第83話 パイレンとグレイの過去

翌日、リーダーの指示で五人組の班に分かれて作戦が開始された。

気のあった者同士が集まるのが普通なのだが、どこでも余る者はいる。グレイもまたそのように余り者であったが、パイレンもまたそこに加わっていた。


「俺のところに来てよかったのか?みんなに誘われたみたいじゃないか」


「どこに行っても同じなら、パイが自分で選んでいいでしょ?だからグレイのところに来たの」


「そういうもんなのか。じゃあ作戦地点までは俺についてきて。始まったら後は各自に任せるけど、撤退の指示にだけは従うように」


「はーい」


グレイは班長にされていたが、返事をしたのはパイレンだけだった。

他のメンバーは若い鬼人族であり、面倒くさいことを嫌ってグレイに押し付けたからだ。その全員がパイレンにいいところを見せようと張り切っていたが、コミュニケーションの苦手な余り者たちなのでその気合いが表に出ていなかった。


「みんな元気ないねえ」


「戦いに備えてるんだろ。相手は数が多いらしいし、パイレンも体力を温存しておいた方がいいんじゃないか?」


「パイでいいよ。パイは返事程度で体力なくなるほど弱くないよ」


「……パイはもっと抑えめでいこうな」


「?……何が??」


班員たちが不機嫌な顔でグレイを睨んでいたのだが、パイレンはそれを見ていなかった。


パイレンはその性格から冒険者の間では人気があった。

いつも明るく楽しそうにしていて、誰とでも分け隔てなく接する。しっかりと筋肉のついた身体つきをしていて、身だしなみに気をつけている。

そんな彼女に想いを寄せる男は多かったが、特定の誰かと親密な仲になることはなかった。

もともと他人に対する興味が薄く、表面的な付き合いが多かった。同性の友人と恋バナをすることはあっても、いつも聞き役だった。

だからその時もいつものこと・・・・・・だと、パイレン自身が思っていた。


「ねえ、グレーは付き合ってる人といるの?」


「いないけどよ、今はそんな話してる場合じゃないだろ?」


「だってずっと待ってるだけじゃあ退屈じゃない?ちなみにパイも今はフリーだよ」


「話がしたいなら後にしてくれ。モンスターの気配が近づいて来てる、装備を確認しとけよ」


「でもまだ来てないじゃん。見えてからでも間に合うっしょ。だからお話ししよーよ、好きな異性のタイプとかさ」


パイレンにウザ絡みされるグレイは、背筋に班員の視線を感じて身震いする。


「そうだ!パイは強い男は好きだろ。だったら今回の仕事で俺たちの中で誰が一番多くモンスターを倒せるか競争しよう」


グレイの提案に、男たちが顔色を変える。遠くに現れたモンスターを見て、全員がやる気に満ちた顔をした。


「競争なら賞品とか決めない?」


「俺は金がないから……すっごい褒めるとかくらいしかできないぞ」


「うん、それでいーや。よしみんながんばろーねー」


パイレンのかけ声に、男たちは大きな声で応えた。



その日の仕事は、グレイたちのグループが一番の成績を上げた。若くやる気に満ちた鬼人族の集団が走り回る様子は、さながら小さな災害のようでもあった。


拠点では料理と酒がふるまわれ、宴会のようになっている。そこでグレイ達は好成績を称えられ、いい気分で飲み食いしていた。


「お疲れさま!今日はみんながんばったね」


「つ、疲れた。叫びすぎて喉が痛い」


グレイは獲物を求めて勝手に動こうとする班員をまとめることに必死で、モンスターの討伐に集中できなかった。結果は当然ながら最下位だ。


「そして一番多くモンスターを討伐したのは……」


パイレンが自分でドラムロールをしながら手で指し示す。


「三人、同率一位でーす。おめでとー!」


「「「うおおおーーー!」」」


鬼人族の三人が肩を組んで雄叫びを上げる。酔いの回った顔で息の合った踊りを披露し、周囲の者たちから喝采を浴びていた。


「すごかったね-。あんなに強い人たちだって聞いたことなかったな。グレーはどう?」


「パイにいいとこ見せたかったんだろ?実際スゴかったけどな」


「そうだねー」


男たちが注目を集める後ろで、二人は並んで座っていた。


「そういえばさ、話をしてくれるって言ってたよね?」


「ああ、そういえば。でも何か話すようなことあるか?明日もあるし、早めに終わらせたいんだけど」


「あるよ、聞きたいこと」


グレイがチラリと横目で見ると、パイレンの顔が至近距離に迫っていた。


「な、なんだよ」


「グレーってさ、何を怖がってるの?」


「え、こわ?」


「なんか、壁っていうの?そういうのを感じるの。パイたちってもう同じ所で戦った仲間じゃん?だから変な気なんて遣わなくていいからさ、なんでも言ってほしいって思うの。どうなの?」


「俺が、怖がってる?」


グレイはパイレンの言葉に戸惑い、顔をゆがめた。しばらく悩んでからコップに残った酒をぐいっと飲み干し、真面目な顔つきになって言った。


「パイの言うとおりなのかもしれない。俺は、他人と必要以上に仲良くなるのが怖いんだろう」


「それは、どうして?」


グレイは声をしぼりだすようにして言った。


「俺は、親に捨てられたんだ」

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