告白2
「他の人間達は、やはり結局のところ私を恐れていたのでしょう。私を痛めつけたその後は、逃げ帰るように消え去ってしまった。もうこの教室に残っているのは貴方一人です」
その言葉に、私は心臓を突き刺されたようだった。私の足は防衛本能と共に後ずさる。森ちゃんは夕焼けで金色に光る眼球を私に向けた。
「分かりますよね。貴方はわざわざ怪物の巣に無防備で来てしまった。さっさと逃げればよいものを、愚鈍な貴方はそれに気付かず暢気に居座ってしまった。それが運の尽きです」
森ちゃんは不気味な笑みを貼り付ける。
「死んでください」
森ちゃんは私の首を前から掴んだ。気管がゆっくりと押しつぶされていく。
私は森ちゃんの手首を掴む。森ちゃんは嗤ったままだった。徐々に喉にかける力を強くしていく。
私は少しでも喉が楽になりたいと、森ちゃんの手首を必死に握る。
苦しい。酸素が奪われる。私はこのまま、死ぬのだろうか。高橋君と同じように、もう二度と動き出すことのない死体になるのだろうか。
森ちゃんを前にして、その考えは相応しいように思えた。〝怪物″と呼ばれる少女になら、殺されたって文句は言えないのだろう。私は無力だった。ただ弄ばれて殺されるだけの存在だ。それは分かってる。分かってるつもりだった。
けれど何だろう、この胸の奥底から湧き上がってくる気持ちは。生への執着だろうか。やり残したことがあるのだろうか。
私は平凡な女の子だ。何の力もなくて、まだ何の夢もなくて、ただ少し料理が好きなだけの、周りの才能ある人たちの中にすぐ埋もれてしまって消えてしまうような、そんな存在だった。それを悔しいと思ったことはない。漫然と自分の無力さを受け入れていた。黄色の花の髪飾りで自分を着飾ってみても、ちっとも可愛くなくて、みじめな思いをするだけだった。
私は森ちゃんみたいになりたかったのかもしれない。
綺麗で、どこか愁いを帯びていて、周りと隔絶している。そんな森ちゃんに、私は憧れていたのだろう。無個性で取り得のない私は、森ちゃんの放つ、黒くて美しい矛盾した輝きに魅せられた。森ちゃんの持つ孤独の光に。冷たい輝きに――
感じたのは、冷たさだった。
私の喉に絡みつく森ちゃんの指先が、あまりにも冷たい。可哀そうだと思った。凍えるような感覚が喉から伝わってくるようだった。ああ、こんなことを思う私はおかしいのかもしれない。今にも殺されそうになっているこの状況で、私が思ったことは――
森ちゃんのこの手を握り、温めてあげられたならどんなにいいだろうって。
そう、思った。
気が付けば、私はくぐもった声を発していた。
「森ちゃん。私、森ちゃんの事が好きなの」
私の言葉が、狂気に満たされた教室に溶けていった。
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