罰当たりな男

よろしくま・ぺこり

罰当たりな男

 ええ、私は子供の頃から気が弱いというか、臆病というか。なんでもすぐに逃げ出したくなる性質でした。体育で跳び箱や、逆上がりがあるときや、算数の試験。書道の授業。給食に大嫌いな豚肉が出る日など、とにかく嫌なことがあると、神に祈ったものです。「富士山を噴火させてください。学校を休みにしてください」と。そりゃあ、必死に祈りましたよ。本当に嫌だったからです。でも富士山は噴火してくれませんでした。私は結局、嫌な授業を受け、脂身たっぷりの豚肉を食べる羽目になったのです。その日に、イタリアの火山が噴火したなんて、小学生の私は当然知りませんでした。中学、高校に入っても嫌なことはたくさん起こります。その度に私は「富士山を噴火させてください。学校を休みにしてください」と必死に祈りました。でも富士山は噴火をしない。代わりにスペインの火山や南米の火山が噴火しました。ここまでくれば、勘の鈍い私も気づきましたよ。私が富士山の噴火を祈ると他の地域の火山が噴火すると。私は恐れ慄きました。自分のトンチンカンなパワーに。自分のために役に立たず、他人に迷惑をかける、禁断の言葉「富士山を噴火させてください」を私は心の奥に封印しました。

 社会人になっても嫌なことは続きます。でも私は、あの言葉を使うことはしませんでした。しかし、大事なプレゼンの前の日に、大事な資料を電車に置き忘れるという、失態を犯した時、私は思わず、違う祈りを捧げてしまったのです。「関東大震災が起きますように。プレゼンが中止になりますように」と。翌朝、テレビをつけると異様な光景が写っていました。高速道路が横倒しになっている。阪神淡路大震災でした。私のパワーは富士山噴火だけではなかったのです。本当に、被害に遭われた方には申し訳ない。私は心から反省し、自然災害など、起きることを祈るのはやめようと思いました。

 しかし、また私はやってしまいました。その頃私は蒲田で小さな工場を経営していたのですが、メインバンク東洋花菱USOの裏切りにあい、不渡り手形を出してしまいました。このままでは倒産です。思わず私は祈りました。「関東をめちゃくちゃに破壊する地震よ起これ」翌日の午後です。超列な揺れが起きました。「やった。関東大震災だ!」私は思いました。でも違いました。東日本大震災でした。私はまた多くの人の命を自分の欲望のために損なったのです。

 そこまで聞いた俺はこういった。「関東大震災を起こしたければ東日本大震災を祈ればいい。富士山を爆発させたいならヨーロッパの火山を噴火するよう祈ればいい」俺の言葉に、男は呆然とした。「契約金一億円だ。まずはイスラム国粉砕のため、アメリカの大統領の死を祈ってもらおう」俺は言った。

 作戦は大成功を収めた。北朝鮮を崩壊させるため、韓国大統領の死を祈らせた。イスラム過激派の首領を殺すため、レディガガの死を祈らせた。両方とも成功裡に終わった。

「社会貢献できて嬉しいです。自信がつきました」男は明るく言った。「次は何をすればいいでしょう?」男は言った。「アフリカ、タンザニカ共和国のテロリストを動かせなくするため、キルモンジョロ山を噴火させて欲しい」「はい。では富士山噴火を祈ります」男は祈った。

 日本国の象徴、富士山が噴火したのはみなさんご承知のとおりである。男は不安を持って祈っていたから他の場所で災害が起きたのだ。それを自信を持って行ったのなら。

 つくづく、罰当たりな男である。

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