職したらどうだろうか? 私が思うに、それがお互いの精神衛生にとって一番良いだと思うのだが」


四日目。

「非常に興味深い。曲がりなりにも兵隊としての教育を受けた諸君らが、何故このような結果を続けざまに出せるのか、非常に興味深い。私は最早それを明らかにするためだけにこの演習を続けているようなものだ。ぜひとも期待にこたえてくれ。ところで普通ならばあえて念押しする必要がない事だとしても想像力の欠けている諸君らに限ってはしっかり伝えておかねばなるまいと思うから言うと、今のは皮肉だ」


五日目。

「日本には『たとえブッダだろうと過ちを許すのは三度までである』という諺があるらしい。ところで今日は演習がはじまってから何日目だろうか? 少なくとも三日は過ぎているはずだが、私はまだ諸君に対して最大限の優しさを持って接しているつもりだ。そうすると私はブッダにも勝る忍耐力を身につけているという事になる。さて、それで私はあと何日耐えれば諸君らの首を撥ねて回る許しが出ると思う? 是非教えてくれ」


六日目。

「…………………もういい。解散」

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